新型コロナ感染者数が高止まりしているなか、小売企業は、eコマース売上高の増加と、来店者数の減少を予想している。しかしそんななか、人々がまだ対面で行う必要性を感じていることとして、小売企業が確信しているのが返品取引だ。
新型コロナ感染者数が高止まりしているなか、小売企業は、eコマース売上高の増加と、来店者数の減少を予想している。しかしそんななか、人々がまだ対面で行う必要性を感じていることとして、小売企業が確信しているのが返品取引だ。
ステイプルズ(Staples)は10月上旬、返品処理ソフトウェアを提供するスタートアップ、オプトロ(Optoro)と提携。2021年初めから1000以上の店舗で、オプトロを利用するほかの小売企業からの返品を受け付けると発表した。現在オプトロを利用しているのは、ステイプルズをはじめ、ベスト・バイ(Best Buy)、イケア(Ikea)、ターゲット(Target)などだ。
このタイプの提携は、コロナ禍前からすでに一般化しつつあった。たとえばコールズ(Kohl’s)は、2019年、全店舗でAmazonへの返品を受け付けを開始している。また、ハッピー・リターンズ(Happy Returns)やナーバー(Narvar)のような、ほかの返品処理ソフトウェアのスタートアップは、自社ソフトウェアを利用する企業の顧客が、ウォルグリーンズ(Walgreens)やペーパー・ソース(Paper Source)のような小売企業の店舗でも返品ができるよう、契約を結んでいる。
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小売企業は、パンデミック中に客足を確実に確保するのに一層必死になっており、返品の受け付けは、客足確保のための一手段なのかもしれない。店舗で購入された商品と比べて、オンラインで購入された商品の方が返品率が高い傾向があることを示す調査結果もある。また、少なくともコロナ禍以前は、調査により、買い物客の大多数が、郵送ではなく対面での返品を好むことがわかっている。しかし、別の小売企業から購入した商品を返品するために店舗を訪れる買い物客のうち、どれだけの客が店舗で購入するかは不明だ。
「97%の顧客が、好ましい返品体験の後に買い物をする傾向があることがわかっている」と、オプトロのプレジデントで共同創業者でもあるアダム・ビタレロ氏は、ステイプルズとの提携を発表するプレスリリースで述べている。「今年は、かつてないほど期待が高まっている」。
コールズとステイプルズの事例
また、2019年にAmazonと提携したコールズは、店舗への客足を増やす手段として、返品取引に大きな期待をかけてきた。提携が発表された2019年7月、CEOのミシェル・ガス氏は、サービスを試験的に実施したところ、若年層の顧客来店数が増えたと語っている。コールズの狙いは、そうした新規顧客を固定客に変えることにあった。同社は、Amazonで購入した商品を返品する顧客に対しクーポンを提供して、それを促進しようとしてきた(このクーポン券の使用期限は7日以内で、商品価格の25%が割引される)。
しかし、この取り組みが店舗での販売促進にどれだけ貢献したのかは不明だ。というのも、Amazonへの返品サービスを利用した顧客のうち、どれだけの顧客が後に買い物をしているのか、コールズではこれまで明らかにしていない。また、衣料品の販売低迷を埋め合わせようと奮闘してきたが同社だが、売上高は直近の四半期に23%減少している。
自宅待機命令により、コールズの店舗が閉鎖されていた春の2カ月間は、Amazonへの返品プログラムも中止された。CEOのミシェル・ガス氏の、8月に行われた第2四半期の決算発表における説明によると、店舗再開までの期間が長いほど、再開してからの返品プログラムへのトラフィックは、増加傾向にあるという。また同氏は「プログラムの全体的なパフォーマンスには、これまで同様満足している」と述べている。
一方、「ステイプルズに関しては、店舗を印刷や配送、もしくはコロナ禍前にも見られたようなコワーキングスペースにするといった同社のこれまでの取り組みを考えると、オプトロとの提携は理に適ったものかもしれない」と、カンター(Kantar)のグローバル小売担当 シニアバイスプレジデントを務めるデビッド・マーコット氏は述べる。
そのほかの可能性
また、ガートナー(Gartner)でディレクターを務めるチェルシー・グロス氏は、米DIGIDAYの姉妹メディア、モダンリテール(MODERN RETAIL)による、同提携に関する取材に対して以下のように述べる。
「顧客が返品取引のために店舗に立ち寄った際の体験を、いかに設計するかが重要だ。たとえば店を出るとき、便利グッズを購入できるといった、ちょっとした体験が考えられる」。
小売企業に対し、ほかの企業への返品を受け付けるように説得しているスタートアップは、オプトロだけではない。ハッピー・リターンズ(Happy Returns)は、主にロージーズ(Rothy’s)やエバーレーン(Everlane)のような、デジタルネイティブスタートアップと提携しているほか、ダグネ・ドーバー(Dagne Dover)や、ティムバック2(Timbuk2)を顧客に抱える、ナーバー(Narvar)と提携している。
ハッピー・リターンズは、リターン・バーズ(return bars)という700以上の店舗ネットワークを構築しており、同社のソフトウェアを利用するブランドの顧客は、そこに加盟している店舗に、返品取引を請け負ってもらうことが可能だ。リターン・バーズには、ベッドバス&ビヨンド(Bed Bath & Beyond)や、ペーパー・ソースの一部店舗も含まれている。一方、ナーバーが提供する同様のサービス「ナーバー・コンシェルジュ・ネットワーク」に参加しているブランドは、ウォルグリーンズやノードストローム(Nordstrom)の一部店舗で顧客が返品できるという。
大都市の店舗にメリット
グロス氏によると、このタイプの提携は、返品処理を数多くこなせる大型店があったり、オンラインショッピングの利用者の割合が大きい都市に店舗を構えている小売企業ほど、理にかなっているという。
「小売分野のeコマース成長のインパクトは大きい。しかしそれでも、店舗への客足を増やすことは、彼らにとってさまざまなメリットがある」と、グロス氏は語った。
[原文:Retailers are hoping returns hubs can drive foot traffic]
ANNA HENSEL(翻訳:矢倉美登里/ガリレオ、編集:村上莞)