米国の小売業者に間で大型ショピングモール離れが起きている。数年前から始まっていた動きだが、2020年はそれがさらに加速。メイシーズやセフォラ、フットロッカーなど大手各社は競ってショッピングモール以外への出店、つまり小規模でより地元に根ざしたコミュニティセンター型の店舗への出店戦略を進めている。
米国の小売業者はストリップモール(道路に面した小規模なショッピングモール)や野外ショッピングセンターへの出店を拡大しつつ、こうした場所がいかなるものであるべきかを再考しつつある。
たとえば、百貨店メイシーズ(Macy’s)がショッピングモール以外で展開している新しいチェーン店「マーケット・バイ・メイシーズ(Market by Macy’s)」は、面積が2万平方フィート(約1860平方メートル)しかなく、標準的なデパートよりも数万フィート狭い。こうした新しいチェーンの2号店が、1月中旬にテキサス州にオープンし、ラルフローレン(Ralph Lauren)やリーバイス(Levi’s)など、同社で業績トップクラスのブランドの比較的小規模なセレクションを、メイシーズのいくつかのプライベートブランドとともに提供している。ここでは、返品ならびにオンラインでの購入品や店頭予約した商品の受け取りをおこなえる専用コーナーもある。
セフォラ(Sephora)やフットロッカー(Foot Locker)のようなほかの小売業者は、ショッピングモール以外への出店拡大を検討するにあたって、メイシーズと同様の戦略をとっている。ショッピングモール以外の店舗は面積を小さくし、特定の地域の顧客により特化した商品やサービスを数を絞って提供しているのだ。こうした店舗では、店内を見てまわることにあまり興味がなく、買い物をなるべく早く済ませたい常連客を引き付けようとしている。
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2020年に加速した大型モール離れ
小売業者はこの数年間、ショッピングモール以外への出店を拡大してきた。たとえばメイシーズは、2020年2月にテキサス州にマーケット・バイ・メイシーズ1号店をオープンした。だが、新型コロナウイルスのパンデミックを受けて、こうした傾向が加速してきた。「我々のチームは、ショッピングモール以外で店舗展開する場所(と時期の特定)に懸命に取り組み続けている」と、フットロッカーのCEO、リチャード・ジョンソン氏は、9月の決算発表時に語った。セフォラは以前、2020年中にショッピングモール以外で約100店舗をオープンするつもりだと述べていたが、パンデミックにより新店舗の一部は開店が延期された。
生活必需品以外を取り扱う小売業者が春に営業を再開できるようになったあと、ウィスコンシン州やニューヨーク州など一部の州は、密閉空間になっているショッピングモール内の店舗に先立ち、野外のショッピングセンターにある店舗の再開を小売業者に許可した。また、オンラインで注文した商品を駐車場で受け取るカーブサイドピックアップのようなサービスは、すべての店舗が駐車場のすぐ隣にあるストリップモールや野外ショッピングセンターのほうが提供しやすかった。
コンサルタント企業コンドラット・リテール(Kondrat Retail)の創業者、レベッカ・コンドラット氏によると、テキサス州オースティンにあるショッピングセンター「ドメイン(Domain)」を例に挙げ、同氏が「コミュニティセンター」と呼ぶものへの出店拡大を、小売業者が検討しているのを目にすることが多くなったという。同氏が言うところのコミュニティセンターとは、ストリップモールに似た形で展開されている野外ショッピングセンターだが、食料品店やレストラン、そしておそらくジムが併設されている。これらはいずれも、コロナ禍以前では、人々を週に数回そこに引き寄せることができるものだ。
「小売業者やブランドが、顧客との永続的な関係を築くために、こうしたコミュニティセンターに出店することは非常に大きなチャンスがあると思う。観光客や一度きりの顧客が中心となるマンハッタンのヘラルド・スクエアのメイシーズとはかなり異なる」と、コンドラット氏は話す。
「地元」向けローカライズがポイント
フットロッカーは、ショッピングモール以外の新店舗で、よりローカライズされたアプローチを採ろうとしてきた例のひとつだ。同社はこの数年間、「パワー・ストア(Power Store)」と呼ぶ、出店形態の拡大を新店舗戦略の柱にしてきた。パワー・ストアは、コミュニティセンターを兼ねるように意図されている。内部にはイベントスペースがあり、地元のアーティストの作品で飾られ、地元のスポーツチームのチームカラーを使ったスニーカーなど、ローカライズされた製品をいくつか用意している場合もある。
フットロッカーはコロナ禍により、2020年はこうした店舗の開店ペースを落とした(2019年にオープンしたパワー・ストアは6店舗で、2020年は3店舗にとどまった)が、同社は以前、パワー・ストアを20店舗オープンする計画だと述べていた。
カンター・コンサルティング(Kantar Consulting)で美容・アパレル専門の主任アナリストを務めるティファニー・ホーガン氏は、ホリデー期間にショッピングモール以外でポップアップショップをテストオープンする小売業者が増えたと述べ、一例としてアパレル小売のエクスプレス(Express)を挙げた。エクスプレスは、ホリデー期間中にオハイオ州で、「ザ・エクスプレス・エディット(The Express Edit)」というポップアップショップをオープンし、主にデニム、ジャケット、ホリデー向けアパレルを中心とした品数を絞った製品を提供した。
ザ・エクスプレス・エディットはまた、地元オハイオ州の企業やアーティストの商品も扱った。エクスプレスのCEO、ティム・バクスター氏は、現地の報道機関に対して、このポップアップショップのほかに、これ以上ショッピングモール外の店舗をオープンする計画はないと述べている。
新たな店舗契約競争も
ショッピングモール以外への出店拡大を検討する小売業者が増えていることから、もっとも望ましいストリップモールの賃借契約をめぐって競争が激化する可能性もあると、ホーガン氏は指摘する。これまで脱ショッピングモールを拡大戦略の柱にしてきた小売業者2社、アルタ・ビューティー(Ulta Beauty)とセフォラも最近、それぞれ米小売大手ターゲット(Target)と米百貨店のコールズ(Kohl’s)にさらに多くのショップインショップをオープンする契約を発表した。
ターゲットとコールズの店舗はいずれも、ショッピングモール外にあることが多く、これら2社と契約を結んでいるアルタ・ビューティーとセフォラは、「それが、急拡大するのにもっとも容易な道だったことを示しているようなものだ」とホーガン氏はいう。こうしたことから、ショッピングモール外に展開する小売業者との提携を増やすのが、小売業者による脱ショッピングモールの新たな手段になる可能性がある。
[原文:Retailers are exiting malls — and changing their store strategies]
ANNA HENSEL(翻訳:矢倉美登里/ガリレオ、編集:分島 翔平)