本記事は、米DIGIDAYにおいて2014年9月3日に掲載され、大きな反響を得た記事だ。「BitTorrent(ビットトレント)」というサービスが、優れていたがゆえに抱えてしまったブランドのジレンマをレポートしている。情 […]
本記事は、米DIGIDAYにおいて2014年9月3日に掲載され、大きな反響を得た記事だ。「BitTorrent(ビットトレント)」というサービスが、優れていたがゆえに抱えてしまったブランドのジレンマをレポートしている。情報は古い部分もあるが、今後、差別化が課題となるWebサービスのブランディング事例として参考にしてもらいたい。
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動画配信を主なサービスとしている情報コンテンツ流通プラットフォーム、「BitTorrent(ビットトレント)」は、ブランディングに課題をもっている。
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一時はインターネットトラフィックの3分の1を占めていたとされるが、世間のイメージではBitTorrent社の事業は、海賊行為と結びつけられることが多いようだ。しかし、同社はそれが不当だと主張する。実際には「BitTorrent」というプロトコルは、ブランドやパブリッシャーにとって理想的なマーケティングプラットフォームだというのだ。
同社のコミュニケーション担当ディレクター、クリスチャン・アヴェリル氏は、BitTorrentという企業について、こう説明する。ユーザーに、さまざまなデバイスでソフトウェアやコンテンツ(楽曲や映画)のパッケージ、同期化コンテンツをダウンロードしてもらうソフトウェアを開発する会社だと。
「おそらく、かねてよりそのようにブランディングをしていなかったのは、当社の落ち度だ。いまはそのことを世間に知ってもらおうとしているところだ」と説明した。
「BitTorrent」は、レコード会社が合法的に音楽をリリースしたり、テレビ局が合法的に番組を配信する際に利用される。また、英国政府は税金の使い道を国民に知らせるのに「BitTorrent」を採用した。今後同社は、新しいプロダクトで積極的に広告主の獲得をしていくという。現在(2014年9月当時)、以下の宣伝用スライドを使って、自社の新製品をクライアントにアピールしている。
真実を明らかにするとき
「BitTorrent」は、アーティストが「魂を売らずに」自身の作品を拡販する手段を提供するサービスとして、自社製品の「Bundle(バンドル)」を提供。この商品を「インターネットのレコードストア」と表現している。
月間アクティブユーザー数は、1億7000万人を上回る「BitTorrent」。その数は、Pinterest(ピンタレスト)やSpotify(スポティファイ)を上回る(2014年9月当時)。ユーザー層の3分の2(63%)は34歳未満で、半分(51%)は高校生だ。上記のスライドでは、「BitTorrent」ユーザーがどれほどデジタルに強いかを強調しており、なんと100%のユーザーが有料のサブスクリプション制音楽サービスを利用する「可能性が高い」という。
BitTorrent社のCMO、ヤッシャ・ケイカス=ウルフ氏は、「真実を明らかにするときだ。『BitTorrent』は海賊行為をするためのサイトではない。実際には、海賊行為をする者に我々のプロトコルが利用されてしまっているのだ」と説明している。
悪用されることがあるとしても、プロトコル自体に本質的な欠陥があるわけではない。BitTorrentという企業と、社名の由来でもあるオープンソースのファイル転送プロトコルの間には決定的な違いがあるとされている。後者が、トレントのインデックス化を通じて海賊行為を助長しているのは事実だ(もっとも悪名高い例は「Pirate Bay」だろう)が、BitTorrentという企業そのものは、合法的な目的のためにファイル転送プロトコルを使用している。だから、海賊行為を増長するトレントインデックスとは、別個の存在なのだそうだ。言うは易し、である。
災い転じて福となす
マーケティングエージェンシー、レッド・ピーク・ブランディング(Red Peak Branding)のCEO、ジェームズ・フォックス氏は次のように述べている。「BitTorrentにとって、ビジネスを行う合法的なプラットフォームであることをマーケターに納得してもらうのは、厳しい道のりになるだろう」。だが、「BitTorrent」は同時に、カウンターカルチャー的な地位に「うまく収まる」とも語った。
さらにフォックス氏は、「アメリカン・アパレル(American Apparel)のCEOだったダヴ・チャーニー氏が、『Vice』誌を同社にとっての『Vogue』誌として利用したように、利口なブランドオーナーが、自社の製品やサービスに最適なメディアとして『BitTorrent』を活用したいと思うかもしれない。『BitTorrent』は、新作ビデオゲームやミュージシャンのニューアルバムのリリース前にバズを創りあげることができる、格好のプラットフォームだ」と語った。
ゲームと音楽はまさに、BitTorrent社がもっとも関心を抱いてきた分野だ、と、同社のCMOウルフ氏は語る。同氏はさらに、顧客にアピールするため、「テクノロジーの分散化」という概念を盛んに売り込んでいる。その点、消費者の間でプライバシーやデータに対する懸念が高まっているのは、BitTorrent社にとってありがたい話だった。BitTorrentは長年、「自由にファイル交換が可能なインターネット」の先駆者として自称してきたからだ。

耳を傾けはじめたブランドたち
BitTorrent社は、いくつかの製品を提供している。もっとも定着した製品である「Bundle」を利用すれば、ブランドやパブリッシャーは、ユーザーが一括でダウンロードできるようにコンテンツをパッケージ化することが可能だ。スライドにもあるとおり、「Bundle」は「より大きなファイルのために開発」されており、2013年にダウンロード件数がもっとも多かったBundle(パッケージ化されたコンテンツ)の上位5本が3GB以上で、そのなかには、人気デザイナーのマーク・エコーやミュージシャンのマドンナ、モービーの作品も含まれている。
BitTorrent社は最近、クラウドではなくデバイス間でコンテンツを無制限に共有できる「シンク(Sync)」もリリースした。また、2014年7月には、チャットクライアント「ブリープ(Bleep)」を発表している。同社によると、「ブリープ」は分散化されたネットワーク接続を提供するので、のぞき見される危険なしに情報を送ることができるという。スプリング(Spring)、ホットワイヤー(Hotwire)、EAなどの顧客を抱える成長中のメディアネットワークでもある。同社の宣伝用スライドによると、動画やバナー広告、モバイル広告の月間インプレッションは100億回で、ROI(投資利益率)は「ほかのマーケティングチャネル」の2~5倍だという。
複数のブランドがBitTorrent社の話に耳を傾けているようだ。同社は最近、新しいキャンペーンのためにゼネラルエレクトリック(GE)との契約を結んだ。このキャンペーンでは、テクノ・アーティストDJのマシュー・ディアーが、海中用圧縮機やジェットエンジンといったGE製品の機械音から作った楽曲が、BitTorrent社の「Bundle」を通じてダウンロードできる。2014年8月27日にキャンペーンがスタートして以来、150万人がこのコンテンツをダウンロードした。音声ファイル共有サービスの「サウンドクラウド(SoundCloud)」もこの楽曲をホスティングしたが、こちらで再生したユーザーは3万人にとどまった。
「by BitTorrent」というマジックワード
この楽曲は、スポンサーがついたはじめての「Bundle」だった。BitTorrent社は、さらに多くの広告主が契約を結ぶことを期待している。加えて、同社は2014年11月、コンテンツ用の決済サービスも開始した。このサービスを利用して、「Bundle」にコンテンツを配信すれば、ユーザーに自身の音楽を有料で提供できる。その際、手数料はわずか10%しか取らない。そして、もうひとつの収入源は、ほかのテック企業への技術供与だ。

BitTorrent社の幹部によると、同社はこれまで黒字だったというが、新製品を投入するたびに社名変更の話が浮上したと、ウルフ氏は語る。だが、時が経つにつれて、「SoShare by BitTorrent」や「Sync by BitTorrent」といったように、製品名に「by BitTorrent」を入れたほうが常に製品の人気が高いことに気づいたという。
ウルフ氏は、「我々はブランドとしてすばらしい認知度をもっている。マーケティングに大金を費やしても、ここまでの認知度を得るのは不可能に近い。だから、我々がやってきたことやBitTorrentという企業のブランディングをさらに強化していくだけだ」と語った。
Shareen Pathak(原文 / 訳:ガリレオ)
Image via 米DIGIDAY