以前なら、成長を目指す 飲料系スタートアップ が取る一般的なコースは、ポップアップや展示会に参加して、大手小売企業の大量注文を獲得することだった。これを変えたのが、新型コロナウイルスのアウトブレイクだ。ここ最近のオンライン売上の急騰は、チャネルの多様化を追求する価値があることを証明している。
いまのスーパーの飲料売り場は、10年前とは随分違って見える。その原因は新型コロナウイルスだ。
以前なら、成長を目指す飲料系スタートアップが取る一般的なコースは、ポップアップや展示会に参加して、大手小売企業の大量注文を獲得することだった。これを変えたのが、新型コロナウイルスのアウトブレイクだ。これによって、多くの人々が食料品をオンラインで購入するようになった。かつては、運営にかかるコスト(と、重い飲料の輸送にかかる関連費用)を考えると、eコマースは採算が合わなかった。ところが、ここ最近のオンライン売上の急騰が、チャネルの多様化を追求する価値があることを証明している。
強固なeコマースチャネルを築いてきたスウーン(Swoon)やサンゾー(Sanzo)、サンウインク(Sunwink)、そしてオリポップ(Olipop)などの企業のもとにはいま、卸売業者や食料品系パートナー企業から関心が寄せられるようになっている。消費財(CPG)の売上が歴史的な急騰を見せていることを考えると、それももっともな話だ。P&G(プロクター&ギャンブル)は6月までの1年間で、234%の成長を達成し、2006年以降で最高となる年間利益を記録した。一方、アメリカ国内の小売各社も消費者の買い溜めから恩恵を受けている。この追い風を受けて、ウォルマート(Walmart)は先の四半期にオンライン売上の74%の増加を記録した。
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オンライングロッサリーの勢い
パンデミック初期、オンライングロッサリーの売上は全体的に大きく成長したが、その勢いはまだまだ弱まりそうにない。ブリック・ミーツ・クリック(Brick Meets Click)とマーカタス(Mercatus)が共同で行った最新調査によれば、オンライングロッサリーの売上は6月、72億ドル(約7617億円)に達し、5月比で9%の増加を記録したという。
そしていま、これによって食料品市場に変化が生じつつある。健康食品の専門店や、ホールフーズ(Whole Foods)で扱われるのが一般的な高級飲料ブランド各社が、スピーディーな成長をオンラインに見出そうとしている。そしてこの勢いを利用して、メジャー系の流通経路を増やしている。
たとえば、スパークリングトニックブランドのオリポップの場合、同社の小売売上高は3月なかばから400%の増加を記録しているが、この急増の一因となっているのが、5月下旬に、スーパーマーケットチェーンのスプラウツ・ファーマーズ・マーケット(Sprouts Farmers Market)に進出したことが挙げられる。だが、これに先立って同社は、外出禁止による注文が舞い込むようになって以来、SMB(中小)市場向けのマーケットプレイスや、ニューヨーク市内の顧客に2時間で商品を届けるサービスなど、ほかのeコマースチャネルを展開していたと、オリポップ共同創業者のデビッド・レスター氏は述べる。
続けて同氏は、ここ数ヵ月で「飲料ブランド各社は多くの顧客と一対一で関わる機会を持てるようになった。このようなことははじめてだ」と話す。一例をあげると、オリポップは「VIPのeコマース顧客たち」と日々交流する手段のひとつとして、プライベートなテキストメッセージホットラインをローンチすることになっている。このツールの狙いは熱烈なファン層を構築することだが、同時にこれを介して新商品に対するフィードバックを直接得たり、新たな小売チャネルのためのデータ収集にもなるという。
デジタルからリアルに波及
また、トニックブランドのサンウインク(Sunwink)は、展示会や店頭での試飲販売から一歩離れ、D2Cマーケティングを試してきた。ペイドソーシャルの成果はすぐに現れ、サンウインクの総売上は前年比で300%増加。3月にeコマースチャネルを始動し、いまではその30%を同チャネルが占めるようになっている。それまでのサンウインクは、ホールフーズが初期のローンチパートナーだったため、スーパーなどの小売店に重点を置いていたと、同社の創業者であるジョーダン・シェンク氏は話す。
また、デジタル売上の増加によってブランド認知度が高まり、結果同社のリアルチャネルもさらに拡大した。ニューシーズンズマーケット(New Seasons Market)と、ホールフーズが今年秋に新規出店する3つの地域(アメリカ北東部と太平洋岸北西部、南太平洋など)への進出と並行して、まもなくサンウインクは1000以上の小売店でも商品を販売することになっている。
「サンウインクの事業が大きく成長しているのは、一般に中部アメリカと呼ばれている地域だ」と、シェンク氏は語る。都市部のミレニアル世代市場以外でも、ハイエンドなパッケージ商品に対する関心が高まっている証拠だと、同氏は話す。
スーパーマーケット分野進出のチャンス
同じように、2015年に創業したシュガーレスミキサーブランドのスウーンも、オンライン販売に大きなチャンスを見出した。そんな同社のもとには、卸売業者からさらに大きな関心が寄せられている。スウーンは「当初からオムニチャネル化をはかってきた」と、共同創業者のクリスティーナ・ロス・ブランクファイ氏は語る。3月以降、D2C売上(Amazonサブスクライブ&セーブ[定期おトク便]など)は2倍になっているという。
バイヤーたちが生活必需品に対する需要を満たす任務から解放され、「棚を強化する」方法を模索しているいまこそ、スーパーマーケット分野に参入する絶好のタイミングだと、ロス氏は話す。スウーンの商品は、マイヤー(Meijer)やストップ&ショップ(Stop & Shop)、クローガー(Kroger)などの、全国チェーンスーパーマーケットのほか、ウェグマンズ(Wegmans)やエレワン(Erewhon)などの地域密着型スーパーでも販売されている。
スウーンは現在、同ブランドを扱うことに興味を持っている小売企業数社を、さらにそこに加える準備を進めているという。さらには、リモートでの商品開発は困難の連続だったが、スウーンは8月にレモネードを商品ラインナップに加え、ロングセラー商品のミニッツメイドと陳列棚で競合することになっている。
資金調達の動きも
一方、アジア風のスパークリングウォーターブランド、サンゾーの創業者であるサンドロ・ロコ氏によれば、同社はアメリカ北東部全域にあるホールフーズをはじめとする高級マーケットに進出することになっているという。この事業拡大に先立ち、サンゾーは8月、アウェイ(Away)共同創業者のジェン・ルビオ氏、ホームブリュー(Homebrew)のハンター・ウォーク氏とサティヤ・パテル氏がリードするシードラウンドで130万ドル(約1億3750万円)を調達した。投資家たちのあいだでも、このカテゴリーに対する関心が高まっていることを物語るエピソードだ。
最近までサンゾーは、実験的なポップアップや、アジアンアメリカンレストラン、バイ・クロエ(By Chloe)などのファストカジュアルチェーンを介したブランド認知に依存していた。同社がeコマースの構築や、サードパーティロジスティクス(3PL)パートナーの獲得に乗り出したのは、2月なかばのことだった。
パンデミックの影響で新規顧客獲得のコストが下がり(ロコ氏が見てきたなかでは、2014年以降の最低水準)、ソーシャルフィードを介した顧客へのリーチを試してみるチャンスが生まれたと、ロコ氏は話す。それまでは、そのようなことを試してみようと思ったこともなかったという。
大手と競合できる余地が生まれた
実際、食料品ブランドをオンラインで見つける消費者が増えつつある。この数ヵ月で「エンドレスアイル(endless aisle:ECと店舗を組み合わせることで提供される、豊かな顧客体験)」が形成されたと、CPGソリューションプラットフォームの1ワールドシンク(1WorldSync)で顧客体験部門のバイスプレジデントを務めるハリス・ダイアモンド氏は語る。1ワールドシンクはクローガーやウォルマートなどの全国チェーンと提携している。食料品をオンラインで購入する消費者が増えるにしたがい、「大手ブランドが目の高さの棚の大部分を占めている店舗よりも、はるかに平等な競争の場に突入しつつある。実店舗では、目の高さの棚のほとんどを大手ブランドが占めている」と、ダイアモンド氏は語る。
また、実店舗を襲った消費財不足の波により、消費者はほかの商品を試してみることを余儀なくされ、これが長期的な購買習慣へと変化した。
つまり、新商品を試してみる人、オンラインで商品を買う人が増えているのだ。ブランドロイヤルティは「いまはまだ流動的」であり、新規顧客の獲得には絶好のタイミングだと、前出のサンウインク創業者、シェンク氏は話す。「昔から飲料は手頃な贅沢のひとつだった」と、同氏は語る。いま、長い年月を経てようやく、より多くのブランドが彼らCPG大手と競合できる余地が生まれつつある。
[原文:Premium beverage brands are using DTC strategies to rival legacy players]
GABRIELA BARKHO(翻訳:ガリレオ、編集:村上莞)