高級ブランドとオンライン動画の組み合わせは、一見しっくりこないかもしれない。なにしろそのスタイリッシュなブランドイメージを広めるために、どちらかといえばテレビ広告ではなく、光沢紙が使われた「雑誌」や「ビルボード」を伝統的に利用してきたからだ。
シャネル、ティモ・ウェイランド、ハンリー・メロンなど、最近、一流どころばかりか、新進のブランドまでもがオンライン動画広告を制作している。高級ブランドが「相対的にいえば」テレビにあまり頼らないのは、その特性やフォーマット、そして文脈に問題があるからだ。
高級ブランドとオンライン動画の組み合わせは、一見しっくりこないかもしれない。なにしろそのスタイリッシュなブランドイメージを広めるために、どちらかといえばテレビ広告ではなく、光沢紙が使われた「雑誌」や「ビルボード」を伝統的に利用してきたからだ。
高級ブランドが「相対的にいえば」テレビにあまり頼らないのは、その性質に理由がある。というのもテレビ広告は、できるだけ一度に多くの人へリーチするように作られているからだ。少なくとも、老若男女すべてに訴えかけるものというのは、高級ブランドのマーケティングにはそぐわない。
また、テレビ広告というフォーマットにも原因がある。特に高級ブランドだと、そのストーリーを30秒で伝えるのは難しい。そして最後に、文脈という問題も挙げられる。たとえ、オシャレで効果的なテレビのスポット広告が完成しても、おむつの広告と地元の悪徳弁護士の広告の間に放映されたらたまらない。ブランド側はその部分をコントロールできないのだ。
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このようなテレビ広告が内包する制約を考えると、最近、一流どころばかりか、新進の高級ブランドまでもがオンライン動画に大挙して押し寄せているのは、驚くことではない。特に、シャネル、ティモ・ウェイランド、ハンリー・メロンなどは、オンライン動画を戦略の礎にしているようだ。これには、4つの主だった理由がある。
1.オンライン動画の人気
検索マーケティング企業のアイプロスペクト(iProspect)と、インターネットメディア調査会社のコムスコア(comScore)が富裕層の男性を対象に行った最近の調査によると、彼らは、ほかのあらゆる広告よりも動画広告を好むことがわかった。このレポートには、「一般に高級ブランドには、ユニークで興味深い動画のテーマがある」「動画はまた、非常に共有されやすいことから、ソーシャルチャンネルにうってつけの資産となっている」とある。
そのため、高級ブランドがオンライン動画への投資を増やしているのに、驚きはない。また、eマーケター社による高級ブランドに関する報告によると、そのような動画は、ブランドと製品に関する画像の投稿に次いで、ファンとフォロワーを魅了するための戦術とある。
2.オンライン動画の優位性
つい最近まで、高級ブランドのためのメディアと言えば、プリント広告、とりわけ光沢紙が使われたファッション雑誌の広告だった。その料金は、全体的には下降しているものの、まだ一部のブランドには手が出ないほど高い。『ハーパーズ・バザー』誌の全面広告は15万ドル(約1800万円)も必要なこともある。
同じようにテレビ広告も高価だ。エンタメニュースサイト「Variety」によると、ドラマ『ウォーキングデッド』の30秒広告は、40万ドル(約4800万円)も要するという。さらに、テレビ広告の視聴者の大半は、高級ブランド品のターゲットだとは想定できないため、満足の高いROI(投資対効果)を得ることはできないと思われる。
これに対してオンライン動画は、数万ドルという価格で効果的なキャンペーンを実施でき、ROI(投資対効果)も高い。行動ターゲティングなどのデータのおかげで、高級ブランド品に興味があり、購入する余裕がある消費者を狙って広告を表示することもできる。
3.「30秒の制約」からの自由
ブランドはテレビを離れることで、実験的な動画を試し、典型的な30秒のスポット広告よりも「ラグジュアリー」な世界観を表現できる。こうした道を切り拓いてきたのは、高級ブランドの老舗各社だ。
「贅沢な動画」のさきがけとなったのは、BMWが2001年、クライヴ・オーウェンやマドンナ、ゲイリー・オールドマンといったスターを起用して制作した、約10分間の短編映画シリーズだろう。その後シャネルが、ブランドの歴史に関する15分の動画で長い形式に挑戦し、これをヒットさせた。プラダも映画監督のウェス・アンダーソンに、1960年代のフランス映画の傑作を思わせる短編映画を依頼している。ベントレーも、スキーヤーのクリス・ダヴェンポートがベントレーに乗って山岳地帯を行くモノクロのシーンを含む5分間の動画を作った。
最近では、新進の高級ブランドがこの手法を採用している。ティモ・ウェイランドは、ウェイランド氏の経歴を説明する3分間のスタイリッシュな動画を公開している。ハンリー・メロンは、ブランド紹介と春の「ケニヤ」コレクションの着想をまとめた3分間の動画を公開した。
4.変化の受容
高級ブランドは、BMWのようなアウトサイダーもいるものの、全体的には変化を拒む傾向が強い。だからこそ、新進の高級ブランドと老舗のどちらもが、オンライン動画がもたらす創造の自由とその効果を認識してきているのは興味深い。
ブランド構築にはストーリーが不可欠なものだが、高級ブランドの場合、大多数のブランドよりも優れたストーリーが必要になる。オンライン動画に目を向ける高級ブランドが増えていくなかで、ストーリーの語り方がどう進化していくのかが楽しみだ。
James G. Brooks(原文/訳:ガリレオ)
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