広告主とパブリッシャーの距離を縮める試みは、これまでも行われてきたが、両者のあいだに存在する仲介業者の数は非常に多く、その道のりは困難なものだった。だが、広告主の関心は、メディア販売業者に影響が及ばない範囲で、ベンダーに支払う料金をいかに管理するかに向けられている。
アドテク契約を自社で設定する広告主が増えている。そんななか、広告主各社はプログラマティック広告予算のうちパブリッシャーに直接渡る割合をこれまでより増やすため、実証可能な手段へと移行しつつある。
広告主とパブリッシャーの距離を縮める試みは、これまでも行われてきたが、両者のあいだに存在する仲介業者の数は非常に多く、その道のりは困難なものだった。だが、ハーシーズ(Hershey’s)が広告パフォーマンスを妨げず、逆に強化するようなベンダーと和解したように、広告主の関心は、メディア販売業者に影響が及ばない範囲で、ベンダーに支払う料金をいかに管理するかに向けられている。
プログラマティック広告の購入は、入札者が決まる前から広告サーバーが関与しており、仲介料をとる中間業者はほぼ不可欠といっても良い。アドテク関連にかかる隠れ費用が判明した当初は騒ぎになった。だが、自社のメディア予算から支出するのでなければ支払う気があるプログラマティック広告の広告主のあいだでは、実用主義的な考えが広まりつつある。
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「透明性の確保」が最優先
P&G(Procter & Gamble)のトップマーケターのマーク・プリチャード氏は、今年はじめに全米広告主協会(ANA)の役員と会った際に、同協会が支援する非営利のプログラマティックマーケットプレイスのトラストX(TrustX)がサプライチェーンに課している12.5%の販売手数料を無くせないかと訊ねた。この会合について知るあるメディア役員によると、プリチャード氏は実際のメディア支出に影響さえなければ、この手数料に不満があるわけではなかったという。そのかわりに同氏は、こうした手数料はサプライチェーン内からの請求ではなく、個別の請求とすべきだと主張した。透明性の確保と責任の所在を明らかにするためだ。
トラストXのプレジデント兼CEOのデイビッド・コール氏は、「全米広告主協会に関して問題視されているのは現在の手数料構造だ。一般的には、この業界の複雑なサプライチェーンの各段階でメディアの購買力が減るような構造となっている。それをより透明で、責任の所在がはっきりした構造へと変化させる必要がある」と語る。「誰が支払っているのか、如才ないプログラマティック広告主が正確に把握できるような構造にならなければならない。全米広告主協会は、広告主が支払う際に複雑な料金構造のなかから手数料の額をすくい上げて完全に明確にできる仕組みを求めている。だが、いまはまったくといって良いほどそうなってはいない」。
このような主張はまだ業界基準とはいえないものの、広告主のなかでもパブリッシャーやSSPと直接やりとりして、自ら広告を販売する企業が増えはじめており、これまでよりも活発に主張されるようになっている。世界的な広告主とプリチャード氏と同様の話し合いを行ったというあるメディアディレクターは、匿名を条件に次のように語った。「アドテク業界の手数料にはさまざまな負の側面もある。だが、メディアバイイングに付加価値をもたらすような、良く設計されたサービスであれば喜んで払うつもりだ。ただし、そのためには、サプライチェーンのあらゆる段階で、何が起きているのかはっきりと把握できる必要がある。そのために。昨年SSPと会合を設けたのだ」。
英国では、広告業界団体の英国広告主協会(ISBA)と広告業協会(IPA)、オンラインパブリッシャー連盟(AOP)、そして監査役のPwC(PricewaterhouseCoopers)のもとで、SSPとDSPによるデータを適合させるプロジェクトが進行している。SSPとDSPが有する2つのデータセットを評価することで、広告主はパブリッシャーがどのアドテクベンダーでインベントリーを販売するのが適切かを判断できるようになる。こうした分析情報があれば、広告主はパブリッシャーやインベントリーの販売を代行するアドテクベンダーから、より良い契約を引き出すことができる。
サプライパス最適化
ハーシーズのアドレッサブルメディア部長を務めるビンセント・リナルディ氏は「プログラマティック広告でまず注目されたのは、技術とデータ所有権だった。次に注目されたのがサプライチェーンのなかでパブリッシャーがどのように参入するかだ」と、指摘する。「我々はパブリッシャーや彼らが必要とする技術関連の利益競争に巻き込まれたくないんだ」。
そのための出発点となるのがプログラマティック広告に関する直接契約だ。広告主がパブリッシャーと直接契約を結んで固定価格で同意した場合、キャンペーンの管理を行うSSPへ支払う意義は、ほぼなくなる。
そのため、リナルディ氏はサプライパス最適化を検討している。サプライパス最適化とは、ハーシーズのような広告主が使用する予算のうち、パブリッシャーに届く割合を最大化するためのアルゴリズムとプロセスを包括した用語だ。リナルディ氏は、同氏のチームは、いまも社内管理するDPSに取り組んでいるため、サプライパス最適化についての具体的な話は時期尚早だとしている。
「これまでアドテクスタックの整理を行ってきたが、それに従い、測定に関してはウォールド・ガーデン以外のツールを活用しようという意見が強まった」と、リナルディ氏は語る。「そうした局面でSSPは中心的な役割を果たすだろう」。
言動が一致しない広告主
パブリッシャーに届く予算割合の最大化について、広告主がどれほど真剣に考えているかは、今後さらに明らかになっていくだろう。いずれにせよ、広告主はこれまでもパブリッシャーとの直接取引について検討してきた。複数のパブリッシャーとアドテクベンダーとの関係を管理するのは容易ではない。だからこそ複数のSSP役員がここ数カ月でRFI(情報提供依頼書)を何件かまとめているにも関わらず、いまだ広告主と直接的な話し合いには至っていないのだ。大半のケースにおいて、広告主は透明性に関して言動が一致しているとはいいがたい。
ある役員は匿名を条件に次のように明かした。「特に消費財や電気通信事業分野の広告主からの要求が多い。我々が管理しているオークションの仕組みや透明性、料金についてさまざまな質問を受けているよ。だが、初志貫徹したといえるようなケースは一度もない」。
Seb Joseph(原文 / 訳:SI Japan)