いま、ショッパーマーケティングに注目が集まっている。ショッパーマーケティングといえば、以前はエンドキャップの購入やディスプレイの工夫といった程度でしかなかったが、Amazonをはじめとするオンラインリテーラーのおかげで、いまや新たな生命が吹き込まれている。
いま、ショッパーマーケティングに注目が集まっている。
ショッパーマーケティングといえば、以前はエンドキャップの購入やディスプレイの工夫といった程度でしかなかったが、Amazonをはじめとするオンラインリテーラーのおかげで、いまや新たな生命が吹き込まれている。エージェンシー勢は現在、ショッパーマーケティングをかつてないほど重視しており、これを受けて「ショッパー(購入者)」の捉え直し、予算の新たな配分、エージェンシーおよびクライアント内部における包括型「コマース」機能の登場など、さまざまな変化が起きている。
「ショッパーマーケティングには後ろ向きだった」と、大手広告代理店ワンダーマン・トンプソン・シアトル(Wunderman Thompson Seattle)のチーフクリエイティブディレクター、アンソニー・リーヴス氏は明かす。「しかし、それはもう過去の話だ。いまは何より、ブランド(チーム)とショッパー(チーム)が協力し合わないとならない」。
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支出割合は2倍増
ショッパーマーケティングには本来、「即時的」機能が期待される。つまり、買い物中のショッパーのニーズを理解し、その場でそれに応えることだ。だがいまやそれが一変している。広告主は、Amazonが中心ではあるが、他のリテーラーのメディアオペレーションにもますます多くの予算を投じている。ただし、その金の出所は「ショッパー」予算だけではない。いまや、ブランド用の予算もそこに回されている。
たとえば、Amazonはもはやリテーラーというだけではない。その巨大なメディアプラットフォームゆえに、ブランドマーケティングプラットフォームとも見られている。最近の消費者は他サイト、多くの場合Googleで調べる前に、リテーラーのウェブサイトに向かう。マーケット調査会社ジャンプショット(Jumpshot)のデータによると、2015年から2018年にかけてAmazonは商品検索に関してGoogleを上回っており、いまや検索の実に半数はAmazonからはじまるとも言われている。
世界最大の一般消費財メーカーP&Gやビール大手ハイネケン(Heineken)といった有名ブランドも現在、オンラインショッパーマーケティングになおいっそう力を入れており、その予算の大部分はAmazonに割かれている。米投資銀行/証券会社モルガン・スタンレーの概算によると、トレードマーケティングに費やされる金額は年間約1780億ドル(約19兆円)。調査会社シエラント(Cierant)によれば、巨大企業でさえ従来のマーケティング費を削減するなか、ショッパーおよびトレードマーケティングへの支出割合は2倍増を記録している。ショッパーマーケティングの調査分析を専門とするフォーサイトROI(Foresight ROI)の概算では、その大半がスーパーセンターかクラブに行っており、食品雑貨類が約25%、他が26%となっている。
実際、ショッパーマーケティングは成長著しい分野だ。今年、同分野の専門家50人に市場調査会社GfKが話を聞いている。それによると、ショッパーマーケティングは現在、以前よりもかなり重要視されており、ショッパー(購入者)の定義自体も広くなっているという。加えて、バイヤーらによれば、ブランド勢のなかにも従来のブランド予算を「ショッパー」チャンネルに回すところが増えているようだ。これは両者の境界線がますます曖昧になりつつあるからだという。
D2Cブランド勢の台頭
いわゆるダイレクトトゥコンシューマー(D2C)ブランド勢の台頭というプレッシャーもある。D2Cブランドにはそもそも部署別の予算という枠組がなく、そのため多くはとりわけ成長拡大期に、ショッパーマーケティングとブランドマーケティングを積極的に併用し、両者をあえて分けて考えない。
「D2Cブランドの強みは、鍵となる消費者を確実に狙い撃ちできる能力にある」と、大手広告代理店ピュブリシス・メディア(Publicis Media)北米オフィスのEVPでコマース・プラクティスのトップ、エイミー・ランジー氏は語る。「多くの企業にはサイロ化という悪習があるが、彼らにはそれがない」。
グローバルメディアエージェンシーネットワーク、マインドシェア(Mindshare)のショップ+(Shop+)でエグゼクティブディレクター兼トップを務めるジェフ・マルマド氏によれば、消費者行動は変化しており、それを受けて、リテーラーも商品を調達提供するだけの存在ではなくなりつつあるという。
「リテーラーにはいまや、よりフリクションレスな(煩わしさのない)ショッピング体験が提供できる。つまり、各消費者が必要としているブランドを念頭に置き、そのうえで各々にリーチするという、より丹念な業務活動が一般的になっている」。
デマンドサイドの混乱
バイヤーによれば、こうした変化の一部はエージェンシーに対する下向きの圧力のせいもあり、エージェンシーは現在、より高い実績と説明責任に基づく精査という宿題を課されているという。これはつまり、いわゆる「全国区のメディアエージェンシー」がいきなり、個々のショッパー(購入者)に関心を寄せるようになったことを意味する。
こうした原理原則をショッパーメディアに適用すれば、ショッパーマーケティングはたちまちより興味深い、より豊かなものとなる。だからこそ、たとえば、WPPグループのマインドシェア(Mindshare)はショップ+(Shop+)を立ち上げたのだと、マルマド氏は語る。
「ブランドはもはや、ショッパー(購入者)とどのように、そしていつ交流するのか、自分勝手に決めることはできない」と、メディアエージェンシー、スターコム(Starcom)のSVPで、米食品持株会社クラフト・ハインツの元eコマース部トップ、マイク・モンタグナ氏は語る。「彼らはショッパーのいる場所に自ら出向いていかなければならない。つまり、小売売上データから実際の購入をベースとするデータまで、さまざまなショッパーマーケティング方策の活用が欠かせないということだ」。
ブランド社内で、予期せぬ事態も起きている。大半の大手企業は伝統的に「ショッパー」と「ブランド」それぞれの専任チームを設けていた。だが、ショッパーマーケティングの重要性が増したことで、その構図に変化が生じている。
「コマース」スペシャリスト
「小売ショッパーデータは替えがきかないほど貴重だ。そこにはリーチするべきショッパーの具体像という、まさに現場でしか知り得ない情報があり、その有無は最終的に収益を左右することになる。クライアントはますます、eコマースとインストアの両チャンネルを介して売上を伸ばすために、リテーラープラットフォームをもっとも効率的に利用およびナビゲートできる方法を知りたがっている。そして、検索、ディスプレイ、スポンサーシップ、eメールといった分野において、それぞれどんな手法がベストなのかも」と、WPPのリテールエージェンシー、トライアド(Triad)CEOシェリー・スミス氏は語る。
ピュブリシスでは、エージェンシーブランド内にいるコマーススペシャリストの発見・育成にフォーカスしている。彼らの言う「コマースストラテジスト」の役割は、パフォーマンス指向の投資とブランド指向の投資とのバランスを取ることにあるという。
WPPでは、小売にフォーカスする数々の会社を積極的にワンダーマン・トンプソン・コマース内に取り込んでいる。ワンダーマン・トンプソン・コマースは現在1500人以上の従業員を擁し、コマースエクスペリエンスエージェンシーのゴリラ・グループ(Gorilla Group)やeコマースエージェンシーの2セールズ(2Sales)のほか、2017年にはマーケットプレイス・イグニション(Marketplace Ignition)も買収した。
「ショッパーマーケティング」エージェンシーにしてみれば、これは嬉しくもあり、怖ろしくもある状況だろう。自らの専門分野への関心が高まっている状況は、無論、ありがたい。だがその一方で、大手の、いわゆる総合メディアエージェンシーから買収を狙われているという感覚は、間違いなく存在する。
スミス氏はこれを反対の立場から見ている。持株会社が有するショッパーエージェンシーは何かと有利であり、実際、大手メディアエージェンシーまでもが続々と専門チームを立ち上げていると語る。
「とはいえ、リテールの現場を理解し、現場のペースに合わせて動くという細やかな仕事が巨大組織にできるのかどうか、ブランド勢は疑問視している。加えて、ショッパーマーケティングにより多くのデータが用いられるなか、ブランドはエージェンシーに対し、リテーラーやコンテンツパブリッシャーのなかで抜きんでた存在になれる手法に精通したエキスパートになることを求めている」と、スミス氏は語る。
双方のゴールの把握
また、適任人材の不足という事態も生じている。理想的な「コマース」スペシャリストとは、リテールに関するメディアオファリングを理解するだけでなく、それらを既存の予算内に戦略的に収める術にも長けた人物だと、ランジー氏は語る。そして、ブランドはかなりサイロ化しているため、ショッパーリードとセールスリード、ブランドマーケットリードを巧みにつなぎ合わせることがコマーススペシャリストには求められるという。
「マーケターという自覚だけでは足りないし、セールスパーソンという自覚だけでも足りない」と、モンタグナ氏は指摘する。「リテールとブランド双方のゴールの把握は、容易なことではない」。
エージェンシーとブランドのいずれのなかにも、カテゴリーマネジメント体制を重視するところが出てきており、各カテゴリーにモンタグナ氏の言う「ミニCEO」を置き、マーケティングからセールスに至るまで全側面に責任を持たせているという。「一人二役」と、モンタグナ氏はこれを評する。
Shareen Pathak(原文 / 訳:SI Japan)