酒造メーカーのペルノ・リカールでは、メディアバイヤーの小さなチームが、DSPから、インベントリー(在庫)を直接購入している。そのようにして、オペレーションとまではいかないがDSPとの契約をコントロールし、ソフトウェアのマネージドサービスツールを利用するのだ。なぜ、このような動きに出ているのか、背景を探った。
ペルノ・リカール(Perno Ricard)は、メディアバイイングの内製化を拡大しているマーケターのひとつだ。
酒造メーカーのペルノ・リカールでは、メディアバイヤーの小さなチームが、「Adobe Advertising Cloud(元TubeMogul)」やGoogleの「DoubleClick Bid Manager」のようなデマンドサイドプラットフォーム(以下、DSP)から、インベントリー(在庫)を直接購入している。たとえば現在は、マーケターがログインして購入をリアルタイムで管理できるクライアント好みのDSPを採用するように、メディアエージェンシーに求めている。そのようにして、オペレーションとまではいかないがDSPとの契約をコントロールし、ソフトウェアのマネージドサービスツールを利用するのだ。
脱エージェンシーではない
現在、ペルノ・リカールではデジタルメディアの4分の1を、エージェンシーではなく社内のメディアバイヤーが購入している。今年の上半期は6000万ユーロ(約78億円)を節約し、その半分を広告に再投資した。社内に独自の専門知識が確保されていなかったらこの判断はなかっただろうと、ペルノ・リカールは先週、投資家たちに説明した。
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「我々(ペルノ・リカール)は、パートナーと同じ言葉を話して(自社の投資の)現状を把握するため自らを見直す必要があった。社内のマーケティングで再現できるようになるためだ」と語ったのは、同社でグローバルメディアハブを指揮するティボー・ポータル氏だ。「我々が目指したのは、メディアをもっとも低いコストで買うことではない。それは意味がない」。
パッケージ商品部門における全面的なメディア予算削減だと、エージェンシーは心配するかもしれないが、ペルノ・リカールは、支出を大きく変える計画はない。同社で財務とオペレーションのマネージングディレクターを務めるジル・ボガート氏は、先ごろ金融アナリストたちに対し、社全体の節約のかなりの部分はメディア予算に再投資していると語った。ボガート氏の説明はこうだ。「全部で、広告とプロモーションの効率化(2016~2020年に計画している節約額)は、2億ユーロ(約261億円)のおよそ半分になると推計している。そして、ご存じのように、この2億ユーロの約半分は、広告とプロモーションに投資することに決めた。そのため、広告とプロモーションの比率には、正味の影響はほとんどないだろう。それでも、実はうちのブランドとしては効率が高まる」。
しかも、この効率追求は、一部の広告主がやったとされているようなメディアエージェンシーの追い出しにはならないと、ポータル氏は断言した。世界広告主連盟(WFA)が先ごろ実施した調査で、一部の大手ブランドが社内のデジタル専門知識を増やしていることが明らかになると、一部の観測筋は、メディアエージェンシーの中抜きが徐々に広がっている新たな兆しだと解釈した。
効果改善の重大なテーマ
しかし、ペルノ・リカールが構築を進めているメディアの専門知識は、自社の投資について理解を深めることを意図したものであり、同時に、エージェンシーのマージン低下の緩和にもつながっている。すでに社内のコンテンツ制作チームがやっているように、さまざまなチャネルに対するコンテンツの適合や資産のローカライズといったメディア投資の管理にかかる日々のコストについて、ペルノ・リカールが引き受ける部分を拡大し、エージェンシーには、戦略とクリエイティブを割り当てているのだ。
ポータル氏はさらに、「エージェンシーがもたらしている付加価値に報酬を払うという当社の基本方針が変更になり、いまは(サプライチェーンを降りていく)投資の結果とパフォーマンスに報酬を出している。(中略)エージェンシーたちとはいくつかのKPIとダッシュボードを共有しているので、リアルタイムで同じ目標を共有できていると思う。一方が広告主でもう一方がサプライヤーという関係より、提携に似ている」と語った。
今後について、ビューアビリティ(可視性)とさまざまなパートナーから受け取る指標の妥当性を中心に、まだ対処しなければならないポイントがあると、ポータル氏は考えている。ペルノ・リカールは、これから数カ月でビューアビリティの独自基準を見つけて、P&G、ユニリーバ(Unilever)、ロレアル(L’Oreal)などと同じ道を歩むだろう。それが「効果改善の重大なテーマ」だと確信しているのだ。
酒造ブランドとしての責任
ペルノ・リカールのマーケターたちは、動画の視聴数を重要なKPIだとはもはや見ていない。代わりに同社は、広告をできるだけ適切なユーザーに配信できるよう、視聴完了率とターゲティングに軸足を移しつつある。ポータル氏はさらに、「販売に対するメディアの本当の影響をいっそう徹底的に評価していこうと思っている。この循環を回す必要がある」と語った。
ペルノ・リカールがこの2年間で独自データの収集をいっそう重視するようになったのはそのためだ。たとえば、同社のラムのブランドがこの数週間、メールアドレスを集めるリード獲得広告をFacebookでテストしたとアドウィーク(Adweek)が報じている。セールスフォース(Salesforce)によると、このキャンペーンは10日間で、1300件の新規リードと43~77%の開封率を達成したという。
ポータル氏は次のように結論付けた。「法的に飲酒が認められている年齢層に対する、責任ある飲酒と広告に取り組むワインと蒸留酒のメーカーとして、ブランドセーフティ、詐欺、透明性を巡り、私たちはすでに強い権限を持っている。(今年起きた出来事が)小さな問題だというのではないが、我々は(メディア戦略の責任の拡大を)長年やってきており、しっかりと準備ができている」。
Seb Joseph (原文 / 訳:ガリレオ)