Amazon 時代のいまでも、「印刷カタログ」が重要な理由

家具やホームグッズを販売するウェイフェア(Wayfair)は、13年前の設立以来、オンライン販売のみの会社だ。テクロノジー優先のアプローチが自慢であり、まるでデザイナーが内装を手がけたかのような没入体験を作り出す、拡張現実(AR)に投資をしている。

しかし、イノベーションに投資をする一方で、明らかによりアナログなものにも広告費を投じている。それは、印刷カタログだ。はがきやミニカタログといった大量のダイレクトメールのほかに、印刷カタログも送付しているのだ。

「カタログは、実体感のある豊かな買い物体験を顧客にもたらす、素晴らしい機会だ」と語ったのは、ウェイフェアで北米のマーケティング責任者を務めるボブ・シャーウィン氏。「高価値なターゲット顧客や、一部の地区に移ってきた人に送付しており、既存の顧客のほかに見込み客のターゲティングにも使っている」と話す。

広告でFacebookとGoogleの2強の独占が強まるなか、印刷カタログは過去の遺物だと見限られがちだ。たとえば、かつてカタログ小売りの象徴だったシアーズ(Sears)も、ついに破産を申請した。しかし、eコマース頼みの小売業者も、見込み客を捕まえたり既存客のロイヤルティを維持したりするのにカタログを展開するところが増えており、JCペニー(JCPenney)、ウィリアムズ・ソノマ(Williams Sonoma)、ラファイエット148(Lafayette 148)のような従来型の小売業だけでなく、エバーレーン(Everlane)、ボノボス(Bonobos)、ボウル&ブランチ(Boll & Branch)、グレイツ(Greats)といったスタートアップもそうしている。あのAmazonも、おもちゃのカタログをはじめると報じられている

印刷カタログと顧客データの組み合わせ

いまは顧客の取引や好みに関する情報のリストが充実しており、カタログやダイレクトメールは、お金をより使う人、あるいはその可能性が高い人へのリーチが重視されている。またカタログは、Facebook、Google、メールよりも親密で、そこまで競争がない広告でもある。

「いま通常の郵便に反響があるのは直観に反しているように聞こえるが、デジタルがそれだけ過密だということだ」と語ったのは、DTC(Direct To Consumer:直販)のシューズブランドであるグレイツの創業者、ライアン・バベンジン氏だ。「(オンラインは)騒がしくなってしまい、かつてのような効果がなくなっている」と語る。昨年のホリデーシーズンにダイレクトメールのテストを開始したが、収益はデジタルのみの場合をわずかに上回っているという。

ウェイフェアは長年、カタログを配布する範囲を極めてアクティブな顧客に絞っている。初期の実験では、トラフィックの増加という成果があった(トラフィック増の具体的な数字についてシャーウィン氏はコメントをしなかった)。ウェイフェアでは、カタログはブランドのアイデンティティを構築する物理的なタッチポイントのひとつだと考えており、カタログの成功を受けて、ポップアップストアなどオフラインの活動をさらに展開した。ポップアップストアではカタログ商品の一部を特集し、eコマースストアで購入できる製品を直に触って感じる機会を提供している。

「本当に大事なのは商品のストーリーだ」と語るのは、戦略コンサルティング企業A.T.カーニー(A.T. Kearney)でグローバル関係とリテール部門のリード・パートナーを務めるグレッグ・ポーテル氏だ。「eコマースの顧客を考えると、選択肢が幅広い。カタログは小売業者にとって、ストーリーを語り商品に文脈を与える機会なのだ」。

ウェイフェアなどの小売業者は、カタログを大量送付するのではなく、顧客についてわかっていることを使ったターゲティングを進めている。eコマース時代以前、行動をトラッキングする方法は、いまほど洗練されていなかった。いまは購買行動やウェブ閲覧などのデータ収集機能が充実し、的を絞ったアプローチが可能になった。

「データを駆使したリーチ拡大というのが、この10年間で発展した新しいスイートスポットだ」と、リテール・アドバイザーズ・ ネットワーク(Retail Advisors Network)の共同創設者でパートナーのブルース・ワインダー氏は語る。「小売業者はウェブサイトの行動データを使って価値の高い顧客をターゲティングできるようになった」。

ロイヤルティの獲得

高級家具小売りのマッケンジー・チャイルズ(Mackenzie-Childs)は、印刷カタログをeコマースストアにはできない方法でブランドのストーリーを説明するものだと捉えている。同社は印刷カタログを20年以上作っており、かつてはビジネスの大半がカタログによるものだったが、現在、オンラインのDTCのプレゼンス構築を進めている。いまは販売の60%がカタログによるものだが、2年前にはじめたeコマースのリニューアルを通じて、オンラインのみの買い物客へとだんだん舵を切っている

それでも、オフラインのカタログは重要な販売促進策だ。最高マーケティング責任者のラリー・ショー氏は、オンラインで取引の途中までいったような顧客にはメールを送信するが、販売を増やしていくためには、物理的なカタログによってブランドが提示しているものについて視覚的に理解を深めてもらうのが役立つと語る。

「価格の高い装飾品や家具などに関心をもってもらうにはこれがうってつけだ。新しい商品を記事のような形で提示する方法としても優れている」とショー氏。マッケンジー・チャイルズからすると、画面を通じて部屋の映像のなかで商品を見てもらえても、印刷されたページの代わりにはならない

カタログは視覚的に優れているだけではない。マッケンジー・チャイルズのカタログ戦略は顧客データが中核にある。マッケンジー・チャイルズが送付するカタログには、見込み客向けとロイヤルティが高い顧客向けの2種類がある。どちらを送付するかは、顧客の取引状況とウェブ閲覧履歴の分析に基づいて判断する。支出額が極めて多い顧客には、ページ数が通常版の2倍ある特別版を送る。特別版は品ぞろえが充実しているほか、デザインのアイデアを紹介した記事が掲載されている。

「追加のページは、インスピレーションを伝えたり、商品のさまざまな使い方を紹介したりするのに使っている」と、ショー氏は語った。

埋もれないために

A.T.カーニーのポーテル氏によると、顧客データはカタログを配布する範囲を絞るツールとして活用できるが、デジタルマーケティングや従来型のチャネルと組み合わせるとコンバージョンの測定が難しくなる恐れがある。これに対しマッケンジー・チャイルズのショー氏は、カタログのコンバージョン率を明確にするのは簡単で、小売業者は、カタログを受けとった人と販売データを突き合わせればいいのだと語る。ただ、カタログがたくさんあるチャネルのなかのひとつである場合には、販売増にいちばん寄与したツールを判断するのは難しいかもしれないと同氏も話す。

「難しい理由は、4~6週間で膨大な量のデータに取り組む必要があるから。並外れて複雑なのだ」と、同氏は話す。

20年以上、顧客にカタログを送付しているコストコ(Costco)は、カタログはオフラインとeコマースストア、両方の販売促進に欠かせないと主張する。

「テストで郵送をやめたところ、販売に大きな(マイナスの)影響があった。印刷物には力がある」。

コストコはメンバーシップに基づくビジネスモデルであることから、顧客に関する詳細なデータをもっている。顧客が受け取るカタログと郵便物は、顧客にあわせてパーソナライズするように取り組んでいるという。しかし、8000万人を超えるメンバーをカテゴライズするシステムの開発には時間がかかる。

「何が重要で埋もれないのか、情報が多いことに苦慮している」と、コストコのコーポレートマーケティング担当VPのサンディ・トーリー氏は、語る。「メンバーのデータを使ってメンバーであるはずの人を割り出しているが、来年には、(オンラインやダイレクトメールのアウトリーチに)購入データや検索履歴を使えるようにしたいと思っている」と同氏。

カタログには小売業者のデジタルマーケティング戦略にプラスになる可能性があるが、カタログ事業にeコマース層を1枚組み合わせるだけでは、競争が激しさを増している市場での成功は保証されない。小売業者が成功するのに、プロダクトマーケットフィットと効果的な価格設定に力を入れる必要があるのは変わらない。

「(カタログは)答えではない。顧客ベースにアクセスするよりよい方法というだけだ」とポーテル氏。「小売業者は適切な価格設定と適切な組合せを実施する必要があるというのは変わらない。小売業者は、やはりよい小売業者である必要があるのだ」と同氏は語った。

Suman Bhattacharyya (原文 / 訳:ガリレオ)