現在、米国ではAmazonと配送業者が激しい競争を繰り拡げている。しかし一方で、配送業者については、ほかのプラットフォーム(主に小売業者とEC企業が連携している)との関係構築を進める動きを見せている。12月第1週にFedEx(フェデックス)が発表した買収も、その一例である。
現在、米国ではAmazonと配送業者が激しい競争を繰り拡げている。しかし一方で、配送業者については、ほかのプラットフォーム(主に小売業者とEC企業が連携している)との関係構築を進める動きを見せている。
12月第1週にFedEx(フェデックス)が発表した買収も、その一例である。同社が買収したショップランナー(ShopRunner)は、会員に対し2日以内の無料配送サービスを行うとともに、ブルーミングデールズ(Bloomingdale’s)やアンダーアーマー(Under Armour)、コールハーン(Cole Haan)といった小売企業100社以上からの返品を受け付けるサービスを展開している。今回の契約の詳細は公開されていないが、買収に関するプレスリリースでは、「買収に伴い、ショップランナーが提供する購入前サービスおよびFedExの購入後の物流インテリジェンスが相互補完の関係にあり、消費者への優れたサービスで市場シェアを大きく獲得できる」と述べられている。
FedExはここ最近、EC企業に強いプラットフォームやマーケットプレイスとの提携を進めており、今回の買収もその一環といえる。同社は10月、返品ソリューションのプロバイダであるハッピーリターンズ(Happy Returns)と提携し、2000店を超える店舗で小売店からの返品受け付けを発表した。また、4月には、ECソフトウェアを提供するビッグコーマス(BigCommerce)を通じ、小売企業への配送料を割安で実施すると発表している。
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一方のAmazonは近年、自社の配送ネットワークの拡張を進めている。それに対抗すべく、FedExはほかのEC企業を通じた自社サービスの利用拡大を目指している。だが、FedExがさまざまな面でAmazonだけでなく、ライバル企業のUPSにすら遅れを取っていると複数のアナリストの分析が伝えられている。その状況を打破するかのように、ショップランナーの買収によってFedExは市場に直接参入できることになった。これはほかの配送業者ではアクセスできない顧客情報をも入手できることを指す。
eマーケター(eMarketer)のECアナリスト、アンドリュー・リップスマン氏は「FedExは競合他社への追い上げを見せている」と語る。「これまで同社は、小売企業にとってのサービス内容や範囲の面で遅れをとってきた」。
好調なFedExの不安材料
FedExはオンラインショッピングのブームを受けて、9月の第1四半期業績発表で、収益が前年比で23億ドル(約2400億円)増と報告している。それでも同社には依然として不安材料が残されている。それが米国最大のEC企業、Amazonだ。Amazonは配送の部分について、UPSやFedExなどとの依存関係の解消を図り、自社の物流ネットワークの構築中である。この配送ネットワークを構築するため、Amazonはこれまで数百万台という配送トラックや貨物機の購入やリースへ投資を進めてきた。
出荷ソフトを提供するシップマトリクス(ShipMatrix)によれば、今年7月までにAmazonはすでに注文のおよそ3分の2を自社サービスで配送している。また、EC事業の中核としてAmazonを利用する小売業者は増え続けており、商品配送をAmazonのサービスで行う企業はさらに増えていくと予想されている。
FedExやUPSは、配送サービスを利用するEC企業を増やしていくため、こうした企業が多く提携しているプラットフォームとの契約を結ぼうとしてきた。いち早く行動に移したのがUPSだ。同社は3年前、ショッピファイ(Shopify)と提携し、小売企業を対象とした割引配送サービスを提供している。
ショップランナーとの相互補完
オムニコム・リテイル・グループ(Omnicom Retail Group)のコマース担当シニアバイスプレジデントを務めるブライアン・ギルデンバーグ氏は、「FedExの強みは、顧客の多くが大手企業およびそのユーザーという点だ」と指摘する。一方、同氏はFedExに欠けている点として、EC企業にとって重要な「単身者世帯」に関する分析が不足していることを挙げている。
今回、ショップランナーのようなマーケットプレイスを買収したことで、FedExはこの手の配送サービスを強化できる。さらにショップランナーのような迅速な配送サービスを求めるマーケットプレイスにおけるユーザーの購買パターンについても、より多くの情報を得られるようになる。ただしショップランナーは現在、複数の配送業者による配送をサポートしており、FedExが同社の配送サービスをデフォルトのオプションとして利用できるかどうかは不透明だ。
ショップランナーは配送サービスを開始してから8年の企業で、これまで2012年に行った「ピックアップポイント」サービスなど、さまざまなフルフィルメントモデルを試行してきた。「ピックアップポイント」は、ショップランナーの会員が複数店舗に分散した商品をオンライン注文した場合に、1店舗で商品をピックアップできるサービスだ。同社がマーケットプレイスとして確立してきたのは2018年以降といえる。同年、ショップランナーはユーザーが同社のネットワーク内の全ブランドから製品を購入できるように、単一のショッピングアプリをローンチしている。
競争が激化している分野
ショップランナーの財務情報や顧客数は非公開だが、同分野の競争が激化していることに疑いの余地はない。ウーバーイーツ(Uber Eats)やポストメイツ(Postmates)、ドアダッシュ(Doordash)といった宅配アプリはいずれも、ウォルグリーンズ(Walgreens)やメイシーズ(Macy’s)など、ほかの小売企業と配送パートナーとして提携し、当日配送サービスを提供している。
ギルデンバーグ氏は、「ウーバーやドアダッシュなどのデジタルマーケットプレイスを主戦場とするプラットフォーマーと競争するには、戦略をはじめアナログな経営体質のままで戦っても勝ち目はない」と語る。「ショップランナーがさらなる成長を遂げるためには、FedExと異なったデジタルな経営体質への改善が必要と考えられる」。
現実としてEC業者の物流ニーズに応えるだけの資金力がある企業は多数存在しており、FedExをはじめとする配送業者はこれらの企業とも競っていかねばならない。そしてAmazonだけではなく、ショッピファイも昨年から自社のフルフィルメントネットワークの構築を進めており、将来的に配送時に利用されていく可能性がある。
「Amazonの代替になりうるソリューションを目指すのであれば、ショッピファイとも競えるようになる必要がある」とリップスマン氏は語り、次のように述べた。「ショッピファイも、自社で完結したフルフィルメントサービスを提供すべく仕組み作りに取り組んでいる」。
[原文:‘Playing catch-up’ Why FedEx and other carriers are striking deeper partnerships with platforms]
Anna Hensel(翻訳:SI Japan、編集:長田真)