ここ数年、GDPRやCCPAの施行など、世界中でサードパーティCookieの使用規制が強まっている。だがその一方、ニューノーマルの世界において、データ活用が期待を集めているのも事実だ。この5月に開催されたイベント「PLAZMA11」のクロージングセッションでは、これからのデータ活用がどうあるべきかが語られた。
我々は、いまこそデータ活用のあり方を再考すべきなのかもしれない。
ここ数年、GDPRやCCPAの施行、国内では個人情報保護法の改正案が閣議決定されるなど、世界中で個人情報関連の規制が強まっている。しかしその一方、ニューノーマルの世界において、データが期待を集めているのも事実だ。そんななか、2020年5月19から20日に開催されたArm Treasure Dataなどが主催するイベント「PLAZMA11」では、これからのデータ活用はどうあるべきか、マーケターパートナーのあいだで議論が交わされた。
「新型コロナの影響で消費が混乱しているいまこそ、しっかりデータを分析し、マーケティングを推進するべきだろう。その際に大切なのは、そのデータを何らかのアウトプットとして、お客さまに返していくことだ」。こう語るのは、オイシックス・ラ・大地の執行役員 Chief Omni-Channel Officerと、顧客時間の共同CEO 取締役を務める奥谷孝司氏。本記事では、同氏のほか、三井住友カード データ戦略部長の白石寛樹氏と、SUBARUのIT戦略本部 デジタルイノベーション推進部の小川 秀樹氏が登場した、クロージングセッションの様子をお伝えする。
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「データを返す」という姿勢
セッション冒頭、サードパーティCookieの規制にどう対応するか議論が交わされた。小川氏は「昨今、弊社のお客さまの3~4割は、サードパーティCookie活用のためのパーミッションを拒否している状態であり、多様なデータを取得し、繋げることが難しくなってきている」と語る。「お客さまに、データ使用の目的を明確に提示し、許可を得た上でコラボレーションし、何らかのアウトプットを通じて『データを返す』ことが大切だと考えている」。
小川氏が述べるように、データの取得・活用が難しくなっているなか、顧客理解に役立つのが「マクロで、横幅の広いデータ」だと奥谷氏。三井住友カードが、取引先加盟店や提携先企業等に対し提供する、データ分析支援サービスのCustella(カステラ)は、まさにこうしたマクロなデータを得るために効果的であると強調する。
Custellaは、同社が保有するキャッシュレスデータを、個人・加盟店が特定できないよう統計化された顧客属性データや、顧客行動ごとに集計し、データを見える化するためのツール。日本を代表する総合決済事業者である、三井住友カードのこの取り組みは、マクロな視点から消費行動を把握するには有効な手段といえるだろう。
また奥谷氏は、オンライン上に流れているフローデータを拝借して、プロモーションを仕掛ける時代は終焉し、良質な仮説を、良質なファーストパーティーデータを組み合わせて作り出すことも求められるだろうと述べる。そこで同氏が期待しているのが、AIやマシーンラーニングだ。「人間の仮説と、テクノロジーがコラボレーションするという流れが、今後加速していくだろう」。

セッションの様子。奥谷氏(左上)、白石氏(左下)、小川氏(右上)
オフライン体験の価値再考
続いて、議題はニューノーマルの時代におけるデータ活用のあり方に移る。現在、旅行や外食など、多くの産業がコロナ禍の影響で打撃を受けている。白石氏は「お客さまとのリアルな接点を持つ産業は、これまでデジタルが介在せずとも成り立っていた。しかし、新型コロナをきっかけに状況が一変した。ニューノーマルの時代に、データ活用がこうした産業にどう貢献できるか考えていきたい」と語る。
小川氏も、自動車産業を例に挙げながら、以下のように述べる。「ここ10年、自動車産業では顧客が新規に車を購入する際、店舗に来店する回数が1~2回に減少しており、オンラインで意思決定をするお客さまが増加している。このことから一部の企業は、既にECでの販売に取り組んでいる。コロナ禍により、こうした流れは一層加速していくだろう。そうなると、ディーラーや販売店での体験価値を見直す必要がある」。こうした、「体験価値」の再考が今後求められるというのが、同氏の主張だ。
これに対し奥谷氏は「そこで必要なのがお客さまの信頼できる顧客ID、まさにファーストパーティーデータであり、そして願わくば決済データだ」と語る。また、「データをただ貯めるというのは、リスクでしかないが、そのデータをもとに顧客理解を深める。お客さまにデータを返すということは、まさにデータを活用した良質な体験設計をすることだ」と付け加えた。
オンラインにもセレンディピティを
また、「オンラインでの体験も、今後求められるものが変わってくるだろう」と小川氏。「現状、オンラインのレコメンドは、過去の購買や閲覧履歴に基づくもの。しかし、今後はオフラインの店舗で味わえるような『セレンディピティ』をどう演出するかも、重視する必要があるだろう」。
ニューノーマルの時代には、オンラインでの購買機会の増加が想像できる。そこでは、これまでオフラインでしか味わえなかった、予想外の発見や出会いが、オンラインでも求められるという。「これまでとは異なるレコメンデーションができるよう、アルゴリズムを変える必要がある」。
奥谷氏も小川氏の考えに同意しつつ、以下のように締めくくった。「現状、オンラインでセレンディピティを創り出すことは難しい。今後はやはりAIやマシーンラーニングと我々が自ら考える良質な仮説思考を組みわせていくことが必要であり、そしてそれ以上に大切なのが、こうした取り組みを実現するために必要なデータをお客さまから提供していただけるだけのブランドトラストと企業姿勢を創り出すこと。お客様のデータからパーソナライズされた体験を提供していくことこそが、お客様にデータを返すこと、顧客満足につながる」。
※ DIGIDAY[日本版]は「PLAZMA11」のメディアパートナーです。
Written by Kan Murakami
Top Image by Shutterstock