インスタグラムで名声を築いたインフルエンサーやその途上にあるインフルエンサーらのあいだで「コメントポッド」が人気を集めており、広告主たちに動揺が広がっている。これは同サービスの利用者グループのことで、メンバーは日々お互いの投稿にコメントしあう。そうすることで、それぞれのエンゲージメントを高めようとしているのだ。
インスタグラムで名声を築いたインフルエンサーやその途上にあるインフルエンサーらのあいだで「コメントポッド」が人気を集めており、広告主たちに動揺が広がっている。
インスタグラムのコメントポッドは比較的新しい現象だ。簡単に言うと、最大30人からなるインスタグラム利用者のグループ(インスタグラムはグループチャットが最大30人)のことで、グループのメンバーは協力して日々お互いの投稿にコメントする。エンゲージメントを増やしてインスタグラムを引っかけようというわけだ。そうすると、インスタグラムのアルゴリズムの仕組みから、インスタグラムがポッドを「気に入る」ようになり、その結果、ポッドに属するインフルエンサーは「検索」タグに表示されることが多くなって、露出が増える。
ポッドが出現したのは、インスタグラムのアルゴリズムが登場した際に、自分の作品をずっと見てもらいたいと先を争うインフルエンサーを放置しておいたのが原因だ。表示されるものの決定に、タイミングだけでなく、投稿者とユーザーの関係性が関わってくるのだ。
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「ブランドからすると、協働するインスタグラマーがポッドに参加している場合、自分たちの数字は間違っていることになるかもしれない」と、ユーチューバーで編集者のザック・バッセイ氏は言う。「X人にメッセージを見てもらいたいと思っていても、ポッドのほかのメンバーを引き算したら、数字が大幅に小さくなる。とはいえ、こうしたポッドのメンバーがメッセージに関心をもつことはあり得ないことではない。ただ、彼らはメッセージを見たくて、ポッドに参加しているわけではないということだ」。
数字をゆがめるポッド
アップルゲイト(Applegate)やペットフードブランドのウェルネス(Wellness)などをクライアントに持つ独立系のメディアバイイングエージェンシーのスウェルシャーク(Swellshark)は、ポッドに参加している場合には開示するように求める文言をインフルエンサーとの契約書に加えようと、弁護士と一緒に取り組んでいると語った。最高経営責任者(CEO)のニック・パパス氏によると、ポッドは結果をゆがめる可能性があり、実際にゆがめているという。
たとえば、クリーンイーティング(加工品を避け、身体にいい食材を中心にした食のスタイル)に入れ込んでいる母親たちにリーチしたいクライアントと仕事をしているとしよう。インフルエンサーとの契約にあたり、そのような母親たちがいることを確認するため、インフルエンサーのフォロワー基盤のデモグラフィックスを調査するとする。
インフルエンサーは平均エンゲージメントの数字を提供することになる。ポッドありの場合は、この人の友人であるインフルエンサーが5~10人となり、適切なオーディエンスがいるインフルエンサーが5人や10人ということにならない。「つまり、私の投稿はエンゲージメントを集めているが、適切なオーディエンスとのエンゲージメントではないわけだ」と、パーパス氏は言う。
ポッドは支払いもゆがめている。エージェンシーはインフルエンサーをオーディエンスの規模で評価する。しかし、大きい数字を示すトップインフルエンサーが高い料金を要求するなか、そのエンゲージメントが本物かどうかは、ブランドやエージェンシーにはもはやわからない。「裏打ちする透明性が欲しい」とパーパス氏は語った。
ポッドは必ずしも悪いものではない。ポッドがターゲットオーディエンスと似たようなインタレストグループを形成している場合、投稿のエンゲージメントと露出を実際に高める場合もある。「ポッドに参加していても、そこのメンバーがみんな結び付きの強いフードブロガーたちならば構わない。ただ、そのことは教えてもらう必要がある」とパーパス氏。
この怪物の生みの親
パブリッシャーたちもポッドの影響を肌で感じつつある。あるパブリッシャーによると、そのパブリッシャーはインスタグラムのエンゲージメントが減っているのに対し、新しいパブリッシャー(主にブロガー)が、ポッドに参加することで何倍にも成長し、フォロワー数を1日に2000も増やしているという。
こんにちは! ここで聞いていいのかはわからないけど、コメントポッドへの参加に興味のある人はいますか? 10~15人ではじめたい! この質問をするのにふさわしい場所がほかにあれば教えて;) インスタグラムは……
コメントポッドへの参加を募るFacebook投稿の一例
ブランディングコンサルタントのヘイブン(Haven)でグローバルコマース担当シニアバイスプレジデントだったエリン・ドワイアー氏によると、この問題は、本当のインフルエンサーと利欲のためにプラットフォームをごまかすのが得意なだけの人たちとを区別する、本当の価値の検証にまでさかのぼるという。
また、この問題にはさらに奥がある。結局のところ、非公開のアルゴリズムとキュレーションによって、プラットフォームがこの種の行動をどのように引き起こし、促進しているかという問題になると、ドワイアー氏は言う。つまり、この怪物を生み出したのはプラットフォームなのだ。
ポッドが結果を出しているのは疑いようがない。インフルエンサーたちの報告によると、ポッドに参加する前はコメントが1日に2件ほどだったのが、ポッドによる「活性化」以降は、同じ投稿でも40~100件のコメントがつく。
ブロガーとフォトグラファーを中心とするクリエイティブのフリーランサーによるコミュニティー、ライジング・タイド・ソサエティー(The Rising Tide Society)の非公開Facebookグループで「pods」という言葉を検索すると、ポッドの参加や開設のリクエストが何百件も見つかる。
面倒くさい行動規則
ポッドにはたくさんの行動規則がある。コメントは少なくとも4~5ワードなければならない。絵文字はあまりよくない。「大好き」のような一般的すぎる言葉は避ける。ポッドでは投稿しない――コメントスレッド内の「いいね」は総エンゲージメントに関係ないため、とにかく人々を自分のアカウントに誘導する。
自分のフードブログのためにあるポッドに参加し、約3カ月でフォロワーが500人近く増えました。実際に同じメディアブロガー仲間の友人たちなので、あくまでオーガニックだけど、アルゴリズムに実際に影響を与えるためにコメントは絵文字なしで5ワードは必要。そうしないと、インスタグラムは一般的すぎるとみたら、「コメント1件」とグレーで表示するのです。
一方で、ポッドを去った人は全般的に圧倒的多数が、ポッドは最終的にインスタグラマーのためにならないと語っている。バッセイ氏が調べたところ、ポッドが偽りの競争を生み出していることがわかったという。「あなたがオーガニックに成長した小規模のインスタグラマーだとして、ごまかしをしている人間とどうやって渡り合うのだろうか? ポッドの参加者が急速にフォロワーを増やし、ブランドとの取引を獲得するのを目にするだけだ」と、同氏は言う。ポッドは数字を操作して大きくしているため、ポッドの参加者に損害を与えるし、持続可能でもない。
多くのポッドに参加したことがあるグラフィックデザインのコンサルタント、ジャス・デオル氏は、やることがあまりに多いためにポッドをやめたと言う。デオル氏は有料ポッドの経験もあるが、有料ポッドではモデレーターが参加希望者に5~20ドルを要求し、これが人々に責任感を持たせ、参加したいと思わせるのだという。ポッドのおかげでフォロワー数が1万2000人から12万人に一気に増えたことがあると、デオル氏は語った。
インスタは意に介さない
ポッドはある意味、インフルエンサー業界の揺籃期への回帰だと語ったのは、ブログ「Pretty & Fun」を運営するブロガーで、コレクティブリー(Collectively)でコラボレーション担当のディレクターを務めるケイト・ワインガートナー氏だ。当時は、ブロガーたちがお互いのコミュニティーを成長させるために、支援グループを形成していたという。
しかし、いま、そこにはいかがわしさがある。ブランドがお金を出したスポンサード投稿にポッドが焦点をあわせ、そのブランドに関するコメントを必ず残すようメンバーに求めることが多い。たとえば、身につけるものに関する投稿に対して、記事に出てきた腕時計をいかに気に入ったかをコメントするというやり方がある。その腕時計ブランドが広告のスポンサーだからだ。「商品をおすすめするのもいいが、情報開示も必要だ」と、ワインガートナー氏は述べている。
インスタグラムにコメントを求めたが回答はなかった。インスタグラムの利用規約には、この種のエンゲージメントファーミングを禁じる項目はない。ソーシャルメディアエージェンシーのランドリー・サービス(Laundry Service)で戦略担当バイスプレジデントを務めるジェレミー・レオン氏は、ポッドはよりオーガニックな情報発信を生み出したり、それにつながったりするならブランドのためになるかもしれず、インスタグラムがポッドを懸念することはないだろうと語った。
「インスタグラムのアルゴリズムは、よいコンテンツが表示されるようにして、滞在時間を長くし、配信する広告を増やすためにある」と、レオン氏。「(ポッドによって)滞在時間は伸びている。ただそれだけだ」。
Shareen Pathak (原文 / 訳:ガリレオ)