[ DIGIDAY+ 限定記事 ]ニューヨーク市で、新しいふたつの小売の開発事業がオープンした。ハドソンヤード(Hudson Yards)のショップ・アンド・レストラン(The Shops and Restaurants)とショウフィールズ(Showfields)だ。これらでは現在、形になりつつあるデジタルブランドの未来のあり方を示している。
[ DIGIDAY+ 限定記事 ]ニューヨーク市で3月15日、新しいふたつの小売の開発事業がオープンした。ひとつはハドソンヤード(Hudson Yards)内に設けられたショップ・アンド・レストラン(The Shops and Restaurants)、もうひとつはダウンタウンに設けられたショウフィールズ(Showfields)だ。このふたつのショッピングモールでは現在、形になりつつあるデジタルブランドの未来のあり方を示している。
- ハドソンヤードのショップ・アンド・レストランは、回転式のアートインスタレーション、レストラン、高級品のアウトレットのほか、ニューヨーク市に初めて進出するニーマン・マーカス(Neiman Marcus)のような面積が大きい店舗などから構成されている。その2階が「フロア・オブ・ディスカバリー(Floor of Discovery)」と呼ばれているフロアだ。ここで、ほとんどオンラインにしか存在しない新興ブランドに、訪問者を呼び込もうとしている。
- このフロアは、エムジェミ(M.Gemi)、ベータ(b8ta)、ローン(Rhone)、ハイジ・クライン(Heidi Klein)、ラブポップ(Lovepop)、スタンス(Stance)、ダーティ・レモン(Dirty Lemon)といったオンライン生まれブランドの店頭を意図したもので、ダーティ・レモンは、レジ係がいないドラッグストア自動販売のコンセプトをテストすることになっている。
- ほかにメイドウェル(Madewell)、無印良品(Muji)、ユニクロ(UNIQLO)といった老舗ブランドが、小売スペースでより体験型の店舗コンセプトを実験していく。
- ハドソンヤードのショップ・アンド・レストランは、3月15日にニューヨーク市でオープン。1800万平方フィート(約1.7平方キロメートル)の不動産開発事業で、1日あたり6万5000人の訪問が見込まれている。
- 一方、ショウフィールズは、ニューヨークのソーホー近郊の新しい4階建ての小売店。ショッピファイ(Shopify)と提携し、小売スペースにオンラインのショッピファイの商品を充実させている。
- ブランドはワイルド・ワン(Wild One)、ハドソン・ワイルダー(Hudson Wilder)、メソ・グッズ(Meso Goods)、ココ・アンド・ブリージー(Coco and Breezy)、ベストセルフ(BestSelf Co.)など。
- 障壁が低いeコマースプラットフォームがDTCブランドブームの盛り上がりに貢献してきたショッピファイは、現在、実店舗小売を攻めて、はじめてオフラインに進出するオンラインストアのためのバックエンドの架け橋となっている。
- ショウフィールズではほかに、ローテーションで30の新興ブランドが物理的な出先店舗を構える。最初はクイップ(Quip)、ピュアワウ(PureWow)、フランク・ボディ(Frank Body)など。
このオープニングは、小売開発業者とブランドの新たな関係となった。新興のデジタルブランドに踏み出させるために――初の常設店またはニューヨーク初という場合が多い――、不動産開発業者側が順応したのだ。ブランドが引き受けるリスクが小さくなるように、賃貸借契約を柔軟にしたが、これはますます一般化している。オンラインブランドは物理スペースに目を向けているものの、小売不動産ではかつては標準的な賃貸借期間だった10年契約には目を丸くしている。
「小売は変化が必要」
コンサルティング企業のボストン・リテール・パートナーズ(Boston Retail Partners)でプリンシパルを務めるケン・モリス氏は、「小売は変化が必要になり、オンラインで人気のブランドたちが、一時的な店舗と柔軟性が必要な賃貸借によってその変化を強行している。地主と開発業者はもはやそれを拒否できる立場ではない。証拠がほしければ、ハドソンヤードを見ればいい。この極めて大規模な小売開発は、デジタル生まれのブランドをフロアに迎えるための軌道修正をしている」と語る。「あからさまに客の出足が増える。そして、モールは客の出足を必要としている」。
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ブランド側は見返りに、マーケティングの取り組みとして店先を急展開し、オンラインで目にしていないだろう人々や、注文するなら実際に確認する必要があるという人々に、名前や商品を見てもらうことができる。
ショッピングモールのコンセプトを現代的にしたい、あるいは既存のモールのイメージをもう一度高めたいという比較的有名な小売施設の開発でも、こうしたブランドが重要な役割を演じることになるだろう。2021年にタイムズスクエアにオープン予定の、エンターテインメントとショッピングと食事を整備したTSXブロードウェイ(TSX Broadway)は、7万5000平方フィート(約7000平方メートル)が小売スペースとDTC展示にあてられ、インスタグラムのはやりのブランドがIRL(In Real Life:現実世界で)で取り上げられることになっている。
デジタルネイティブな世界へ
こうした新しい開発はいずれも、無愛想な百貨店からモールを引き離し、代わりに「インタラクティブ」で「実験的」な小売ハブを優先することで、モールのイメージの刷新を試みている。その戦略の中心に、小売体験が新基準を迎えるのに貢献してきたデジタルブランドを置いているわけだ。そうしたブランドがオンラインの成長に行き詰まり、オフライン戦略をより真剣に模索するいま、新しいモールが次々と出てきている。
既存のモール開発業者は、対応を急いでいる。不動産開発業者のマセリッチ(Macerich)は、柔軟で融通のきく背景をオンラインブランドに提供することに特化した小売スペースの社内イニシアチブ、ブランドボックス(BrandBox)をローンチした。
「デジタルネイティブなブランドの心に入り込みたかった。オンラインで誕生し、すばらしい製品、サービス、データ、情熱でもってデジタルメディアからビジネスを構築したブランドたちだ」と、マセリッチのEVPで最高デジタル責任者のケビン・マッケンジー氏はいう。「我々はその世界に入り、従来の不動産業のビジネスというよりも、獲得チャネルや顧客に対応する場所としての店舗について考える必要があった」。
ハドソンヤード、初日の夜
3月14日の夕刻に開催されたハドソンヤードのグランドオープンは、モールのオープニングがいつか音楽フェスのコーチェラ(Coachella)になるとすれば、そこに最大限に接近したものだった。
タキシード姿やイブニングガウンにヒールでたくさんの人が建物に入り、巨大なホールがいっぱいになった。このグランドオープンに関しては、ひいてはハドソンヤードの小売体験全体に関しては、すべてが極度の過激主義を特徴とする。
無料のバーが何十もあり、ショーウィンドウでは生きた人間のマネキンがヨガのポーズを繰り返し、ビルブレクイン(Vilebrequin)の外ではビキニを着た女性が何もしないでただ立っていた。フードホールにはベルモットの噴水があった。グランドオープンを「イベント」らしくしようという取り組みのなかには、あまりにやり過ぎで茶番になりかけているものもあった。さまざまなドラムのパフォーマンス、日本の太鼓のパフォーマンス、そしてブレークダンスをするドラムライングループを、互いに100フィート(約30m)離れていない距離で、最大音量でやらせるという判断を、あなたは尊重する必要がある。
持続可能なビジネスか?
しかし、こうした過剰さはいずれも、その下に死に物狂いの気配があった。ハドソンヤードの整備は約200億ドル(約2.1兆円)という、滑稽といっていいほど膨大な資金がかかっている。だが、ショップ・アンド・レストランの施設は、住居やオフィススペースを含む複合施設の一部にすぎない。初日の夜は混雑のあまりエスカレーターがひとつ一時的に停止してあわや大混乱となるほどだったが、本当の問題は、この日きた人々のなかに、常連客になる人がいるかどうかだ。
初日夜の見世物の集客を別にすると、ハドソンヤードは基本的にはモールだ。老舗のブランドと新興のDTCブランドの組合せが比較的印象的な巨大なモールではあるが、H&MやZARAやベライゾン(Verizon)の店舗が欠かせない単なるモールであることには変わりない。ショウフィールズをはじめとする、競合してオープンしている一部のマルチブランドの小売スペースとは違い、ハドソンヤードは交代制でブランドが循環するようには作られていない。店舗の大半は常設なので、新ブランドや店舗をチェックしようという盛り上がりは失われる。
斬新さか、繰り返し訪れる固い顧客基盤がなければ、ブレークダンスやシャンパンのがぶ飲みをどれだけやろうと、これだけ大掛かりなものを持続可能なものにすることはできない。
Hilary Milnes, Danny Parisi (原文 / 訳:ガリレオ)