創業2年のパンガイア(Pangaia)の最高イノベーション責任者、アマンダ・パークス氏は、コンピュータサイエンスと材料科学で博士号を取得し、ファッション科学者という珍しい肩書きを持つ。ファッションと科学は密接に関係しているとパークス氏は強調し、パンガイアにとって業界の空白を埋めることになると指摘する。
この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、ビューティ、ファッション業界の未来を探るメディア「Glossy+」の記事です。
創業から2年のパンガイア(Pangaia)の最高イノベーション責任者、アマンダ・パークス氏は、自分がファッションに携わるようになるとは思ってもみなかったという。だが、パンガイアは典型的なファッション企業ではない。 パークス氏は、「我々は材料科学会社だ」と最新の米Glossyポッドキャストで述べている。「我が社は、未来の素材の会社であり、これはファッション業界を大変革できるアプローチのひとつだと信じている」。 しかし、ファッションファンにもっとも知られているのは、ハリー・スタイルズ氏やコートニー・カーダシアン氏が着ていた、胸もとにテキストのデザインがある鮮やかな色のスウェットスーツを手がけたブランドとしてだろう。 パークス氏は機械エンジニア兼製品デザイナーとしてキャリアをスタート。その後マサチューセッツ工科大学へ戻り、メディアラボに所属。コンピュータサイエンスと材料科学で博士号を取得して、ファッション科学者(fashion scientist)という珍しい肩書きを得ることになった。 「私はいわば裏口からファッション界に入った。大学生だった20年ほど前にはファッション科学者なんて存在していなかった」と同氏は言う。 しかし、このふたつの世界のあいだの相互作用が少ないにも関わらず、ファッションと科学は密接に関係しているとパークス氏は強調する。 「ファッションは科学を披露できる素晴らしいプラットフォームだ」とパークス氏は述べている。「ファッション業界に関わるようになって、大手ファッション企業には社内研究がないことを知りショックを受けた。私はテク系出身で、インテル(Intel)やグーグル(Google)のような企業と協働していた。これらの企業は5〜10年かけて社内で研究開発を行い、業界を変えたり刷新して目標に向かっている。ファッション業界では大企業でもそれを行っているところはあまりなかったので、パンガイアにとって多々あるチャンスの最初のものが業界の空白を埋めることだと考えた」。 パークス氏は、Z世代の購入客のパワーやグリーンウォッシュの現状、ファッションのサステナビリティの将来についても語ってくれた。 以下、ポッドキャストの会話からハイライトをいくつかお届けする。なお、読みやすさのために若干の編集を加えている。
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ファストファッションの衰退
「ファストファッションがゆっくりと消えつつあるのは良いことだと思っている。これは、Z世代とアルファ世代がファストファッションに関心を示していないからであり、心強く感じている。これらの世代はビンテージがクールだと思ってそれを取り入れている。もしファストファッションを着ないことがクールだと思ってもらえるようになれば、大きな前進だ。 また、ファストファッションの製造がむずかしくなっている要素もいろいろある。ニューヨーク州ではファッション・サステナビリティ法という新しい法案が出されており、ブランドはもっと透明性を取り入れなければならなくなる可能性がある。価格設定も面白いものだ。なぜなら、我が社の製品はプレミアムレベルで、ハイストリートよりも高価だがラグジュアリーではない。『パンガイアの製品は高すぎる』と言われたり、『トラックスーツは800ドル(約9.2万円)にすれば? 』と言われたりする。だからこそ、モノのコストがその素材を直接反映していることはほとんどないのに気づくだけでも、ファッション業界というのは不思議だと思う。価格がブランドや技術を反映している場合はあるかもしれないが、ファッションブランド内のビジネスモデルだけを見た場合、原材料コストに対してマーケティングと広告にどれほどの多額の金額が費やされていることだろうか? コストの割合をシフトした場合、我が社が試みているのはコンテンツとマーケティングとして素材自体を使うことなのだが、原材料コストが高くなっても妥当な価格で製品を売ることができるだろう。これは、とくに新しいデジタルテクノロジーが拡大し始めて、より再生可能なコットンがより容易に入手できるようになっているから。なので、私はこう考えたい。必要なタイプのサポートが得られないのでファストファッションの最悪のものは消えていく。(ファストファッションには)10代の若者の行動力が必要だが、ファストファッションは少しずつ消えつつあると思う」。
ファッションへの科学者の起用
「ファッションは、とくに『退屈な環境では働きたくない』と思う科学者にとっては楽しい業界だ。私にとって素晴らしいのは、10代や大学生の大勢の女の子たち、女性たちから『ファッションが大好きだけど、数学も科学も好きだ。どうしていいかわからなかったが、いまでは進む方向が見えてきた』と言われること。彼女たちの姿は若かったときの自分そのものなので、そう言われるのは嬉しい。私もクレイジーでおかしな流行が大好きで、また数学と物理が得意だったし、好きだった。 それに必ずしも適切な環境を見つける必要はない。ファッションは、性別を問わず新しい世代の人たち皆にアピールするものだ。若い世代はファッションに対してとても直感的な方法でクリエイティブな反応を示してくれるし、ファッション業界で技術的スキルを活かすことができる。なので、このアイデアは素晴らしい。私のネットワークには、世界でも屈指の優秀で才能のある科学者たちがいる。才能のすべてを活用しなくてもいいが、もしコラボレーションしたらどうなるだろうか? 科学者には自分の研究室にとどまり、専門分野を研究してその最先端にいてほしいと思っている。ただ、彼らの時間と研究室に所属する大学院生の力を少しだけ拝借して、商業的な価値のあるモノを作り出したいと思っているのだ」。
意図せずに陥るグリーンウォッシュ
「グリーンウォッシュはやめなければならない。ただ、多くのブランドがグリーンウォッシュをしているように見えるけれども、私はそれは意図的なものではないと思う。正しい情報を入手して分析するのはそんなに簡単ではないのだ。我々は、必要な処理能力や情報や専門知識を持つ科学企業としてスタートせねばならなかったし、サステナビリティをビジネスの原則と優先事項にしようと決断しただけだ。既存のブランドにとって、環境対応の全リソースをいきなり構築して優先事項の順序を変えるのは容易ではないので、ついつい簡単に入手できるように思えるものに飛びつくわけだ。 私が最重要視している課題のひとつの海洋プラスチックを例に取ろう。海からプラスチックを除去することは絶対に必要だし、素晴らしいことだ。だが、プラスチックの使用法の最悪のものがなにか知っているだろうか? それは、繊維にプラスチックを使うことだ。洗濯によってプラスチックは繊維から分離して、有害なマイクロプラスチックとしてひっきりなしに出ている。海洋プラスチックに関して我々がすべきことは、建設資材に入れること。これは一例だが、海に流入することもなく、洗濯されることもなく、プラスチックが分離しないものに使うことだ。ブランドは良かれと思っているのだろうが、海洋プラスチックから水着を作るというのはひどいアイデアだ。正しいと感じるかもしれないが、これは繊維の最悪の利用方法。私は他社がそういう対策をする理由を理解しているので、誰も非難しない方法で正しい情報を伝えたいと思っている。現状は、開拓時代の西部のように未知の領域だ」。 [原文:Pangaia chief innovation officer Dr. Amanda Parkes: ‘Fast fashion is slowly dying’] JILL MANOFF(翻訳:ぬえよしこ、編集:小玉明依)