コロナ禍を乗り越えて、ブランドが一層強くなるために

本記事は、FICC会長を務める、荻野英希氏による寄稿コラムとなります。

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消費者は自宅に留まり、施設は閉鎖され、新型コロナウイルスは多くの企業に壊滅的な影響を与えている。消費者行動は劇的に変化し、ソーシャルディスタンスを保った生活が来年以降も続く可能性が高くなってきた。数カ月後には危機は過ぎ去るという楽観的な見方もあるかもしれないが、どんな事業であれ、その継続性を単なる楽観的憶測に基づいて危険にさらすのは極めて無責任なことだ。

多くの企業は新型コロナウイルスの対応に迅速に動いた。まずは従業員の安全を確保し、そして顧客にサービスを提供し続けるための調整を行った。しかし、このような対応は、所詮応急処置に過ぎない。ブランドが成長し続けるため、あるいは生き残るためには、「ニューノーマル」と呼ばれる、これまでとまったく異なる環境に適応しなければならない。

そのためには、企業は以下の3つのポイントにフォーカスする必要がある。まずは、政府の方針や、競合・市場動向よりも、消費者行動の変化を理解すること。次に、無理な営業の強化や、マーケティングミックスの最適化ではなく、ブランドのベネフィットパーパスを再定義すること。最後に、一方的なトップダウンの決断や、一致団結の号令ではなく、複合的な部門間の協調を可能にする、クロス・ファンクショナル・チームを強化することだ。

消費者行動の変化を理解する

突然停止した経済活動のほかに、新型コロナウイルスは、いくつかの面で消費者行動に大きな変化をもたらした。まずは、消費者とブランドの移動を伴う関係が逆転した。以前は売り場へと移動していた消費者は静止し、多くのブランドは消費者に接触するための新たな方法を探さなければいけなくなった。

そして、デジタルサービスの活用が急増した。いまでは多くのカテゴリーにとって、もっとも重要なセールスのチャネルになっている。たとえばこの数カ月で、私たちは日常生活のあらゆる面で、デリバリーに依存するようになった。在宅勤務やZoom(ズーム)が通勤や移動に取って代わった。また、学習やエンターテインメントの大半がデジタル・エクスペリエンスでまかなわれるようになり、メディア消費にも大きな変化をもたらした。

もはや私たちがもつ従来の消費者行動の知識は役に立たない。マーケティング活動はカスタマー・ジャーニー全体を見直し、一から計画し直す必要がある。コミュニケーションを構築し直す際はパーセプションフロー・モデルを活用することで、費やす時間や労力を削減できるかもしれない。しかし、この状況が短期間で元に戻ることは期待できないため、企業は消費者行動の変化を正しく理解するために、本格的な調査に投資すべきである。

ブランドのベネフィットやパーパスを再定義する

ジョブ理論の考え方に基づき、消費者は生活をより良くするために商品やサービスを購入(あるいは雇用)するという前提で、QOL(Quality of Life)の評価指標から、消費者が製品やサービスに求めるアウトカム(結果)のリストを作成した。各項目の重要性の変化を調査することで、新型コロナウイルスがここ数カ月間でどのように消費者ニーズを変化させたかが明らかになるはずだ。

以下は自主調査からの抜粋だ。これを見る限り、いまの消費者が衛生や安心安全、健康などの個人的なアウトカムを、魅了の向上や人間関係の改善などの社会的なアウトカムよりも優先していることがわかる。

corona_QOL

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ブランドを、現在の在宅ライフスタイルに沿ったベネフィットと結びつけられるのであれば、ぜひそうすべきだ。ターゲット消費者が求めるアウトカムに合わせて、ベネフィットを再定義することで、相手の関心を引くことができる。この新しいベネフィットは今後2年ほど継続する可能性があるため、戦略を慎重に検討し、ブランド・ホロタイプ・モデルなど実績あるモデルを使い、コミュニケーションを体系的に組み立てる必要がある。

ブランドはまた、思いやりのあるパーソナリティの採用を検討すべきだ。いまは誰にとっても困難な時期であり、理想とはかけ離れた状況に置かれた消費者も多い。ブランドは、日常生活における消費者の苦悩や葛藤を認識し、コミュニケーションに人としての優しさを含めるべきだ。さもなければ、一方的で無神経であるともとらえられかねない。

またブランドは、内部的にもこれまでになく重要である。消費者にとって一番の選択肢になるだけでなく、従業員にとっても信頼をよせられる心の拠り所となるべきだ。ブランドは、そのパーパスを体現することで、従業員を奮い立たせ、連携を強めることができる。制約の多いリモート環境にあっても、ブランドのパーパスによって組織全体の士気が高まり、高いパフォーマンスが期待できるはずだ。

クロス・ファンクショナル・チームを強化する

従業員が自宅から働いている状態で、企業はこれまでより時間的に制限されたスケジュールでマーケティング活動を展開する必要がある。対面式のミーティングや、勤務内容に最適化されたオフィス環境がないなかで、できるだけ迅速な展開を目指す組織は、複合的な部門間の協調を可能にする、クロス・ファンクショナル・チームを強化しなければならない。

クロス・ファンクショナル・チームは、明確な目的と決定権を持つ、部門ごとの専門家たちによって構成され、ダッシュボードやコミュニケーション・プラットフォームといったツールを通じて、すべてのメンバーがリアルタイムで情報を共有することで、迅速な判断を可能する。専門家たちの複数の視点を、部門を横断する形で交錯させることで、リモートワーク環境でも、事業の成長や継続性の欠かせない意思決定を加速できる。組織のリーダーは、頻繁にこれらのチームと関わり、望ましくないコミュニケーションのサイロ化を積極的に排除するように動く必要がある。

社会全体に見られる広範な変化を考えれば、コロナ禍の最中にブランド強化に向けた取り組みを加速する企業は、収束後も高い競争力を維持することができるはずだ。もはや従来のやり方にしがみついていても意味はない。「ニューノーマル」を受け入れ、正しく適応すれば、やがて危機が過ぎ去ったときにブランドは一層強くなっているはずだ。

Written by 荻野英希
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