経営破綻した米トイザらスが6月に米国内の全店舗を閉鎖したことから、小売業界ではあわただしい動きがあった。コールズ(Kohl’s)やウォルマート(Walmart)、ターゲット( Target)といった小売業者が、態勢を整えて、ホリデーシーズンを前に玩具界の空隙につけ込もうとしたのだ。
経営破綻した米トイザらスが6月に米国内の全店舗を閉鎖したことから、小売業界ではあわただしい動きがあった。コールズ(Kohl’s)やウォルマート(Walmart)、ターゲット( Target)といった小売業者が、態勢を整えて、ホリデーシーズンを前に玩具界の空隙につけ込もうとしているのだ。
しかし、それは間違った道なのかもしれない。なぜなら、トイザらスの破綻は、米国の玩具業界全体の低迷を意味するからだ。顧客はもう、バービー人形やジープのミニカー、ヘリコプターのラジコンなど、トイザらスが長年販売していた商品を求めていない。彼らが求めているのは、iPadやKindle(キンドル)、スマートウォッチ、プレイステーション(PlayStation)などだ。旧式な玩具は、小売業者にとってまだ一大ビジネスである。だが、このホリデーシーズンに、最新かつ最先端の電子機器に商品棚を明け渡しつつある。
玩具業界の成長は、もっと幅広い業界のペースに後れを取っている。フォレスター・リサーチ(Forrester Research)のデータによると、2018年の玩具の売上高は、2017年の260億ドル(約2.9兆円)から10億ドル増加し、270億ドル(約3兆円)になると予測されている(約3.4%の成長)。全米小売業協会(National Retail Federation)は、2018年には小売全体で4.5%以上成長し、小売売上高が昨年の3.5兆ドル(約402兆円)から増加すると見ている。
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小売業者の戦略シフト
小売業者たちは、玩具の販売方法の見直しに投資してきた。ターゲットは、ホリデーシーズンに向けて、店内の玩具コーナーを拡張。500店舗で計25万平方フィート(約2万3200平方メートル)を玩具に割り当て、2500以上の新商品や独占販売商品を投入するなど、品揃えも増やしている。
コールズは、レゴ(Lego)と契約を結んで、店内で同社のブロックを販売。また、玩具メーカーのFAOシュワルツ(FAO Schwarz)とも新たな提携を結んだ。かき入れ時のホリデーシーズンに対応すべく人員配置も強化し、9万人以上の季節労働者を雇用しようとしている。
だが、こうした動きは、市場シェアを奪うというより、縮小している業界内で競争するために戦略をシフトするものだ。
専業ゆえの落とし穴
トイザらスは自滅したわけではないと、元従業員のスチャリタ・コダリ氏は語る。現在は、フォレスター・リサーチで玩具業界について調査しているアナリストのコダリ氏によると、トイザらスの経営破綻は、混迷する玩具業界にとってある種のバロメーターだったという。厳しい市場で利益を上げようとしている小売業者は、在庫の削減や、人気の高い玩具メーカーとの独占提携締結、実験的な店舗戦略の採用によって、戦略に磨きを掛けつつある。
コールズ、ウォルマート、ターゲットは、トイザらスとビジネスモデルが異なるので、それほどリスクにさらされていない。玩具だけを販売しているわけではないので、必要に応じて在庫量を変更できるのだ。
一方、トイザらスは、オンラインショップをフル活用せず、代わりに、完璧なプレゼントを見つける魅力に惹きつけられた買い物客を集める、大型店舗にビジネスを賭けた。
玩具の在庫を少なくするという点で、ほかの小売業者はうまくやってきたと、コダリ氏はいう。トイザらスと同じ落とし穴に陥らないようにし、年間を通して余剰商品を備蓄することによって、貴重な店舗空間を、衣服や電子機器といった常に売れる商品に回すことができる。大手小売業者はほとんどすべて、1年中、玩具コーナーを設置しているが、各カテゴリーに在庫が広がっているので、第4四半期以外はコーナーを抑制することができる。玩具の価値はいま、かつてほど高くない。
玩具業界の死に花
ターゲットはこのホリデーシーズンに2500種類の新しい玩具を宣伝しているが、それらを店舗にストックすると、法外な物流コストが掛かるので、ほとんどはオンラインで提供されることになるだろう。ターゲットは、顧客の志向に合わせた店頭体験も提供しようとしている。このホリデーシーズンに、2万5000時間以上の「プログラミング」を用意するという。つまり、子どもが、地元にあるターゲットの店舗に親を引っ張り込んで、クリスマスプレゼントとして欲しい物のリストのトップにある商品を何でも試せる機会を提供するのだ。
コールズのプレジデントであるソナ・チャウラ氏によれば、今年は、新商品の発売は考慮すべき事柄の一部にすぎないという。実店舗であれ、オンラインであれ、最終的にはすべてパーソナライゼーションに行き着くと、同氏は語る。オンラインでは、それは、プレゼントガイドになるよう設計された「Pinterest」ツールのリリースを意味する。「そこで勝たなければならない。だから、店舗でたえず革新を行ってきた」。
ジョージタウン大学のマクドナー・スクール・オブ・ビジネス(Georgetown University’s McDonough School of Business)で非常勤のマーケティング学教授を務めるマレーネ・タウンズ氏は、2018年は伝統的な玩具業界の死に花を添えることになるかもしれないと語る。子どもの好みはここ数年、電子機器にシフトしており、マテル(Mattel)や ハズブロ(Hasbro)のような玩具メーカーを悩ませているという。
機会を得た直販ブランド
だが、コダリ氏によると、実店舗を運営して消費者に直販しているレゴなどの玩具ブランドについては、トイザらスの店舗閉鎖と玩具ビジネスの分岐が、拡大の機会になるという。
レゴは長年、直営小売事業の成長と、小売パートナーとの価格水準の維持とのバランスを取らなければならなかったと、コダリ氏はいう。大手パートナー1社の消滅は、レゴが中間業者をさらに排除する機会となる。「利ざやが増えることを意味するはずだ。もうトイザらスはないので、今後は直販を行い、すべての利ざやを確保できる」と、同氏は語った。
Michael Bodley(原文 / 訳:ガリレオ)