米国の小売業界では、今年はほとんどリアル店舗の営業が行えない年となり、大手小売企業の倒産が相次いだ。しかし、ショッピファイ(Shopify)のプレジデント、ハーレイ・フィンケルステイン氏は、小売業界の回復力と潜在能力を信じていると述べる。
米国の小売業界では、2020年はほとんどリアル店舗の営業が行えない年となり、大手小売企業の倒産が相次いだ。しかし、ショッピファイ(Shopify)のプレジデント、ハーレイ・フィンケルステイン氏は、小売業界の回復力と潜在能力を信じていると述べる。とりわけeコマース分野は、2020年に2桁成長を達成(石油や自動車、食料品サービスを除けば、小売全体でも、2020年1月から11月にかけて6.6%の増加を記録)している。
同氏は、米DIGIDAYの姉妹サイト、モダンリテール(Modern Retail)のポッドキャストにて「ショッピファイは、独立系の小売企業のさまざまな業務を代行する役割を担っている」と述べる。同社は今年、ブラックフライデーからサイバーマンデーまでの4日間で、50億ドル(約5200億円)の売上を達成した。「このことから読み取れるのは、独立系の小売企業、あるいはデザイナーズブランドの商品を直接オンラインで購入する消費者が増えているということだ」と語る。
ショッピファイは、ユーザー自らがeコマースサイトを作るためのサービスを展開している。同社によれば、昨年の収益はイーベイ(eBay)を抜き、小売プラットフォーマーとしては米国で2位となっている(1位は当然ながらAmazon)。
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フィンケルステイン氏は「当社の理念は、パートナーのための価値創出を通じて、我々自身も成長を続けていくことにある」と語る。以下は、同氏へのインタビューの一部だ。なお、発言の意図を明確にするため一部に若干の編集を加えている。
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ショッピファイのパンデミックへの対応
「私は先日、『2020年の計画はすべて白紙撤回にする』ことを通達した。そして、6000人の社員に対し、ショッピファイを利用している販売業者や中小企業、ブランドがこの危機を生き抜き、成長できるようサポートすることを最優先に考えるよう伝えた。2020年は、まるで2030年の小売業界のあり方を見ているようで、あっという間に時間が過ぎていった。小売業界のデジタル化は、現在それほど大規模かつ迅速、リアルタイムに進んでいる。デジタル化を検討していなかった企業や、eコマースに抵抗のあったリアル店舗を中心に展開してきたブランドも、急速なデジタル化を迫られた。そして、多くのブランドがショッピファイを利用しはじめたのだ」。
「我々はサービスを通じて彼らのビジネスに貢献するだけでなく、融資ローン・サービスの展開も実施した。具体的には、約10億ドル(約1030億円)の資本と現金を用意し、中小企業への融資を行った。また、米国を飛び出して英国とカナダへの進出も行った。コロナ禍で苦しむサービス業の企業を支援するための取り組みも行った。これにより、たとえばネイルサロンやクリーニング屋などのキャッシュフローが、一定程度とはいえ安定した。また、カーブサイドピックアップやローカルデリバリーを通じて配送する商品の種類も増やし、配達までの時間を短縮。こうした多くの取り組みを、パンデミックから最初の2週間ほどで実施した」。
「独立系小売企業の代行サービス」
「現在、かつてないほどに起業家の数が増えている。米国の国勢調査局によると、第3四半期の企業登録数は、2004年以降で最多だったという。特に小売企業は、この苦境下でも粘り強く闘ってきた。我々は、そんな小売企業に、さまざまな代行サービスを提供している。ブラックフライデーからサイバーマンデーまでの4日間で、我々は実に50億ドルを超える売上を達成した。ここから読み取れるのは、独立系の小売企業や、デザイナーズブランドの商品を購入する消費者が増えているということだ」。
「百貨店のワナメイカー(Wanamaker)は、ジョン・ワナメイカー氏の手によって、1876年にフィラデルフィアに設立された。当時、多数のブランドがひとつ屋根の下でこぞって店を出すというのは、革命とも呼べるような大きな変化だった。この出来事は後々、小売業界におけるパラダイムシフトとして、語り継がれるだろう。そして、小売業界におけるシフトという点でいえば、今回のパンデミックは、まさにそうなのではないかと考えている」。
ESPNの『マイケル・ジョーダン:ラストダンス』で考えたこと
「マイケル・ジョーダン氏が、ナイキ(Nike)でジョーダンブランド(Jordan Brand)を立ち上げたのは興味深い。これは、ジョーダン氏がナイキに個人ライセンスを提供し、ロイヤリティを得るという座組みだ。しかし、なぜジョーダン氏はナイキと提携したのか。それは、ジョーダン氏は『流通』手段を持っていなかったからだ。彼には、ナイキと提携する以外の選択肢がなかった。自らブランドを所有するのではなく、ライセンスを提供する形式しか取れなかったのだ」。
「しかし、ファッションモデルのカイリー・ジェンナー氏は、自身のブランドを確立している。いまや、アスリートや有名人、アーティスト、シンガーなど、オーディエンスを擁していれば誰でも、D2Cという形式でブランドを(ライセンス提供することなく)自分のものとして展開できる。皆、カイリー氏の話はすでにうんざりするほど聞いているかもしれない。しかし、これほど繰り返し話題になるのは、たった8人で10億ドル(約1030億円)のブランドを構築したからだ。これは、5年前には考えられなかったことだ」。
Pierre Bienaimé(翻訳:SI Japan、編集:村上莞)