スマートスピーカーの普及によって、音声認識が持つ力に注目が集まっている。そしてパブリッシャー側は、メタデータについてさらに深く考える必要性が増してきた。なぜなら、スマートスピーカーは複数の選択肢を目に見える形で提供してはくれず、ひとつの答えしか返してくれないからだ。
スマートスピーカーの普及によって、音声認識が持つ力に注目が集まっている。そしてパブリッシャー側は、メタデータについてさらに深く考える必要性が増してきた。
パブリッシャーは、Googleやそのほかのポータルサイトでの検索エンジンの最適化(Search Engine Optimization)におけるメタデータの重要性は認識しているが、状況はもっと複雑化している。というのも、スマートスピーカーは複数の選択肢を目に見える形で提供してはくれず、ひとつの答えしか返してくれないのだ。
メタデータの充実が課題
10月第1週に開催されたアドバタイジングウィーク(Advertising Week)のパネルセッションで、「音楽プレイリストの作成やキュレーションに力を入れるうえで、メタデータを充実させることが大きな課題のひとつだ」と語ったのは、UMG(ユニバーサル・ミュージック・グループ)でコンテンツの企画運用部門のEVPを務めるバラック・モーフィット氏だ。「かつてウォークマンが音楽を個人で楽しむものに変えて以来、スマートスピーカーは、音楽をみんなで楽しむものへと変えはじめている。これこそ聞き手が望んでいることだ」。
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UMGのようなレーベルでは、新旧に関わらず、所属アーティストのメタデータの入力が仕事の大きな割合を占めるようになってきている。これは、DJではなくアルゴリズムによって自動生成されたプレイリストを提供するSpotify(スポティファイ)やパンドラ(Pandora)、そしてそのほかのストリーミングサービスの台頭とともに、すでに不可欠の要素となっている。加えて、Amazon Echo(エコー)やGoogle Home(ホーム)、そしてAppleのHomePod(ホームポッド)といった、シンプルな操作で音楽を再生できるスマートスピーカーの幅広い普及によって、その重要性は顕著なものになった。UMGのようなパブリッシャーにとって、メタデータの入力作業には相当な労力が必要だが、そのほかのメディアと同様、最終的な目的は、顧客がいる場所で彼らにリーチすることだ。そして、多くの顧客がスマートスピーカーを購入しているのは明らかだ。
「総じて、いまは顧客が力を握っている時代だ。こうした機器を動かすうえで、音声がいわばプロキシとして機能している。スマートスピーカーは検索エンジンであり、その検索結果を疑うものなどいない。データを管理・運用する相手を選ぶことはできない」と、検索インテリジェンス会社のキャプティファイ(Captify)の創設者兼CEO、ドム・ジョセフ氏は語る。
より複雑化した顧客の要望
パンドラでデータサイエンス部門のディレクターを務めるシドハース・パティル氏によると、モバイル端末の画面から音声に移行することによって顧客の要望や反応はより複雑化したという。パティル氏のチームは、最近のリスナーは単に曲に「いいね!」または「よくないね」を付けるだけではなく、「もっと深みのあるボーカル」や「もっとテンポの早い曲」を要求しており、曲のリクエストも複雑化している。たとえば、あるリスナーが「Alexa(アレクサ)、トレーニング向けの曲をかけて」と語りかけたときには、そのような曲を持っていることはもちろん、そのときの気分にぴったり合った曲をおすすめすることが求められる。このような場合、ブリトニー・スピアーズの楽曲「ワークビッチ(Work Bitch)」や映画『ロッキー』のテーマソングなど、元気の出る曲には適したラベルが付けられている必要がある。
「特定のアーティストや曲をリクエストするのではなく、そのときの気分や、いま何をしているかを言うだけ、ということもある。持っている楽曲を音楽学的な目線で理解している必要があるだけでなく、それを感情や気分、行動、そして、そのほかの要素と結びつけていることがもっとも重要だ」と、パティル氏は語る。
モーフィット氏によると、UMG内の彼のチームは、気分や行動などの「ライフスタイル属性」に応じて曲を並び替える、という実験を行っている。「我々のパートナーは、現在はこのデータを受け入れてさえくれない状態だが、メタデータのスーパーセットを作りあげて、この手法で業界をリードしたいと考えている」と、モーフィット氏は語る。
需要は音楽の枠を超えて
もちろん、メタデータの需要は音楽の枠を超えて大きくなっている。特にAmazonのAlexaのように、ひとつの答えしか返してくれないデバイスの場合、小売側が競合して生き残るのは難しくなるだろうと、Amazonのエコー経由でドレスを探すときの例を挙げて、ジョセフ氏は語る。実際、音楽と同様に小売でもAmazon自身が商品を提供している以上、業界側は用心深くならざるを得ない。UMGのモーフィット氏によると、Amazon Music(ミュージック)が成長した大きな要因は、Echo Dot(ドット)だという。
「Amazonがぴったりのドレスを選んでくれるとは思えないし、信頼もできない」と、ジョセフ氏語る。「AmazonやGoogleで利用されている以外の使い方も可能な、音声認識にとってオープンなエコシステムになれば素晴らしいことだが」。