この記事は、「革新的なCMO」シリーズだ。顧客が求めるものの変化を認識している人物で、ペプシコ・ノース・アメリカ・ベバレッジズ(PepsiCo North America Beverages)のCMO、セス・カウフマン氏の右に出る者はいない。同氏は、ブランドのあらゆる商品のマーケティングを主導している。
この記事は、「米DIGIDAYが選ぶ革新的なCMO」シリーズ。時代の先を進みデジタルイノベーションを通じて収益を向上させる先駆的なブランドマーケターを特集する。
消費者の嗜好が進化し、彼らがお気に入りのブランドに抱く期待は高まっている――あるいは、変化している。顧客が求めるものの変化を認識している人物で、ペプシコ・ノース・アメリカ・ベバレッジズ(PepsiCo North America Beverages)のCMO、セス・カウフマン氏の右に出る者はそういない。カウフマン氏は、米国における同ブランドのソフトドリンク、水、お茶といったあらゆる飲料商品のマーケティングを主導している。
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「ペプシ(Pepsi)」はそうした顧客ニーズの変化を受け、マーケティングだけでなく製品ポートフォリオのリニューアルにも着手している。同ブランドは2016年10月、砂糖の利用を減らすと公約。2025年までに飲料の3分の2を、1杯あたり100カロリー以下にするとしている。
「究極的には、我々は株主だけでなく消費者に対しても責任を負っている。周囲の世界の変化にあわせて、我々も変化しなくてはならない」と、カウフマン氏は語る。本記事では、マーケティングの最前線に立つカウフマン氏が、ペプシで実践する哲学を解き明かす。
従来型メディアと新メディアの連動
長年に渡りテレビに大きな予算を投じてきたペプシだが、いまでは投資の40%近くがデジタルになっており、2016年のスーパーボウルでは、デジタルのリアルタイムキャンペーンにも力を入れた。こうした移行は、従来型メディアと新メディアをうまくミックスしているペプシ全体のマーケティングアプローチを反映したものだ。
「テレビが現在も有効なのは明らかだが、いかにしてデジタルで効果を高めるかが、ますます重要になってきている」と、カウフマン氏は語る。「デジタルを放送メディアから切り離すことはできない」。
たとえば、ペプシは「ペプシ文字(Pepsimoji)」キャンペーンで絵文字とテレビを組み合わせ、テレビとデジタルの5秒スポットを100種類以上制作。このスポットを、授賞番組やメジャーリーグ・ベースボール(MLB)の試合など、文脈に合うタイミングで流した。
「消費者のアテンションの持続時間が変化しており、誰もがデバイスを使いながらテレビを見ている」とカウフマン氏。「そのため、テレビで何をやるにせよ、前よりも短くして、ほかのプラットフォームと組み合わせる必要がある」。
実験的な取り組みやインフルエンサーを使ったマーケティングに投資
いまはインフルエンサーが大人気かもしれないが、カウフマン氏によると、ペプシは単なるプロダクトプレイスメントを信じていないという。ペプシのインフルエンサーへのアプローチは、社内で「LATTE」と呼ばれているコンセプトに基づく。LATTEは「ローカル、本物、透明性、追跡可能、倫理的(local, authentic, transparent, traceable and ethical)」の頭文字からなる頭字語だ。
たとえば、2016年夏にスタバーン(Stubborn)という高級炭酸飲料の新しい製品ラインを売り出した際、ペプシはコンテンツシリーズの制作を、『ウォーキング・デッド(原題:The Walking Dead)』シリーズの原作漫画家で脚本にも携わるロバート・カークマン氏と共同で行った。カークマン氏は過去に、仕事への取り組み方について、完成度に「かたくなにこだわる(stubborn)」と語っていた。
ペプシは、実験的な取り組みにも積極的に投資してきた。不健康なイメージを払拭することは、つまるところ簡単に達成できることではなく、砂糖を減らすという製造工程での対応に負けないくらい、マーケティングによる後押しが必要だ。たとえばペプシは9月、ニューヨークのミートパッキング地区に、コーラ・ナッツ(コーラ飲料の原料となる植物の種子)をテーマにしたレストラン「コーラハウス(Kola House)」をオープン。ほかにも、重要なイベントの現場でイメージアップにつながる活動を展開してきた。そのひとつ、第50回スーパーボウルでは、炭酸飲料をテーマにした大型ブースを設営し、実際の泡、回転する球体、飲料の香りがするチューブなどで360度の体験を提供した。
「挑戦的なブランディングが狙いではない」とカウフマン氏。「あとからシェアしてもらえるような体験を提供することが大切なのだ」。
起業家精神を奨励
ペプシが用意しているいくつかの社内プログラムは、人材の育成を目指すとともに、機敏で、起業家精神に富み、実験を続けられる企業文化を醸成することを狙う。そのひとつ、年に4回のプログラム「ペプシコ・ファスト・ピッチ(PepsiCo Fast Pitch)」では、マーケティング部員が専門家の審査員たちの前で、マーケティングに関連するアイデアをプレゼンできる。入賞者には、アイデアを市場に出す予算が割り当てられる。ただし、唯一のルールとして、3カ月間で実施しなれればならない。
「このプログラムは、壁をなくすのに役立っている。それまで協力したことのないさまざまなパートナーと、一緒に仕事をするよう求められるからだ。また、3カ月で実施する必要があることから、機敏性をもったエネルギーが生まれる」と、カウフマン氏は説明する。
ペプシはまた、「マーケティングの達人(Marketing Maven)」という賞を毎年授与している。これは、マーケティング部門における1年の最大の失敗と、そこから得た教訓を「祝福」するものだ。「創造性を養うという観点があるなら、失敗を単に間違ったものと見なすのではなく、そこから教訓を得られるものとして振り返る必要がある」と、カウフマン氏は語る。「この賞に助けられ、大勢の若手が委縮することなく、自分のアイデアを披露しやすくなっている」。
イノベーションを社内に
最先端であり続けるため、ブランドはもはや、イノベーションをアウトソーシングに頼るわけにはいかない。ペプシもまた多くのブランドと同様、コンテンツの社内制作など、自社でできることを増やしている。
ペプシのコンテンツスタジオは、同ブランドのインスタグラムページを管理することも含め、さまざまな業務を社内で手がけるようになった。「インスタグラムに関しては、ひと手間減らしてエージェンシーに丸投げするのをやめた。我々はいま、ペプシ専用のコンテンツスタジオにチームを置いている」とカウフマン氏。「分業の弊害を崩して一体感を保つには、ほかに方法はない」。
さらに、ペプシのマーケティング部門にはほかにも「ペプシコ・クリエーター(PepsiCo Creator)」というチームがあり、マーケティングのイノベーションに注力している。同チームは一貫して、新技術を評価し、新たなパートナーを探すとともに、新しいアイデアの実験と反復を繰り返している。
「かつては、小さな家庭菜園から朝食の野菜を選ぶようなものだった。だがいまは、まさにジャングルのような選択肢が市場にあふれている」と、カウフマン氏はたとえる。「それでも、このチームのおかげで、我々はあらゆる変化に対応できている」。
Tanya Dua (原文 / 訳:ガリレオ)