ウォルト・ディズニーに勤めていたパム・フォーバス氏はこの夏、世界的酒造メーカーであるペルノ・リカール(Pernod Ricard)のCMOに就任。それから1週間も経たずして、Facebookのボイコットに参加するかの議論が社内で行われた。
ウォルト・ディズニー(Walt Disney)に勤めていたパム・フォーバス氏はこの夏、世界的酒造メーカーであるペルノ・リカール(Pernod Ricard)のCMOに就任。それから1週間も経たずして、Facebookのボイコットに参加するかの議論が社内で行われた。コロナ禍のなか、ほかのマーケター同様、マーケティング戦略の軌道修正に取り組んでいたフォーバス氏だが、ボイコットについても悩まされることとなったのだ。
ベルノ・リカールは、ボイコットやコロナ禍を受け、伝統的なメディアにより広告費を投下することを決めると同時に、eコマース機能の強化を行った。さらに同社は、責任あるメディアに向けた世界同盟(Global Alliance for Responsible Media:GARM)および全米広告主協会(Association of National Advertisers:ANA)と提携。オンラインでのヘイトスピーチを抑制しようとするマーケターのために両者の支援を受け、#エンゲージ・レスポンシブリー(#EngageResponsibly)というプログラムを展開している。
この取り組みは、10月21日に全米広告主協会が開催したバーチャル会議、マスターズ・オブ・マーケティング(Masters of Marketing conference)で、米ペルノ・リカールのCEOアン・マケージー氏が発表したものだ。米DIGIDAYは、同会議でフォーバス氏にインタビューを実施。#EngageResponsiblyの目的と、ベルノ・リカールのマーケティング戦略について話を訊いた。なお、以下は内容を明瞭にするため、若干編集している。
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――ヘイトスピーチ対策に乗り出した理由は?
ペルノ・リカールに来て1週間も経たないうちに、ボイコットに参加するか否かの議論が行われた。ご存知の通り、私はディズニーでSNSの分析を行っていた。そのとき、SNS上でさまざまな感情的、かつ攻撃的な投稿を目にしているので、何が起きているのかは大体想像ができたし、ボイコットはそれに対して多少の効果はあるだろうと期待していた。しかし実のところ、私は心の底で、ヘイトスピーチは完全には無くならないだろうとも思っていた。
そうなると、自分には何ができるのか? 私は「8月1日以降(多くの広告主は7月31日にボイコットをやめた)、我々はどうするべきか?」と自問自答していた。結果、我々は話し合いを重ねた上で、ボイコットに参加するだけでなく、Facebookにとどまらず、より広範囲かつ積極的に運動に参加しようと決めた。
――そう考えた理由は?
ここまで事態が深刻化すると、ただ人種差別に立ち向かうのではなく、アンチ人種差別、アンチヘイトスピーチとして、より戦略的、かつ積極的に取り組む必要性を感じたからだ。では、具体的には何をすべきか? 我々はその解を見つけるために有識者たちとブレインストーミングを行った。はじめは、どうしたらヘイトスピーチ一つひとつを潰していけるかを考えていたが、それはあまりにも無謀な取り組みだと気付き、ステークホルダーであるGARMや、ANAと連携することにした。さらに、セールスフォースやWPPも迎い入れ、非常に大規模な構想としてスタートした。というのも、ネット上でのヘイトスピーチ拡散を防止するには、多様な連携が重要になるからだ。そうした連携を通じてヘイトスピーチを抑制し、ブランドセーフティを確保しやすい環境を実現したい。
――それが今回の取り組みの目標になる?
現在の目標は、参画するブランドすべてが名を連ねるような、非営利組織を作ること。これは、顧問委員会を中心とする共同組織を想定している。
これまでの活動を紹介すると、たとえば我々はすでに、中小企業や消費者を対象にいくつかの調査を行っている。わかったのは、多くの企業がヘイトスピーチを止めるためのツールを求めているということだ。すでにさまざまなプラットフォームが、ヘイトスピーチを抑制するためのツールを提供しているので、こうした事実や、FacebookやTwitterの既存ツールでも、通報するなどして対応可能なことを周知したい。
さらに、通報という対処方だけでなく、今後はプラットフォームを横断して情報収集を行い、ヘイトスピーチを炙り出す非常に堅牢なデータベースを構築できると考えている。ヘイトスピーチへの問題意識を高めるとともに、ブランドがプラットフォームにおけるヘイトスピーチの状況を見極め、安心してマーケティング活動ができる環境を整えたい。
ヘイトスピーチは非常に深刻な問題だ。名誉毀損防止同盟(Anti-Defamation League、通称:ADL)によれば、35%もの人が、ネット上でヘイトスピーチやいじめを経験したことがあるという。これをすべてなくせるとは思わないが、状況を打破するための選択肢を提供したい。我々が作っているのは、ヘイトスピーチと戦うためのツールなのだ。
――コロナ禍によってペルノ・リカールのメディア戦略は変わったか?
ペルノ・リカールはこれまで、オフラインで顧客と対面する場を多く作ってきた。しかし、その舞台となっていた音楽祭やバーなどが開催できなくなっている。オフライン施策のための予算を、使わないでおく企業もあるようだが、我々は小売マーケティングの予算を倍増し、伝統的なメディアをより活用するようにした。ウォッカブランドのアブソルート(Absolut)のテレビCMも、3年ぶりに再開している。
また、我々は実店舗におけるマーケティングにも力も入れている。メディアや小売、eコマースなど、消費者がいるところであればどこでもマーケティングを行うべきだ。さらに、蒸留酒業界では、消費者トレンドが重要になるが、これについてはeコマース専門チームを構築して分析を進めている。
――マーケティング予算はコロナ以前と比べてどう変化した?
マーケティング予算はコロナ以前と変わらない。しかし、メディアへの支出は倍増している。当社の場合、コーチェラ・フェスティバル(Coachella Valley Music and Arts Festival)やバーでのイベントのスポンサー活動に多額を投じていた。しかしイベントができなくなったことで、その分の予算を残しておくか、メディアに使うかの選択をすることになり、メディアに使うことにした。
――なるほど。どういったメディアに使われたのか?
それはブランドによる。既存の広告資産を再利用できるブランド、たとえばウイスキーブランドのグレンリベット(Glenlivet)は、この秋テレビCMを開始する。非常に楽しみだ。一方、広告資産がないブランドの場合は、オンラインやeコマースに費用を当時るケースが多い。
――他社でもD2Cをはじめるところが増えているが、御社はどうか?
アルコールのオンライン販売については、州ごとに法律が異なる。我々は、オンライン販売を実施している小売企業とも提携しているし、ドリズリー(Drizly)とリザーブ・バー(Reserve Bar)については、消費者からはD2Cモデルを採用しているように見えるだろう。しかし現状、蒸留酒の直販はできない。そこがほかの業界とは少し異なる点だ。しかし、我々もD2C企業に負けないよう、さまざまな取り組みを行っている。
――コロナ禍がなければ、D2C化もいまほど加速しなかったと思うか?
いまほどは進んでいなかったはずだ。(酒造業界は)消費者が主導する業界であり、どのように消費者に届けるかは以前から大きな課題だった。以前はレストランですら、持ち帰り用カクテルは販売できなかった。率直なところ、変えるべきだと思う法律はほかにもいくつかある。
――いま、ドリズリーなどの広告を増やしている?
増やしている。伝統的なメディアのほかにも、1クリックで購入ページに飛べる、クリックトゥバイ広告(click-to-buy ads)といったオンラインマーケティング活動を強化しているところだ。我々は、プラットフォーム広告と、検索広告を組み合わせてうまく利用している。
オンラインにも投資しているのは、出稿するべきメディアの考え方が変わったからだ。現に、eコマースについて提案する人は、以前であればひとりいるかどうかだったが、いまやEC専門チームができている。今後、より多くのリソースをECチームに割くことになるだろう。
――eコマースに力を入れたことで結果は出ている?
eコマースを推進しているブランドの多くは、まだ試験運用中ともいえる。うまくいくかを試すだけでなく、運用面についても確認している。いろいろなテストを行いながら、どう測定するかを考えていく必要がある。今四半期でさまざまなことが分かってくるだろう。
KRISTINA MONLLOS(翻訳:SI Japan、編集:村上莞)