データドリブンIMC:主観的なマーケティング管理からの脱却と、継続的な成長の実現

本記事は、WPPグループ最大のデジタルエージェンシー、VMLの日本法人の代表と、株式会社FICCの代表取締役を兼務する、荻野英希氏による寄稿コラムとなります。

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私たちマーケティング実務者の仕事は、上司やクライアントなどの管理者を満足させることではありません。曖昧なブリーフやフィードバックは、仕事量の肥大化と、士気の低下を招きます。マーケティングの機能不全は、決して実務者の能力不足ではなく、主観的なマーケティング管理に起因しているのです。組織の強化を望むマーケティング管理者は、まず自らの管理手法を見直すべきではないでしょうか。

ブリーフ、フィードバック、レビュー

マーケティング管理業務は、目的を明確化するブリーフ、ブリーフと提案内容の整合性を確認するフィードバック、そして業務プロセスを改善するためのレビューに分類されます。継続的なブランドや事業の成長に欠かせないこれらの業務には、客観性が求められ、管理者の個人的な主観が入る余地はありません。

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管理者と実務者の協働には、目的の明確化と共通理解が欠かせません。良いブリーフは、目的に対する解釈の余地をなくし、客観的なフィードバックやレビューを可能にします。ブリーフにはさまざまなフォーマットがありますが、マーケティング目的の曖昧性をなくすためには5つの要素を含めると良いでしょう。ターゲットの属性、起こしたい態度変容、態度変容を起こす知覚刺激、成果指標と目標値、そして、予算と時間の制限です。

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これらの要素が定義されていれば、(検証すべき仮説を含む)提案に対する客観的なフィードバックが可能になります。そもそもフィードバックとは、ブリーフと提案内容の整合性を確認し、相違点を実務者に伝え戻す作業です。管理者の個人的な意見や好みを述べることではなく、目前の仕事に熱中する実務者が大局的な目的を見失わないために、客観的な視点を提供することなのです。

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マーケティング管理の目的は、継続的な事業の成長を実現することです。そのためには、業務プロセスの改善を可能にする実行施策のレビューが欠かせません。レビューを業務プロセスの改善に役立てるためには、効果測定と目標達成度の評価だけでなく、仮説検証によるラーニング、成功要因の分析による再現方法、そして失敗要因の分析による防止・回避方法の確立が必要となります。

主観的判断や属人性な業務プロセスは、マーケティングの再現性を阻み、成長に向けた管理を困難にします。実務者の能力に依存した成功や失敗は、管理手法の不備であり、再現方法や防止・回避方法を必要としているのです。米空軍に採用されているSTEALTHデブリーフィングという手法では、チーム全員が階級や個人としての主観を捨て、プロセスの不備と改善方法を議論することで、将来のミッションを成功に導く業務プロセスを構築することができるのです。

組織全体の連携を実現するIMCプラン

客観的なブリーフ、フィードバック、レビューが行われても、そのプロセスが施策ごとに分断されていては、部分最適に陥ってしまいます。マーケティングの全体像と施策間の関連性を描くIMC(Integrated Marketing Communications:統合型マーケティング・コミュニケーション)プランがなければ、組織全体の連携を実現することはできません。上記のブリーフに含まれるマーケティング目的の要素を、態度変容の流れを描く※パーセプションフローを用いて、購買行動の段階ごとに定義すれば、IMCプランの骨子が出来上がります。

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※パーセプションフロー:Coup Marketing Company 音部大輔氏考案のフレームワーク

しかし、自然な態度変容の流れを描き、段階ごとのマーケティング目的を定義することは決して簡単な作業ではありません。主観的に描かれたIMCプランは、主観的なマーケティング管理と同様、機能することはないのです。精度の高いIMCプランを作成するためには、既存顧客が購入に至った態度変容プロセスの分析が欠かせません。

消費者データからIMCプランの逆行分析を行う「データドリブンIMC」では、実在する態度変容プロセスからマーケティングの全体像を可視化します。自然発生している態度変容をマーケティングコミュニケーションで再現できるよう改良を加えれば、短期間でIMCプランの作成が可能になります。

目的を明確化するブリーフ、ブリーフと提案内容の整合性を確認するフィードバック、業務プロセスを改善するレビュー、そして、組織全体の連携を実現するIMCプラン。これらの客観的なマーケティング管理業務の実行により、組織全体に責任と規律が生まれ、継続的な改善を重視する文化が根付きます。マーケティング管理者は、組織の継続的な成長の実現に向けて、直ちに主観的な管理手法を見直すべきなのです。

Written by 荻野英希
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