新型コロナウイルスのワクチン接種を追い風に、ドラッグストアチェーン大手の ウォルグリーンズ (Walgreens)は短期的に売上を伸ばした。一方で、オンライン薬局との競争に備えるため、デジタルにおけるプレゼンスの強化と初期診療施設との提携に注力している。
新型コロナウイルスのワクチン接種を追い風に、ドラッグストアチェーン大手のウォルグリーンズ(Walgreens)は短期的に売上を伸ばした。一方で、オンライン薬局との競争に備えるため、デジタルにおけるプレゼンスの強化と初期診療施設との提携に注力している。
ウォルグリーンズ・ブーツ・アライアンス(Walgreens Boots Alliance)が7月1日(現地時間)に行った第3四半期の決算発表によると、当期の売上高は前年同期比12%増の340億3000万ドル(約3.7兆円)だった。ウォルグリーンズが第3四半期に接種した新型コロナウイルスワクチンは1700万回にのぼり、先の決算発表では、このワクチン接種が客足の回復、およびそれによる売上増に貢献した点も強調された。また、米国における処方箋の取扱件数は9%増の3億1200万件だった。経営陣は、化粧品と写真サービスの売上増にも胸を張ったが、小売全体の売上高は前年同期比わずか1%増の横ばいに終わった。
ウォルグリーンズ・ブーツ・アライアンスの新CEO、ロズ・ブルワー氏によると、現在、ウォルグリーンズは、自社の店舗を「地域の健康増進の拠点」とする構想を進めており、この取り組みの一環として、診療施設のビレッジメディカル(Village Medical)を併設した店舗の展開、およびデジタル化に注力している。
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郊外店舗での客足回復が貢献
ブルワー氏は、店頭でのワクチン接種は、第3四半期決算の重要ポイントのなかでも「特筆に値する事項」だと述べている。エグゼクティブバイスプレジデント兼グローバルCFO(最高財務責任者)のジェイムズ・キーホー氏は、ワクチン接種が小売と薬局の売上を押し上げ、店舗への客足を回復するなど、ある種の波及効果を発揮したと説明した。
小売店舗への客足動向を分析するプレイサー・ドット・エーアイ(Placer.ai)で、マーケティング担当バイスプレジデントを務めるイーサン・チェルノフスキー氏によると、ウォルグリーンズの店舗は都会よりも郊外に多い。競合のライトエイド(Rite Aid)とは対照的だ。この郊外店の多さは、ウォルグリーンズの客足回復を早めることにも貢献したという。同社の申告によると、8月現在の店舗数は、米国全域で9021店舗におよぶ。その多くが郊外に点在し、もっとも多い州は820店舗を展開するフロリダ州で、701店舗のテキサス州がこれに続く。コロナ禍の勃発後、これらふたつの州には新しい住民が数多く流入した。プレイサー・ドット・エーアイによると、ウォルグリーンズの客足回復はライトエイドよりも早く、前者の月間来店者数がコロナ禍以前の2019年から14.1%増えているのに対し、ライトエイドは20%減っているという。
チェルノフスキー氏によると、「現在、CVSとウォルグリーンズの両ドラッグストアは驚くほど有利な立ち位置にあり、ドラッグストアの需要増という時流からもっとも恩恵を受けていることは間違いない」という。
店舗販売では、化粧品の売上が15%増、写真サービスの売上が54%増だった。ウォルグリーンズは、2017年以来、美容分野への投資を積極的におこなってきた。直近では、ボウシャ(Boscia)のような話題性のあるブランドを仕入れる一方、もっとも人気の高いNo7の傘下に自社ブランドを再配置し、このカテゴリーに割り当てる棚面積を増やした。ウォルグリーンズの広報担当者がCNBCに語ったところによると、写真部門の好調は、主にパスポート写真の需要回復によるものという。
顧客体験のパーソナライズ化に投資
一方で、これらふたつのカテゴリーは好調でも、小売部門の業績は相対的に横ばいであると指摘するアナリストもいる。
たとえば、グローバルデータ(GlobalData)のマネジングディレクターを務めるニール・ソーンダース氏は、メディアへの電子メールによるコメントのなかで、次のように述べている。「米国の消費者がこぞって買い物三昧に明け暮れるなか、悲惨な結果とは言わないまでも、特にすばらしい業績でもない。現に、セフォラ(Sephora)やアルタ(Ulta)などの美容関連企業は、国民の爆買い気分から大いに恩恵を受けている。また、ウォルグリーンズの小売部門の業績が相対的に低調である事実は、客足回復に対するワクチン接種の貢献が、巷間で言われるほど大きくはないことを示唆している。少なくとも、今後長期にわたってウォルグリーンズに恩恵をもたらすような、忠実な新規顧客を量産しているわけではない」。
しかし、ブルワー氏によると、これら店頭でのワクチン接種は、データ収集とターゲティングには有効だという。そこでウォルグリーンズは、これをテコに、「小売部門の再編」を行い、同社の店舗を「地域の健康増進の拠点」とする計画を推進したいと期待している。また、同社は昨年秋に、既存のロイヤルティプログラムとアプリを刷新し、ポイント制からキャッシュバック方式に変更した。さらに、アプリ内でワクチン接種を予約する機能や、24時間年中無休で薬剤師とオンラインチャットができる機能も公開した。これら施策の狙いは、健康づくりの目標を設定し、これを達成した人にキャッシュバック特典を付与したり、ロイヤルティプログラムの加入者に特別割引を付与するなどして、消費者からより多くのデータを収集し、顧客体験のパーソナライゼーションを加速させることだ。
キーホー氏によると、マイウォルグリーンズ(MyWalgreens)の会員数は、「前の四半期から34%増えて、7500万人に達している」という。
ヘルスケアのワンストップ施設に
また、ウォルグリーンズは、診療施設のビレッジメディカルを運営するビレッジMD(VillageMD)との提携関係を強化して、診療施設と薬局のサービスをワンストップで提供することをめざしている。すでに共同ブランドの施設を46カ所に開設しており、年末までにさらに35カ所の開設を計画している。このほか、ビレッジMDとは、バーチャルのコラボレーション施策9件にも共同で出資している。
しかし、あるアナリストが共同ブランド施設での取扱処方箋の増加について質問したところ、ウォルグリーンズのプレジデント、ジョン・スタンドリー氏はこう答えている。「その質問に答えるのは少しばかり時期尚早だ。効果は確実に現れているが、処方箋の取扱件数は長期的に伸びるものと考えている」。
それでも、チェルノフスキー氏によると、ウォルグリーンズを含むドラッグストア業界は、新型コロナウイルスワクチンの接種という「奇跡のような好機」を皮切りに、今後の成長に弾みをつけたいと期待を寄せる。
同氏は、さらにこう語った。「ドラッグストアは、ひとつの空間で広範な商品を提供するという独特の立ち位置にある。加えて、処方薬や市販薬、その他健康関連の商品を扱うことから、緊急性の高いニーズで利益を得ている面もある。結果的に、このビジネスモデルは、顧客の買い物かごの中身を増やす非常に強力なメカニズムを生んでいる。たいていの顧客は、処方薬を受け取るために来店しても、ついでに化粧品や日用品も買って帰る。いまこの時期に、顧客の心に響くような購入体験や利便性を提供できるなら、彼らのロイヤルティがもたらす長期的なインパクトには、率直に期待が持てる」。
[原文:Riding the vaccination rollout, Walgreens wants to brand its stores as health care destinations]
Maile McCann(翻訳:英じゅんこ、編集:戸田美子)