ブランドや小売店たちが今、必死になっていること。それは自社の従業員にTikTokに投稿してもらうことだ。企業は何年も前から、ブランドの顔となり(ポジティブな)舞台裏を消費者に紹介できる従業員インフルエンサーの起用に取り組んできた。今ではそれがますますTikTokへ移行している。
ブランドや小売店たちが今、必死になっていること。それは自社の従業員にTikTokに投稿してもらうことだ。
先週、ゲームストップ(GameStop)は店舗従業員に対し、勤務中にTikTok上のダンスチャレンジである「#RedWineChallenge(#レッドワインチャレンジ)」に挑戦して、踊っている自分の動画を投稿するよう促した。優勝グループに与えられる賞品は、ギフトカードに加えて、ブラックフライデー中の勤務時間を増やすことができる権利だった。ダンスチャレンジ賞品の名目で勤務時間を追加するこの行為は、従業員たちから無神経だと批判され、同社はこの賞品を取り下げた。しかし、従業員にTikTokを使うよう積極的に働きかけている企業はゲームストップだけではない。従業員のTikTokアカウントがマーケティング戦略の未来だと考える小売業者は増えている。
セフォラ(Sephora)には、同社が承認する、TikTokで活躍する従業員インフルエンサーのグループがあり、ボックス(Vox)はこれを「セフォラ・スクワッド(Sephora Squad)」と呼んでいる。ウェンディーズ(Wendy’s)の従業員であるリッキー・フェデリッチ氏は、同社のメニュー「ベーコネーター(Baconator)」の調理プロセスを紹介する動画のおかげで7万人のフォロワーを集めた。そしてこの夏、ダンキンドーナツ(Dunkin’)はインフルエンサー従業員のネットワークであるクルー・アンバサダー(Crew Ambassadors)プログラムをローンチした。現在このネットワークには、ダンキンドーナツのバリスタと小売店従業員4人が参加しており、全員がすでにかなりの数のフォロワー数をTikTokで抱えている。
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TikTokなら、親密さを生み出せる
企業は何年も前から、ブランドの顔となり(ポジティブな)舞台裏を消費者に紹介できる従業員インフルエンサーの起用に取り組んできた。ザッポス(Zappos)、ファーウェイ(Huawei)、デル(Dell)といった企業は、主にインスタグラムやTwitterを通じて、自社での仕事についてポジティブなメッセージを投稿するよう従業員たちに促している。顔の見えないブランドアカウントよりも従業員アカウントの方がはるかに効率的にメッセージを伝えることができると考えているのだ。このような従業員を使ったアドボカシーマーケティング手法は数年前から存在していたが、今ではそれがますますTikTokへ移行している。TikTokが、オーディエンスとの親密さを生み出すのに向いていることが、大きな理由のひとつだ。
従業員アドボカシープラットフォームの最大手のひとつ、DSMN8のマーケティングマネージャーを務めるジョディ・レオン氏は、「ソーシャルメディアを開いて、大量のブランド(の宣伝)ばかりを目にするのは誰でも嫌だろう」と言う。「電気会社やガス会社から繰り返し語りかけられても誰も耳を傾けない。しかし、もしこれらの会社の従業員が何か伝えたいメッセージがあれば、ブランドがひたすら宣伝をユーザーに叫び続けるよりも、ユーザーは耳を傾ける可能性が高い」。
この手法は最近勢いを増している。「世界が今、少し荒れ狂った様子を見せているが、それにもかかわらず、我が社は成長していることを確認できている」と、レオン氏は述べる。小売業者がこれまでのマーケティング戦略に見切りを付けるなかで、彼らはこういった新しいメッセージ発信方法をより受け入れるようになっている。
この流れには数字的な裏付けも存在する。もうひとつの従業員アドボカシープラットフォーム大手であるエブリワンソーシャル(EveryoneSocial)のトッド・カンズマン氏によると、平均的な従業員は複数のソーシャルチャンネルの合計で1人あたり1000人程度のフォロワーを持っているという。従業員数1万人の会社を例にとって考えると、従業員の10分の1がインフルエンサーになることに同意すれば、全体としては会社が持つアカウントよりも大きなソーシャルリーチを持つことになる。
従業員インフルエンサー業界では新参者
従業員インフルエンサー業界では、TikTokはまだ新参者だ。エブリワンソーシャルとDSMN8はインスタグラム、Twitter、Facebook、リンクトイン(LinkedIn)をシステムに組み込んでいるが、TikTok機能はまだない。しかし両社は、TikTokがますます重要になってきていることを認めており、DSMN8は米DIGIDAYの兄弟サイトであるモダンリテール(Modern Retail)の質問に対して、来年初めにTikTok機能の実装を予定していると回答した。
DSMN8のようなプラットフォームでは、従業員はプロジェクトマネージャーによって設定された、あらかじめ承認された投稿リストから選択してコンテンツを投稿できる。しかし、DSMN8は、従業員がオリジナルコンテンツを作成するためのツールも提供している。企業がDSMN8を通じて「概要」を送ることもある。概要は基本的には、社員にドーナツの新しいメニューや求人情報など、何を宣伝して欲しいかをまとめたものだ。従業員が投稿を公開するには、マネージャーがその投稿内容を承認する必要がある。従業員がDSMN8でコンテンツを送信すると、そのコンテンツに対する権利譲渡に同意することになる。
これらの投稿に対する報酬は、プラットフォームに組み込まれたランキング表を使って決定される。もっとも頻繁に投稿する人は上位にランクされる。最高ランクの従業員には、ギフトカードや無料のランチ、(コロナ禍前であれば)スポーツ観戦チケットなどの小さな特典が与えられる。このような報酬システムを使うことで、ひとつの疑問が浮かび上がる。従業員によるブランド宣伝の投稿をソーシャル上で広告として開示すべきか、というものだ。答えは明確ではないが、この点の対処として、企業が承認した投稿には独自のハッシュタグを付けるよう従業員に求める企業もある。デルは「#デルで働いてます(#IWorkForDell)」のハッシュタグを使ってそれを示している。
平凡な動画でもバイラルさせられる
TikTokが特に効果的なのは、平凡なビデオでもバイラルを起こすことができる能力だ。同社のアルゴリズムのおかげで、ごく平凡な小規模企業でさえバイラルになることに成功している。たとえば、造園業を営む企業たちは、彼らにとっては平凡な毎日の仕事を動画で投稿することで、何十万人ものフォロワーをTikTokで集めている。
動画に登場するプロダクトも、TikTok上で独自のバイラルを生むことがある。オーシャン・スプレー(Ocean Spray)のクランベリージュースは、最近スケートボードに乗りながらジュースを飲む男性のTikTok動画がきっかけで話題になった。それ以外にもイチゴがプリントされた独特なドレスから魚の形をしたサンダル「フィッシュフロップ(fish flops)」まで、さまざまな企業の新製品がTikTok上でバイラルになっている。スターバックス(Starbucks)は昨年まで従業員にTikTokへの投稿を奨励していなかったが、昨年TikTok上でのバイラルをきっかけに大量の顧客がイチゴのアサイ、ブラックベリー、レモネードをブレンドした「TikTokドリンク」を求めたことで、それは変わった。
ダンキンドーナツのような企業がTikTokに対して強気になりつつあるのはそのためだ。クルー・アンバサダーは全員、仕事場で撮影した動画を投稿するが、彼らは頻繁に、ダンキンドーナツの新商品を取り上げる。ここでも、抹茶ラテの作り方をステップごとに示した動画のような、もっとも平凡な動画がもっとも再生回数を得ており、TikTokの特徴が確認できる。同社はメールで「クルー・アンバサダー・プログラムに参加する従業員は全員、各自の仕事(ソーシャルへの投稿)とコンテンツに対して報酬を受け取っている」と回答したが、その報酬がどのような形態かについてはコメントしなかった。
危機のときの対応ツールにも
こうした従業員インフルエンサーたちは、今ではオーガニックなリーチを獲得する手法として利用されているが、ブランドにとって危機が起きたときの対応ツールにもなるかもしれない。従業員アドボカシーが、悪いPRに対する盾となる可能性を想定する専門家も増えている。
カンズマン氏にとっては、これは単に理論上の話ではない。「何か悪いことが明るみに出た際に、ポジティブなニュースを生み出す(ために従業員アドボカシーを使う)ことは確実に行われている」と、彼は述べる。
[原文:Retailers are pushing their employees to become TikTok influencers]
Michael Waters(翻訳:塚本 紺、編集:長田真)