インフレと事業コストの増加により、アパレル業界の多くのブランドが値上げに踏み切ってきた。顧客に対して公に謝罪して数%の値上げを行うD2Cブランドから、数千ドルもの値上げをするラグジュアリーブランドまで、さまざまな事例があ […]
インフレと事業コストの増加により、アパレル業界の多くのブランドが値上げに踏み切ってきた。顧客に対して公に謝罪して数%の値上げを行うD2Cブランドから、数千ドルもの値上げをするラグジュアリーブランドまで、さまざまな事例がある。
だが、92%の米国人が今年の消費支出を減らしていると報じられているように、経済環境によって消費者が圧迫されているなかで、D2Cやラグジュアリーのなかには正反対のアプローチを取るブランドもある。つまり、お金を節約するために離れてしまった顧客を取り戻そうと、価格を下げているのだ。
マージンを減らすことで値下げを敢行
創業8年となる自身の名を冠したブランド、レイ(Wray)の創業者でデザイナーのレイ・セルナ氏は、この1カ月でブランドの全商品の価格を15~20%下げたという。
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セルナ氏は2015年にブランドを立ち上げて以来、レイのドレスとウィメンズウェアの価格を上げていなかった。今回の変更は水面下で行われたのではない。8月22日、レイは価格を下げることをインスタグラムに投稿し、その理由を説明し、コメント欄に返信した。多くの人が品質が変わるのか、それとも会社が従業員を解雇したり、従業員の給料を下げたりするのかと質問している。
そのようなことは一切ない、とセルナ氏は断言する。唯一変更した点は、各製品に対するレイのマージンの取り分を減らしたということだ。
これが思い切ったリスキーな行動であることをセルナ氏は認めている。
「今まで行ったなかでもっとも愚かなことかもしれないし、あるいは会社を救うことになるかもしれない」とセルナ氏は述べた。
あらゆるものが高くなり、人々は疲弊している
レイの売上は今年40%減少している。DMやEメールでのアンケートを通じて顧客と話した結果、一番の理由は価格圧力とインフレであるのは明らかだとセルナ氏は言う。
「人々はただ疲れている。1杯のコーヒーが15ドル(約2200円)もする。食品も高い。あらゆるものが高くなっている。それなのに賃金は低迷している。この問題についてじっくり考え、今後もみずからの価値観に忠実でありたいなら、やるべきことはこれだと決心した」。
セルナ氏は、コスト削減のために最低賃金の従業員をレイオフしている企業を非難し、そうした企業のリーダーはレイオフされた従業員の何倍もの給与を稼ぎ続けていると述べた。それは、自分がレイに求めている精神に反するとセルナ氏は言う。レイではレイオフは行われていない。実際にはセルナ氏は今年初めに従業員の給与を一律に引き上げたという。D2Cのみで販売するレイは、過去3年間で年間売上を20万ドル(約2900万円)から300万ドル(約4.4億円)以上に伸ばした後、1月に初の実店舗をオープンした。
レイが以前200ドル(約2万9000円)以上で販売していたドレスは、現在150ドル(約2万1900円)強で販売されている。マージンは厳しくなるが、それでも利益にはつながるという。昨年購入を控えた顧客が戻ってきて、長期的には下がったマージンを補うだけの数になり、ビジネスが維持されることを期待している。
希望小売価格を引き下げるという戦略的な決定
最近、価格を引き下げたほかのブランドは、低価格化を可能にした要因として安定したサプライチェーンを挙げている。オレゴン州ポートランドを拠点とするフットウェアブランド、キーン(Keen)もそのひとつだ。6月、同社は恒久的な値下げを発表した。キーンは、工場や配送センターを含むサプライチェーンの40%を自社で所有している。
また、LAを拠点とするサステナブルなファッションブランド、ロサーノ(Losano)も7月に価格を30%近く引き下げた。ロサーノもレイと同様にレイオフや素材の変更ではなく、マージンを削減することでこれを実現した。
「新しいブランドとして非常に競争の激しい市場で取引している。より幅広いオーディエンスにリーチできるように、希望小売価格を引き下げるという戦略的な決定を下した」と、ロサーノのCOO、マリンダ・ベーレンス氏はGlossyにEメールで述べた。「サステナブルではない原材料にくらべて、サステナブルな原材料のコストはかなり高価であるにも関わらず、当社はアクティブアパレル市場のトップクラスのブランドであり続けるよりも、むしろマージンを減らそうと考えた」。
セルナ氏にとって、価格を下げるリスクはブランドと顧客の双方にとって潜在的利益に見合うものだ。
「たまに私たちの服が高すぎるというコメントをもらうと、チームはイライラする」とセルナ氏は述べた。「もうすでにこんなに値下げしているのがわからないのか?と思ってしまう。でも、みんなとにかく疲れているし、怒っている。それに怒る権利がある。私たちは人々の声に耳を傾けるだけだ」。
[原文:‘People are tired’: Fashion brands are lowering prices to bring back price-conscious consumers]
DANNY PARISI(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)