アパレルのレンタルプラットフォームの レント・ザ・ランウェイ (Rent the Runway)は、収益の多様化とコスト削減に重点を置き、黒字化を目指している。新しいマーケティングチャネル、マーケット、スタイルへの投資によりアパレルへの需要が依然として不確定なこの時期に消費者をレンタルに引き戻そうと試みている。
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アパレルのレンタルプラットフォームのレント・ザ・ランウェイ(Rent the Runway)は、収益の多様化とコストの削減に重点を置きながら、依然として黒字化を目指している。
レント・ザ・ランウェイは12月8日、株式を公開してからはじめての決算発表において、8780万ドル(約100億円)の純損失を計上し、アクティブな加入者数は11万6833人と、パンデミック前のユーザー数の87%に過ぎなかったことを報告。これに対して、経営陣は同社の黒字化を推進するためのコスト削減のメカニズムと収益源の多様化を強調するため躍起になった。新しいマーケティングチャネル、マーケット、スタイルへの投資により、同プラットフォームはアパレルへの需要が依然として不確定なこの時期に、消費者をレンタルに引き戻そうと試みている。
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新しい利用シーンを求めて
レント・ザ・ランウェイは2009年に設立され、結婚式など特別なイベントのためにデザイナー服を1回限りでレンタルすることを主な事業としていた。その後、ニューヨーク、シカゴ、ロサンゼルス、サンフランシスコ、ワシントンDCへと実店舗を拡大し、大都市のオフィスワーカー向けに、自宅のワードローブを補うための月額制サブスクリプションモデルを追加した。しかし2019年から2020年にコロナウイルスのパンデミックが起き、労働者がオフィスに通勤しなくなり、イベントが中止になり、アメリカ人が沿岸部から移住するにつれ、同社のアクティブユーザー数は13万3572人から5万4797人に減少し、レント・ザ・ランウェイは店舗を閉店することになった。
コンサルティング企業のSSAアンドカンパニー(SSA & Company)のバイスプレジデントを務めるクリス・ベントリー氏は次のように述べている。「顧客の増加が予測を下回ったことから、レント・ザ・ランウェイの加入者数は2019年より低い水準にとどまっている。社交的イベントや企業の再開にもデルタ株の影響がおよんだため、2021年第3四半期も事態は好転しなかった」。
同社はなお、自社のレンタルサービスの新しい利用シーンを見つけることに注力し、新しい市場を試みている。ニューヨーク、ワシントンDC、サンフランシスコでは依然としてパンデミック前の利用率を下回っているものの、レント・ザ・ランウェイのほかの市場はパンデミック前のアクティブユーザー数の90%に達しており、南大西洋、南部、山岳地域ではパンデミック前のユーザー数を上回った。
レント・ザ・ランウェイの共同創設者でCEOのジェニファー・ハイマン氏は決算説明会で、「当社の上位20市場以外に居住する加入者は、コロナ禍以前の23%から、今では29%に増加した」と述べている。
また同社は、ユーザーが日常的な衣服のサービスを求めるようになっていることに対応するため、商品の構成をよりカジュアルな衣服に移している。ただし、Zoom会議で着やすい仕事着や、イベント用の服のオプションも残している。ハイマン氏は、2021年にユーザーがレンタルしたうちの25%が仕事着、25%が特別な機会に着る服だったと語っている。
リセールへの取り組みも強化
同社がブランドアンバサダーやアフィリエイトマーケティングと、TikTok、YouTube、OTTなどの新しいチャネルに投資する計画を進めるにつれ、マーケティングのメッセージングも変更されつつある。目標は、1度きりの顧客が長期的なサブスクライバーに移行するのを促進することだと、ハイマン氏は説明している。同社はS-1ファイルで、同社の顧客獲得コスト、または「マーケティング総経費」が顧客あたり55ドル(約6270円)だと報告している。ただし、2021年第4四半期に同社はマーケティングへの投資を前年比で140万ドル(約1億6000万円)から1080万ドル(約12億3100万円)に増やしている。
2021年の初めには、リセールへの注力も拡大した。同社は常にレンタルの加入者に対して、レンタルした服を購入する機会を与えていたが、4月には加入者以外の顧客も着用前の商品を購入できるようになった。2021年第4四半期のリセールの収益は前四半期と比べて増加したと、CFOのスカーレット・オサリバン氏は述べているが、その額は明らかにしていない。
コアサイトリサーチ(Coresight Research)のアナリストであるサニー・ツェン氏は次のように述べている。「アパレルのリセールは、明らかにアパレルのレンタルより大きな市場だ。レンタル企業はリセール市場に参入するためのサービスをテストしており、サービスプロバイダによって、これらふたつのサービスの境界があいまいになっていくだろう」。
これらの一般向けサービスの変化の裏で、レント・ザ・ランウェイはコスト削減も進めている。2021年第4四半期には自宅での引き取りサービスを開始した。同社のサードパーティのロジスティクスプロバイダであるエクスペデル(Xpdel)は顧客の自宅で商品を引き取り、レント・ザ・ランウェイのフルフィルメントセンターに戻す。これによって配送コストを削減できると経営陣は述べている。同社がこのプログラムを実験的に試みた5つの都市では、顧客の3分の1がこのサービスを使用した。
「当社は、輸送コストの高騰を軽減するため、いくつかの戦略を実行に移した」とサリバン氏は述べている。
さらにレント・ザ・ランウェイは「キャピタルライト(資本の負担が少ない)」な商品獲得にも重点を置いていると、ハイマン氏は語る。同社の「シェア・バイ・RTR(Share by RTR)」プログラムにより、同社は「無償か、ごくわずかな額」で商品を獲得し、商品を提供したブランドと利益を分け合うことができる。一方で、「エクスクルーシブ・デザイン(Exclusive Designs)」はブランドパートナーとのパートナーシップにより製造され、同社によれば、レント・ザ・ランウェイが以前に採用していた卸売形式よりも50%低いコストで提供されるという。2021年には、同社の在庫の56%はこれらふたつのモデルのいずれかを使用することになると、ハイマン氏は予測している。
黒字化への道のり
しかし、同社が黒字化を実現するための道筋は不明確である。収益は前年比で66%も増加しているが、損失も増加している。同社は2020年の第3四半期に4430万ドル(約50億5000万円)、2021年は8810万ドル(約100億円)の損失を計上している。収益は5900万ドル(約67億3000万円)であった。
マーケティング費用の大きな増加とともに、レント・ザ・ランウェイのほかの経費も増大している。フルフィルメントのコストは前年の1100万ドル(約12億5000万円)から1920万ドル(約21億9000万円)に増加した。テクノロジーコストも940万ドル(約10億7000万円)から1280万ドル(約14億6000万円)に増加。一般および管理コストは前年の1790万ドル(約20億4000万円)から、今四半期には3580万ドル(約40億8000万円)に急増している。
カーニー(Kearney)の消費者向けプラクティスマネージャーを務めるアシュリー・ローシャリネア氏は、オフィスへの復帰が再度遅延する可能性が高いことから、レンタル小売業者の問題も2021年第4四半期に持ち越される可能性が高いと述べている。
ローシャリネア氏は次のように述べている。「変異株や、健康と安全についての懸念はもうしばらく続き、消費者は以前に経験していないような方法でのレンタルをためらうだろう。しかし、2021年の1月に起きたように、多くの消費者がハイブリッドの労働環境に復帰するにつれ、我々の生活と同様にハイブリッドなワードローブを持つレンタルへの関心も増大する可能性が高い」。
[原文:Rent the Runway rethinks strategy in its quest to finally turn a profit]
Maile McCann(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Rent the Runway