コネクテッドグラスを開発した、ペルノ・リカールの思惑: IoT を目指すアルコール飲料メーカー

マーケターはデータを活用してカスタマーをより良く理解したいと考えている。そんななか、アルコール製造業のペルノ・リカール(Pernod Ricard)はアルコールのボトルとカクテルグラスにデータ追跡機能をもたせる新たな戦略を編み出した。

この夏にパリのバーで行われている同社の最新のテストでは、ハバナクラブ(Havana Club)のブランドロゴが描かれたグラスにウェブアプリに対応した近距離通信チップが埋め込まれている。カスタマーはスマートフォンでスキャンすることで注文する仕組みだ。注文の前に、カスタマーは名前やメールアドレス、居住国やカクテルの好みの追跡に同意するかを尋ねられる。GDPRが施行されているヨーロッパで行われているためだ。

データを提供する見返りに、利用者には新製品に関するニュースやペルノ・リカールの独占イベントへの招待が行われる。グラスを家に持ち帰ると、ウェブアプリはスマートフォンの位置情報からユーザーが家にいることを把握し、カクテルのレシピを表示する。そしてバーを再び訪れたカスタマーは再注文のページを表示する。

ペルノ・リカールのアブソルート(Absolut)やシーバスリーガル(Chivas Regal)などの蒸留酒ブランドでは、過去3年間でコネクテッドボトル、コネクテッドグラスと名付けられたボトルとグラスをヨーロッパ中のバーやイベントで配ってきた。

IoTを選んだ理由

ここまで聞くぶんには、最近よく見かける大して意味のなさそうなIoTデバイスに思えるかもしれない。だがペルノ・リカールでグローバルデジタルアクセラレーションディレクターを務めるピエール・イブ・キャロック氏は、確固たる考えからこの商品を開発した。同氏は、こうした商品は使用に足るインセンティブさえあれば、使用とそれに伴う貴重なデータを入手できると考えている。たとえばパリでのテストから、同社はバーで列に並んで待たずに済むようなインセンティブの導入を検討している。ほかにもフェスティバルの来訪者に割引や特定の区域に入れるインセンティブを与えれば、コネクテッドボトルでデータを共有してもらえるかを探っている。

キャロック氏はコネクテッドボトルやグラスについて「ペルノ・リカールのための道具というよりは、適切な人に当社がターゲティングしているかどうかを知るための商品だ。Facebookでファンだからといって、実際に当社の商品を消費しているかどうかは分からない。ウェブサイトをブラウジングしているだけかもしれないのだから」と語る。そして「データを使うことで、これまで使用してきた理論上のターゲティングと、カスタマーとの関係性の統計データをマッチさせられるようになる」という。

ペルノ・リカールはコネクテッドグラスやボトルからデータを集め、類似したターゲティング対象にデータを送りたいと考えている。同社は自社でプラットフォームまで作っており、こうした製品から送られるデータを独自のデータ管理プラットフォームに集めている。キャロック氏は昨年9月に同社のIoT戦略の責任者を引き継いだ立場として、このプラットフォームは目標のひとつだったと語る。こうした業務について、キャロック氏はIoT専門のエージェンシー、シャープエンド(SharpEnd)と提携しつつ行っている。

さまざまな懸念点

とはいえ、ポテンシャルこそ高いものの同社のこうした製品から得られるデータはまだまだ意義ある結果に結びつけるには不足している。データは基本的なものだし、その量も少ない。さらにペルノ・リカールは大規模なキャンペーンにデータを活用できるほどの規模ではないし、そうした戦略を立てているわけでもない。だがこうした製品から得られるデータによって、オンライン広告に反応を示しやすいカスタマーの年齢層や飲み物の好み、位置情報などが判明する。企業のスタートラインとして、これは悪くない。普通の企業は他社に料金を支払い、その見返りとしてこうした情報を得ているのだ。

キャロック氏も「こうした(コネクテッドな)製品は、当社のデータの収集源として貴重なものになる。コネクテッドグラスではイベントやバーについてより多くのデータが得られるし、コネクテッドボトルからは利用者が当社のブランドを自宅でどうやって飲んでいるかが分かる」と指摘する。とはいえコネクテッドボトルだけで良い、というわけではない。ペルノ・リカールは商品ブランドごとにコストや反応についても考慮する必要がある。ブランドごとにオーディエンスをはじめとする要因が変わるからだ。

技術系エージェンシーのグレートステート(Great State)でコンサルティングディレクターを務めるマット・ボフィー氏は次のように指摘する。「ペルノ・リカールは消費者と直接的な関係を結びたいと考えているようだが、消費者ははたして同社と直接的な関係を望んでいるのか? コネクテッドボトルは、逆の立場からは監視資本主義に見えているのかもしれない」。

マリブ(Malibu)やハバナクラブ(Havana Club)といったラムのブランドが、今回のテストの主なブランドとして選ばれたのもこうした理由からだ。両ブランドは若い年齢層に好まれており、バーや自宅でコネクテッドデバイスを使用する可能性が高いためだ。たとえば2016年にはイベントに提供された4万3000本のマリブのコネクテッドボトルのうち、500本で同社にデータの共有が行われた。

今後はイベント展開も

キャロック氏は今後、コネクテッド製品をイベントやコンサートといった場でのデータ収集に使いたいと考えている。これまでペルノ・リカールは、こうした場にどんな人が来て、どんなブランドを好んでいるのかといった情報を持っていなかったためだ。これについて同氏は「イベントから手に入る情報は、我が社のファーストパーティーデータのおよそ3分の1を占めている。コネクテッド製品が果たしうる役割は大きい」と語った。

更新:ペルノ・リカールは、米DIGIDAYにおいてこの記事が掲載されたあと、同社のプライバシーに関するスタンスについて次の声明を発表した。声明:「データの共有は、必ずユーザーの選択に委ねられ、さらにユーザーがいつでもオプトアウトできることが重要と当社は考えている。選んだカクテルが運ばれてくるためには名前と位置情報が必要なことを大半の消費者は理解している。当社の活動を通してこうした提案を行ったとき、参加することを選択する消費者は多い」。

Seb Joseph(原文 / 訳:SI Japan)