1年間にわたる爆発的な売上増加のあとで、アウトドア向け飲料容器と調理器具メーカーのスタンレー(Stanley)は小売店舗でのプレゼンス拡大をめざしている。目標は特定の消費者層や小売業者ではなく、「スタンレーの熊をあらゆる場所で見かけるようにする」ことだとグローバルプレジデントを務めるテレンス・レイリー氏は語る。
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1年間にわたる爆発的な売上増加のあとで、アウトドア向け飲料容器と調理器具メーカーのスタンレー(Stanley)は小売店舗でのプレゼンス拡大をめざしている。
スタンレーの商品は米国で、ディックススポーティンググッズ(Dick’s Sporting Goods)からアーバンアウトフィッターズ(Urban Outfitters)まで、1000を超える小売パートナーで販売されている。グローバルプレジデントを務めるテレンス・レイリー氏によれば、アウトドア用品や断熱水筒などのカテゴリーが成長したことから、スタンレーは2021年に、同社の109年にわたる歴史でも最高の年間売上高を達成した。実際にD2Cとeコマースの売上高はそれぞれ350%と150%近く増加し、全世界での売上高は倍増した。
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「スタンレーの熊をあらゆる場所で」
そして同社は小売パートナーシップを増強し、アウトドアボイシズ(Outdoor Voices)などの新しい小売業者に昨年はじめて参入して、アールイーアイ(REI)など既存のパートナーでも棚面積を増やしている。目標は特定の消費者層や小売業者ではなく、「スタンレーの熊をあらゆる場所で見かけるようにする」ことだとレイリー氏は、同社の羽が生えた熊のロゴに言及して説明している。
同社は飲料容器、食品容器、クーラー、キャンプ用調理器具において、多様な価格帯の数百もの商品を保有している。たとえば飲料容器のカテゴリーだけでも、同ブランドは15ドル(約1740円)の旅行用マグから、100ドル(約1万1600円)のチタン製マグまでを取りそろえている。特に同社の「アドベンチャー・クエンチャー・トラベル・タンブラー(Adventure Quencher Travel Tumbler)」は、同社のハイドレーションカテゴリーを前年比で215%の成長に導いたものだ。
レイリー氏は、同社が卸売パートナーシップを探すとき、オンラインとオフラインの売上を促進し、各種のチャネルにわたって一貫したスタンレーのブランディングの機会を生み出せるような小売業者を探すと語る。
スタンレーが協力する小売業者の種類は、地域チェーン店から全国規模の複合企業までにわたる。たとえば、コロラド州中南部の都市、コロラドスプリングスの買い物客は、現地のアウトドアショップであるマウンテンシャレー(Mountain Chalet)や、ウエスタンアパレルの小売チェーンのブートバーン(Boot Barn)で対面により購入できる。オンラインなら、高級調理器具販売のウィリアムズソノマ(Williams-Sonoma)や、ジェネレーションZのアパレルの定番であるアーバンアウトフィッターズ(Urban Outfitters)から注文できる。
スタンレーは、どの商品をどの小売業者に提供するかを決めるとき、同社の数百にのぼるSKUを活用している。アーバンアウトフィッターズは、スタンレーの30ドル(約3480円)の明るい色が付いた断熱タンブラーを在庫しているのに対して、ウィリアムズソノマはスタンレーの140ドル(約1万6200円)のプロ用キャンプ調理器具を販売しており、こちらはニュートラルシルバー色だ。「たとえば、アールイーアイで見かける商品の品揃えは、バスプロショップス(Bass Pro Shop)の消費者に配達するものとは異なっている」とレイリー氏は述べている。
アウトドアボイシズとの提携の意味
レイリー氏は以前に、スタンレーの販売が成功した理由の一部は、新しい「若い、女性のオーディエンス」の流入だと、米モダンリテールに語った。同社は昨年、このオーディエンスに訴えかけるため、新しい配色と商品を開発していた。同社は現在、これらの買い物客の要求を満たせるような新しい小売業者との協力に関心を強めている。
このような小売業者のひとつがアウトドアボイシズだ。アウトドアボイシズは過去には、自社ブランドのレギンスや運動着だけを、主にジェネレーションZとミレニアル世代の女性に向けて販売していた。しかし最近になって同ブランドは、スタンレーサーモス(Stanley Thermos)やワイルドワン(Wild One)の犬用ハーネスなど、ほかのブランドのSKUについて限定的に販売を開始した。
評判になっているD2Cブランドにとって、多くの場合はそのブランドが扱ったことのないカテゴリーにおいて、スタンレーのようなほかの流行中のブランドの商品を限定セレクションとして販売するのは一般的な戦略になりつつある。
アウトドアボイシズは、スタンレー以外にもリセス(Recess)、エパーソン(Epperson)、メレル(Merrell)、ソルトアンドストーン(Salt and Stone)など10近いブランドの商品を販売している。眼鏡ブランドのワービーパーカー(Warby Parker)は、同社が「強い編集方針を持つ小さな出版社」と表現している企業から、一部の書籍を販売している。アパレルブランドのメイドウェル(Madewell)は現在、自社サイトにメイドウェルブランド以外の「私たちが好きなレーベル」専用のセクションを設けている。
D2C小売コンサルタントのコンドラット・リテール(Kondrat Retail)の創設者で、マネージングパートナーであり、アウトドアボイシズの元従業員でもあるレベッカ・コンドラット氏は、この戦略が単一カテゴリーの新興企業を「ライフスタイルブランド」に育て上げるため役立つと語っている。たとえばアウトドアボイシズはこれにより、同社がただレギンスを販売するブランドではなく、アウトドアでのアクティブなライフスタイルを届ける会社だというメッセージを発信しているという。
コンドラット氏は次のように述べている。「これらのブランドは、ライフスタイルブランドはひとつのニッチなカテゴリーだけで販売しているわけにはいかないと考えている。このようなサードパーティのブランドのオンボーディングは、ブランドへの認知を広めるとともに、メッセージを広範囲に伝えることになる」。
若い女性のオーディエンスにアピール
一方でスタンレーにとって、このような小規模の活動は、同ブランドがニッチなオーディエンスを対象とするために役立っている。スタンレーがアウトドアボイシズを必要とするのは規模を拡大するためではない。スタンレーはディックスやアールイーアイなどの小売業者とのあいだに、1000店舗を超える複数かつ多国籍の契約を結んでいる。これに対してアウトドアボイシズの店舗数はわずか12店で、シミラーウェブ(SimilarWeb)によればサイトの訪問回数は約38万回にすぎない。
しかしアウトドアボイシズは、よりニッチなオーディエンス、すなわち都会で生活しており、アウトドアへの興味を持っている若い女性を対象としており、大規模な小売パートナーよりもアイデンティティが明確だ。
コンドラット氏は次のように述べている。「アウトドアボイシズと提携するのは、魅力があるように見えるためだ。注目の的となり、クールなブランドとして見てもらえる。アウトドアボイシズでの販売についてもっとも魅力的なのは、同社がミッション主導の会社であり、それほど大規模でないことだと、私は考える」。
レイリー氏は、スタンレーの売上が増大し続けるにつれ、小売のパートナーシップも、特に若い女性のオーディエンスにアピールする方向に展開し続けていくと説明している。
同氏は次のように述べている。「コロナ禍が沈静化していくにつれ、さらに多くの消費者が、長いあいだロックダウンされていたことからの気分転換のためだけにでも、外に買い物に行くだろう。このような人々が買い物をする場所に存在するということが、スタンレーのブランドにとって非常に重要な瞬間だと考える。そして、今年やそれ以後にはそのような光景が数多く見られるだろう」。
[原文:Outdoor gear brand Stanley is adding new retail partners after its best-ever sales year]
Maile McCann(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:黒田千聖)
Image via Stanley