記事のポイント 昇進後に退職を検討する従業員が増加しているというデータがあり、とくに就職の壁が低い仕事においてより顕著である。 昇進後の退職の理由として、スキルミスマッチや評価不足が挙げられるほか、昇進が実質的な変化をも […]
- 昇進後に退職を検討する従業員が増加しているというデータがあり、とくに就職の壁が低い仕事においてより顕著である。
- 昇進後の退職の理由として、スキルミスマッチや評価不足が挙げられるほか、昇進が実質的な変化をもたらさない場合、従業員はモチベーションを喪失し、退職を選ぶ可能性が高まるという。
- 昇進は市場価値向上と高給与の機会をもたらすことがあり、他社への転職を検討する刺激となる可能性もある。
昇進させたからといって、その従業員が会社に残ってくれるとは限らない。事実、正反対の結果を招くこともある。
給与計算サービスプロバイダーのADPによる最新データによると、昇進直後は実際、転職の確率が高まるという。昇進から1カ月以内に自主退職した人の割合は3分の1近くに上り、そうでない人の割合の18%を大きく上回った。この傾向はまた、就職の壁が低い仕事においてより顕著であることも、ADPの調査で判明した。
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昇進という贈り物は、従業員の忠誠心を高め、そこに至るまで何年も頑張り続けるよう背中を押すための切り札のひとつだと、長らく信じてきたマネージャーや雇用担当者にしてみれば、これは憂慮すべき統計結果にほかならない。
せっかく昇進できたのに、なぜ早々に退職するのか。その原因の根本に迫るべく、米DIGIDAYは採用担当者、心理学者、現場リーダーらに話を聞いた。以下がその5大理由だ。
精神的プレッシャーと燃え尽き症候群
肩書きの変更は、精神面を含め、さまざまなかたちで過大な重荷になりうる。出世の階段を上がることは、新たな責任とより多くの仕事量を背負うことを意味する。そしてそこには当然、会社/上司の期待にしっかりと応え、自分を一段上のレベルに引き上げてくれた判断が正しかったと結果で示さなければ、という新たなプレッシャーが付いてくる。
「なかには、そうした突然の変化を過大な重荷に感じる人もおり、そこから自分が不十分だと感じる、いわゆるインポスター症候群に陥る場合もある」と、心理学の認定専門家およびライフコーチで、ライフ・アーキテクチャー(Life Architekture)の創業者バイユ・プリハンディト氏は話す。「彼らにしてみれば、退職はその新たなプレッシャーから逃れる術となる」。
しかも、出世はあくまでも表向きの顔であり、内実は10の仕事をひとつにまとめて放り投げられただけ、という場合もある。
「それらしい肩書きで実態を隠す手口は、燃え尽き症候群の引き金になる」と、人材派遣会社イースト・サイド・スタッフィング(East Side Staffing)の創業者ローラ・マズーロ氏は指摘する。「期待に胸膨らませて昇進話を受けたはいいものの、蓋を開けてみれば、人手は足りないし、仕事量は多すぎるし、予算は明らかに少ない。これが逃亡危機を招く」。
スキルミスマッチ
名選手はえてして名監督にならない。つまり、平社員として非常に優れていても、管理職としては実力を発揮できない場合もありうる。もしもその人がそれに気づいたら、元の地位への降格を上司に掛け合う代わりに、退職を選ぶことも考えられる。
「それまでの仕事で満ち足りていたのに、昇進したせいで自身の関心や長所にそぐわない責務を背負わされたと感じる人もいる」と、RFPサクセス・カンパニー(RFP Success Company)の採用担当者チェリ・フィッシャー氏は話す。「職務内容におけるこの明らかなミスマッチが原因となり、その人はキャリアの道筋を見つめ直し、自身の能力や仕事への情熱により合致する役割を求め、退職を真剣に考えるかもしれない」。
認識の欠如
昇進は嬉しいものだが、会社/組織の姿勢がおざなりであると、自分は正当に評価されていない、あるいはその肩書きにふさわしくないと、その人に思わせてしまう恐れもある。端的に言うと、昇進と然るべき評価は不可分、ということだ。
「たゆまぬ献身と傑出した貢献は、認識と評価に値する」とフィッシャー氏は話す。「言い換えれば、その頑張りが認められないと、その人はやる気を失い、努力が真に評価され、報われる場所を探し求めはじめ、結果的にその組織を後にするかもしれない」。
これはまた、いまさらその程度では足りない、という事態にもなりうる。「昇進を勝ち取るために何を犠牲にしてきたのか?」と、ブロード・パースペクティブ・コンサルティング(Broad Perspective Consulting)の創業者バーバラ・パーマー氏は問う。忠誠心が高く勤勉な従業員は、自分の価値を組織に認めさせるために無理をしてでも頑張らねば、と思うかもしれないし、それは高すぎる代償を生みかねない」。
マズーロ氏もこれに同意し、「不満はいわゆる『従業員体験(EX)』を損ない、ひいては『雇用者(エンプロイヤー)ブランド』を損なう」と話す。
何も変わらない
昇進と聞くと、素直に嬉しいし、キャリアの成長機会を掴んだと思うものだが、実際には何も変わらないという場合もある。堅実な成長計画/構造のない会社の職場には、往々にしてそれが見られる。
「昇進は、蓋を開けてみたら、拍子抜けだったということも少なくない。昇給や報告書、または責任の量が増えるなど、多少の変化はあるが、職場の環境も文化も一切変わらないという場合がそれにあたる」と、スペシャリスト専門の人材派遣会社であるウィズ・フロンティア(With Frontier)の創業者ジェームズ・コンドン氏は指摘する。
さらなる高給・高待遇の機会
昇進と同時に、その人の市場価値は上がる。他企業との面接時、それまでは「年収はこの程度」としか言えなかった人が、いまやもっと高い数字を出せるし、場合によっては、それを上回る額の要求さえできる。「なかには、昇進まで静かに機会を待ち、新たな肩書きを手にした途端、もっとよい給与、気分転換、新たな人間関係/環境をくれる別の会社に向かう人もいる」と、コンドン氏は話す。
パーマー氏いわく、内部昇進の場合、給与ベースは一般に市場のそれよりも低いという。つまり、肩書きを手にした途端、その人の市場価格はおそらく、社内評価よりも高くなる。「給与の15%増と聞くと、かなりの昇給に思えるが、転職すれば、35~50%増も期待しうる」と同氏は言う。「高額を示してくれる市場に対して、ノーとは言い難い」。
加えて、LinkedIn上の肩書きを変えた途端、その人は他社のレーダー網に引っかかり、数々の新たな機会を目にすることになる、という事情もある。「それまでとは異なる輪のなかで活動することになり、したがって、それまではよく知らなかった機会が次々に現れてくることも十分考えられる」とパーマー氏は指摘する。
[原文:Here are five reasons why people are quitting after being promoted]
(翻訳:SI Japan、編集:島田涼平)