ついこの間まで、アナリストたちは口を揃えて「小売業の終わり」のはじまりを嘆いていた。だが、8月中旬における小売企業の収益報告を見る限り、そうした悲観的状況とは異なる傾向が浮かび上がっている。
ついこの間まで、アナリストたちは口を揃えて「小売業の終わり」のはじまりを嘆いていた。だが、8月中旬における小売企業の収益報告を見る限り、そうした悲観的状況とは異なる傾向が浮かび上がっている。
米大手量販店ターゲット(Target)が8月22日に発表した収益報告を見た投資家は、同社の明るい見通しにおそらく安堵する思いだったはずだ。同社は市場の予想を大きく上回り、過去13年で最高の増益を達成した。収益報告によると、同社の既存店売上高は6.5%の伸びを記録している。それを支えるのが実店舗の客入りと、前年度比で41%成長したeコマースだ。
ターゲットで会長および執行役員を務めるブライアン・コーネル氏は、業績報告のなかで増益の原因を好景気のほかに、2017年初頭に実施した70億ドル(約7700億円)の事業計画にあると説明した。この計画によって、配達と集荷の改善、自社ブランド製品の追加、店舗の改装や小規模店舗の導入などを行っている。
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「実店舗が復活しつつある」
同社の業績報告を見ると、売上戻り高が高い一方で客入りも多い、新しいタイプのディスカウント小売店であることが見えてくる。要因は同社の販売環境を整理する取り組みと、それに伴う店舗への客足の増加だ。ウォルマート(Walmart)、ノードストローム(Nordstrom)、ホーム・デポ(Home Depot)、コールズ(Kohl’s)、TJマックス(TJ Maxx)といった企業はいずれも実店舗の収益で3~8%、eコマースの収益で10%以上の伸びを記録しており、市場の予想を上回った。
なかでもウォルマートの業績報告を見ると、実店舗がここ10年で最高の収益を叩き出し、eコマースでも最大40%の増収が予想されている。ノードストロームは既存店売上高が4.1%の伸びを記録し、同ブランドのディスカウントストアであるノードストローム・ラック(Nordstrom Rack)は4%の伸びを見せた。コールズの既存店売上高は3%で、TJマックスの業績報告によると同社の既存店売上高は6%を記録している。
「実店舗が復活しつつある。原因はマーケットの修正と、デジタル企業大手が実店舗に莫大な投資をしていることにある」と語るのは、テック系企業と小売サービスで提携しているブリッツメディアグループ(Briz Media Group)でCEOを務めるデイビッド・ブレイ氏だ。
「消費者心理はここ数年で最高」
また客足の増加について、アナリストは好景気を要因として挙げている。米商務省によると、第2四半期のGDPは4.1%の伸びを見せ、失業率も4.1%に低下している。
フォレスター・リサーチ(Forrester Research)で小売分野のアナリストを務めるサチャリタ・コダリ氏は「消費者心理はここ数年で最高となっている。減税と失業率の低下を受け、買い物客の支払額は増加傾向にある。小売企業はその恩恵を受けているといえるだろう」と、分析する。
小売分野全体が成長しているのだ。調査会社のリッパー・アルファ・インサイト(Lipper Alpha Insight)によると、小売およびレストラン指標157社の第2四半期の業績報告では、73%の企業がアナリストの予想を上回っている。
「変革に前向きな企業ばかり」
さらに、アナリストたちは、こうした消費者の支出増以外にも、店舗や商品の改善努力も原因として挙げている。
eマーケター(eMarketer)で主席アナリストを務めるアンドリュー・リップスマン氏は「これは小売企業自身の功績でもある」とし、次のように語った。「変わるまでに時間がかかる企業もあったが、いまや変革に前向きな企業ばかりだ。消費者がオムニチャネルに何を求めているのかを把握し、より賢く対応できるようになっている」。リップスマン氏はほかにも、ターゲット社が日用品配達サービスのスタートアップであるシップト(Shipt Inc.)を買収して、当日宅配サービスを拡大した点や、カスタマーが購入した品を店舗で受け取るサービスについても指摘している。
一方、Amazonと競うなかでウォルマートは日用品とアパレル分野を充実させ、ノードストロームは商品を売らない新しいコンセプトの店舗を試験運用している。コールズは閑古鳥が鳴くショッピングモールから脱却し、店舗を増やして、Amazonとの提携を拡大させているし、TJマックスは実験的な小売サービスに力を注いでいる。
「気をつけたほうが良い」
ブリッツメディアのブレイ氏は「今回の復活劇の背景には、実店舗をもつ小売企業が、カスタマーデータを活用して、店舗への客足を増やそうとしてきた努力がある」と分析する。
それ以外にも、ターゲット社ら小売企業各社は、JCペニー(JCPenney)やトイザらス、ベビーザらスの店舗の閉店に伴って、マーケットシェアを獲得できた恩恵も受けている。また、これからの新学期シーズンも第3四半期における小売企業のさらなる成長を期待させる要因となっており、「TJマックスやコールズといったディスカウントストアにとってはこれ以上ない状況となっている」と、ブレイ氏は指摘する。
だが、小売という気まぐれなマーケットにあって、こうした右肩上がりの収益は長く続かないだろうと、悲観的な見方をするアナリストも存在する。フォレスターのコダリ氏もまた、次のように分析しているひとりだ。「喜ぶのは良いが、気をつけたほうが良い。小売にはサイクルがある。消費者の支出はすぐに増えた。同じように、財布の紐をしめるのにもさして時間はかからないだろう」。
Ilyse Liffreing(原文 / 訳:SI Japan)