多くのリテーラーが既存客から経常収益を効率よく「絞り出す」術を探すなか、これまで主流だったロイヤルティプログラムに取って代わりつつあるのが、メンバーシップだ。ベスト・バイやアーバン・アウトフィッターズ、ウォルマートなどがメンバーシッププログラムを次々と試験展開している。各社が目指すのはAmazonプライムだ。
多くのリテーラーが既存客から経常収益を効率よく「絞り出す」術を探すなか、これまで主流だったロイヤルティプログラムに取って代わりつつあるのが、メンバーシップだ。
2021年4月7日、米家電量販店ベスト・バイ(Best Buy)は新メンバーシッププログラムを試験導入すると発表した。年会費は199.99ドル(約2万2000円)で、会員には無料配送、サポート部門ギークスクワッド(Geek Squad)による無制限サポート、限定販売といったサービスが提供される。
また、米衣服メーカー、アーバン・アウトフィッターズ(Urban Outfitters Inc)も今年3月、新たなメンバーシッププログラムの試行を発表している。米小売最大手ウォルマート(Walmart)も2020年、Amazonプライム(年会費119ドル[約1万3000円])への対抗策Walmart+を立ち上げ、98ドル(約1万1000円)の年会費と引き換えに、食料雑貨の無料即日配送や、35ドル(約3900円)以上の買物の無料配送といったサービスを提供している。
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確実な収益確保の手段
この人気急騰の背景にあるのは、メンバーシップはが数千万、いや数億ドルにも上る経常収益の確保につながるというリテーラー側の確信だと、専門家は言う。これらリテーラーはいずれも、自社ブランドのクレジットカードや無料ロイヤルティプログラムを以前から導入している。だが、メンバーシッププログラムの場合、顧客が毎年または毎月一定額を支払うため、たとえ毎月買物をしなくとも、リテーラーは自動的に収益を確実に得られる点が大きな魅力だという。
Amazonの成功はその顕著な例にほかならない――2020年1月、同社はプライム会員数を初めて明かし、1億5000万人以上と発表した。さらに、昨年度異例の売上大幅増を記録したリテーラーにしてみれば、メンバーシップはその成長を多少でも再現するための一手段になる。
「どこもメンバーシップは欲しい。ただし、(そうしたプログラムを)立ち上げるに足る信頼を確立しているブランドとリテーラーは、ごく一部に限られる」と、ピュブリシス(Publicis)のチーフコマースオフィサー、ジェイソン・ゴールドバーグ氏は指摘する。
リテール界にとって、メンバーシップは決して新しい概念ではない。たとえばコストコ(Costco)は数十年前から導入しており、今年3月、同社の第2四半期決算発表によれば、会員世帯数は5970万に上る。ただし、コストコのモデルでは、会員以外は入店も買物もできない。これに対し、最近メンバーシッププログラムの試行を決めたリテーラー勢の狙いはすべての既存客であり、限定セールや各種特典を武器にして、彼らに追加料金を支払わせたい意向だ。
どうすればプライムに匹敵するのか?
オムニコム・コンサルティング・グループ(Omnicom Consulting Group)のコマース部門SVP、ブライアン・ギルデンバーグ氏によれば、もっとも成功しているメンバーシッププログラムの一部は「節約欲だけでなく、ほかの基本的欲求も満たしている」という。コストコの会員は商品を大量購入することで、金を節約できるだけでなく、「3時間でたとえば半年分の買物ができるため、時間の節約にもつながる」。Amazonプライムの場合、顧客は数万点もの商品を無料で即日または翌日配送してもらえる。加えて、Prime VideoやAmazon Musicといったサービスも楽しめる。
Amazonプライムの人気とeコマース売上急増に鑑み、ほぼすべての新メンバーシッププログラムが無料配送を提供している。だがゴールドバーグ氏は、配送の量と速度のいずれおいてもAmazonに肩を並べられるところは少なく、それゆえ無料配送だけでは魅力に欠けるだろうと指摘する。「迅速な無料配送を重視する顧客にとって、Amazonのサービスは群を抜いている」。
それゆえ、リテーラー勢はほかの独自サービスも売り込んでおり、その魅力でAmazonプライムの会員も獲得できれば、と期待している。たとえばWalmart+の会員は、上述のとおり、食料雑貨の即日配送サービスを受けられる。Walmart+は昨年9月から稼動しているが、会員数は公表されていない。
ベスト・バイの新ロイヤルティプログラムの会員はギークスクワッドのサポートサービスを無制限で受けられるとともに、大半の製品に自動的に2年間の保証が付く。同社はまず、60店舗限定で旧プログラム、トータル・テック・サポート(Total Tech Support)に代わるこの新プログラムを試験導入する。旧プログラムも、年会費は同じく199.99ドル(約2万2000円)だが、特典は出張修理といった技術サービスに対する割引に限られていた。
各社とも厳しい戦いに
アーバン・アウトフィッターズが試行するメンバーシッププログラムは二段構えになっており、年会費48ドル(約5300円)と98ドル(約1万1000円)の2種類を提供する。いずれも無料配送および返送やギフトカードといったサービスのほか、毎月の注文額に対して一定の割引も提供する。
また、ウォルマートとベスト・バイの場合は特に、極めて重要な時期にメンバーシッププログラムを拡充することになる。両社ともコロナ禍中に2桁の売上増を継続的に記録しており、買物客が通常の購買行動を再開しつつあるなか、その成長を維持するために新たな収益源を探しているからだ。
そして、それは厳しい戦いになると予想される。たとえば、ベスト・バイは今年度の売上について、前年よりもやや落ち込むか、伸びたとしても1%増だろうとの予測を今年2月に発表した。
一方、アーバン・アウトフィッターズはコロナ禍中、アパレル需要減のために苦戦を強いられており、今年3月の第4四半期決算発表において、売上高を前年比6.9%減と報告している。とはいえ、同社は経常収益源を増やすべく、この数年間サービス拡充に勤しんでおり、たとえば、2019年にはサブスクリプション型アパレルレンタルサービス、ヌーリー(Nuuly)を導入している。
わざわざ会員費を払う顧客はいるか?
こうした新メンバーシッププログラムの多くは、導入からまだ日が浅く――上述のとおり、ベスト・バイとアーバン・アウトフィッターズは一部地域でしか試行していない――それゆえ、会費を喜んで支払う顧客がどれほどの数になるのか、現時点の判断は時期尚早だ。
ただ、追加の年会費について顧客を納得させられるリテーラーは、顧客が年に少なくとも複数回利用する所だけだと、ゴールドバーグ氏は指摘する。「年に1回しか利用されないようなブランドは、望みが薄い。既存顧客の一番のお気に入りブランドでないかぎり、かなり厳しいだろう」。
[原文:Retailers are launching membership programs to compete with Amazon Prime]
Anna Hensel(翻訳:SI Japan、編集:分島 翔平)