オウンドメディアはブームを経て、淘汰の時代がはじまった。むやみやたらに集客するのではなく、本来的な意味でのコンテンツマーケティングがあらためて問われている。「スモビバ!」というオウンドメディアを運営する弥生株式会社の鈴木 仁氏と、その支援を行うアウトブレインジャパン社長の嶋瀬 宏氏による対談の様子をご紹介する。
オウンドメディアはブームを経て、淘汰の時代がはじまった。むやみやたらに集客するのではなく、本来的な意味でのコンテンツマーケティングが、いまあらためて問われている。
2013年にローンチされた「スモビバ!」は、弥生株式会社が運用するオウンドメディアだ。運用開始当初は、1日に50アクセスもあればいい方だったが、3年の運用を経て、繁忙期には月間100万アクセスを集めるほどに成長している。
弥生のオウンドメディアというと、同社の会計ソフト「弥生」のプロモーションが主目的と思われるかもしれない。だが、同社マーケティング本部 マーケティングコミュニケーションチーム マネジャーの鈴木 仁氏によると、「スモビバ!」の成功は「スモールビジネス向けにビジネス上の課題を解決する」メディアであることを突き詰めてきた結果だという。

弥生のオウンドメディア「スモビバ!」
そんな、「スモビバ!」の拡大施策の一端を担っているのが、コンテンツレコメンデーションエンジンのアウトブレインだ。アウトブレインジャパン社長の嶋瀬 宏氏は、オウンドメディア支援のために、国内外を問わずさまざまな事例に触れてきた。
本記事では、弥生・鈴木氏とアウトブレイン・嶋瀬氏の対談を通して、今後、オウンドメディアをどのように進化させていくべきかを探る。
嶋瀬 宏 氏(以下、嶋瀬):「スモビバ!」、運用開始から3年経って、ずいぶん成長してきたと聞いております。弊社のレコメンデーションエンジンと集客サービスもご利用いただいているので、我がことのようにうれしいです。
鈴木 仁 氏(以下、鈴木):いつもお世話になっております。おかげさまで、現在は、繁忙期には月間100万アクセスくらい得られるメディアに成長しました。ですが、2013年12月に「スモビバ!」を立ち上げ、ある程度、育ってくるまでは大変でしたね。立ち上げ当初は1日50アクセス足らずということもあったほどです。
嶋瀬:やはり、そうでしたか。オウンドメディアは立ち上がるまでが辛いですよね。
鈴木:その意味で、継続していくことが大事です。立ち上げ当初は、「結果が出るかわからないが、半年は見て欲しい」と経営層に理解を求めました。とにかく、お客さまから喜ばれるサイトになることが先決で、マーケティング貢献は二の次。これが、初期の段階からマーケティング貢献をKPIにおいたら絶対うまくいかなかったと思います。

「お客さまから喜ばれるサイトになることが先決」と鈴木氏
嶋瀬:先日、米国のコンテンツマーケティングの会社数社と話をする機会がありましたが、彼らの最低契約期間が1年なんだそうです。1年以内は結果を実感しにくい、それ以下の契約期間では成果が出ないという割り切りが明確だと感じました。ちなみに、「スモビバ!」を開設した目的は、なんだったのでしょう?
「スモビバ!」開設の目的
鈴木:「スモビバ!」を開設した目的は、大きくふたつあります。ひとつ目は「ブランド上の課題の解決策」、ふたつ目は「潜在顧客へのプロモーション」です。
現在、弥生は会計ソフトのカテゴリーでシェア約6割を獲得し、1位のポジションにあります。ですが、そこにとどまらず、今後はスモールビジネスの事業のあらゆるニーズをサポートする「事業コンシェルジュ」としてのサービス企業への変革を進めています。そこで、ひとつ目の目的、「ブランド上の課題の解決策」としてスモールビジネスの事業をサポートするメディアを立ち上げたのです。
嶋瀬:ビジネストランスフォーメーションが、ひとつの背景にあったわけですね。では、ふたつ目の目的、「潜在顧客へのプロモーション」は?
鈴木:会計ソフトの普及率というのは、実は3割〜5割程度なんです。つまり、スモールビジネスの事業者のなかには、まだ会計ソフトを使っていない方も多い。そういった意味で、潜在層へアクセスできるチャネルをもちたかったのです。
ところで、嶋瀬さんはサードパーティとして、多くのオウンドメディア事例をご存知かと思います。現在のオウンドメディア全体の動向について、どうご覧になっていますか?
オウンドメディアの現状
嶋瀬:そうですね。多くのオウンドメディアが、立ち上げから試行の段階を経て、運用しながらノウハウを蓄積している段階にあると思います。それに伴い、サイトのKPIも、開設当初はPVが主な指標だったものが、2年、3年と経過して、よりビジネスへの貢献という成果を求められていると感じますね。
鈴木:担当者としては、単純な数値を追い求めてしまう気持ちもわかります。ですが、ビジネス貢献は、忘れてはいけない視点ですね。
嶋瀬:もちろん、KPIは業種によっても異なるものです。たとえば、BtoBのビジネスであれば、コンテンツ起点で集客、見込客(リード)のナーチャリングを経て、案件化というコンバージョンに至ります。しかし、最終的なコンバージョンに対してどこまでコンテンツが貢献したか、アトリビューションを分析しながらサイトのPDCAを回している企業は、まだ少ないのが現状です。
鈴木:そう思います。ですが、やはりマーケティング全体を効率化したいニーズは高いと思います。弥生の場合、BtoB商材といっても単価が低いので、獲得したリードに対して営業マンがつくことはありません。その意味で、いわゆるマーケティングオートメーションについても、画一的なツールや機能ではなく、よりワントゥーワンのコミュニケーションを可能にするツールについての期待が強いです。
潜在顧客を育成するには
嶋瀬:潜在顧客の育成では、コンテンツを通じて、ニーズを顕在化させるプロセスが大事ですよね。「スモビバ!」では、どんなことを考えていますか?
鈴木:たとえば、「確定申告をどうするか?」というコンテンツは検索流入も多く、よりファネル上部の潜在層向けのコンテンツといえます。
これに対して、「実際にソフトを使ってみた」というコンテンツは、より製品に近いですが、検索流入はそれほど多くありません。メディアのなかで、確定申告の実施方法から、会計ソフトの使い方への流れをつくり、検索流入からよりコンバージョンに近づける工夫しています。
嶋瀬:とてもオーガニックな設計をされているんですね。ユーザー本位になっている。
鈴木:もうひとつは、コンバージョンまでのリードタイムが商材によって違う点もポイントです。本来は時間をかけてナーチャリングしていくのが理想的ですが、たとえば、個人事業主向けの確定申告ソフトは、毎年1月から3月までの確定申告の時期に、手続きに追われた多くの個人事業主が、検索してサイトに来訪するケースが増えます。
こうした課題解決のニーズが高い時期は、コンバージョンまでのリードタイムが短いので、記事に「無料トライアル」のキャンペーンバナーを配置するなどの工夫をしています。
さらに発展した海外事例
嶋瀬:そのお話を聞いて、海外のウォーターサーバー会社オウンドメディア事例を思い出しました。御社のやり方を発展させた施策だと思います。
彼らのビジネスの根幹は、サーバー設置ではなく、詰め替え用の水を売ることですが、まずはサーバーを設置してもらわないと何もはじまらないことから、獲得型の施策を中心に展開していました。しかし、ある一定のマーケットシェアを獲得後は、顕在需要の刈り取りによる成長が鈍化してきたため、コンテンツ起点での潜在層開拓に力を入れたのです。具体的には、「赤ちゃんがいる家庭にこんな水が向いている」「スポーツにはこんな水が良い」というようなコンテンツを用意した。潜在顧客を見込客にするための需要を喚起するコンテンツですね。そして、それに触れた顧客が、Webフォーム経由で問い合わせに至った場合は、どのコンテンツを読んで問い合わせに至ったのかのデータを収集し、さらなる施策の礎としたんだそうです。
鈴木:興味深いですね。その「さらなる施策」というのは?
嶋瀬:この情報をCRMとも連携し、そこに登録された顧客の問い合わせ履歴を、興味やライフスタイルと関連づけたそうです。しかも、このデータをもとに、コンタクトセンターのオペレーターが対応したり、メルマガの内容をパーソナライズしているんだとか。
鈴木:それは徹底していますね。デジタルの使い方がうまい。

「キーワードは『お客さまありき』」と嶋瀬氏
ニーズ顕在化のアプローチ
嶋瀬:ところで、潜在ニーズの顕在化へのアプローチとして、アウトブレインを集客に利用した感想はどうですか? 製品ページへの流入をKPIとして最適化を行った集客に利用していただきましたが。
鈴木:未知の顧客と出会うためのソリューションとして、スモールビジネスの関心事に対して、サイト外部にアプローチできるソリューションは面白いと感じています。昨年導入した実績では、アウトブレイン経由で流入した顧客は、製品サイトへの送客というコンバージョンに至った割合が、従来の検索経由に比べて高かったです。単価もリスティングに比べ安く、有効な施策だったと考えています。
嶋瀬:ありがとうございます。顕在層であるリスティングよりも費用対効果が高かったというのは、非常に嬉しい結果です。ちなみに、デモグラフィック情報をベースにしたターゲティングについては、なにかお考えになっていますか?
鈴木:商材の特性上、スモールビジネスにしか響かない商材ですので、デモグラ情報からスモールビジネスをセグメントできないと、効果的ではないかなと考えています。
嶋瀬:確かにデモグラ情報によるターゲティングは、御社の場合は十分なスケールをもつセグメントを作ることが難しいですね。アウトブレインのようなディスカバリーは、逆転の発想で、コンテンツを読んでくれたユーザーをターゲットと捉えます。つまり、コンテンツ内容によって閲覧者が購買ファネルのどの段階に位置するかを推定し、次の段階に押し下げるためにリターゲティング施策を行うというものです。「スモビバ!」でも、たとえば、読者データを分析して、「このコンテンツに興味をもつユーザーには、このコンテンツを見せる」というような興味ベースのターゲティングを行うことは、十分可能性があるのではないでしょうか?
「ファン化」への取り組み
鈴木:これまで、手作業ベースでコンテンツの出し分けを行っていた事例はあります。たとえば、確定申告には青色申告と白色申告とがありますが、白色申告の記事を読んだ方には、白色申告用の製品をリターゲティングするというような施策です。
嶋瀬:アウトブレインでは「カスタムオーディエンス」というコンテンツへのリターゲティング機能を提供しています。現在「スモビバ!」でも準備を行っているところですが、コンテンツにタグを設置することで、青色申告の記事を読んだ方には、1月の繁忙期に青色申告に関するコンテンツを再度アウトブレインで配信するというのが自動化できます。
鈴木:そういう施策はありがたいですね。ちなみにファネルの下部の既存顧客に対するアプローチについては、どんなことを考えていますか。
嶋瀬:一般的に、購入後、最初の数週間で製品をどれだけストレスなく使えるかが「ファン化」には重要です。その意味で、既存顧客向けのコンテンツは、FAQを含め、デジタル上の顧客体験を最適化するようなコンテンツを用意するのが大事だと思います。
鈴木:なるほど。たしかに、そうですね。そこに対して、アウトブレインのソリューションはあるのでしょうか?
嶋瀬:アウトブレインでは、能動的な検索行動ではカバーできない役割を補完することができます。たとえば、会員向けページなど、既存顧客が見に来るページにタグを設置し、既存顧客に限定した形で「こんな便利な使い方も」といった検索経由での流入はなかなか期待できないコンテンツを見せ、よりファン化、インフルエンサー育成を促進するようなリターゲティングの取り組みなどです。
こうした施策には、ある一定数の既存顧客のスケールが必要ですが、さらなるユーザービリティ向上やアップセルなどにも活用が可能です。ところで「スモビバ!」の現在の課題は、何でしょう?
「スモビバ!」今後の課題
鈴木:コンテンツの開発能力と、来訪した顧客のエンゲージメント強化の2点です。コンテンツ開発能力に関しては、競合のオウンドメディアも多く、コンテンツの質と量のバランスを取り、そのなかでいかに結果を出すか、常に課題を感じています。また、エンゲージメント強化はまだまだこれからです。その意味では伸び代がある部分だと期待しています。
嶋瀬:検索を狙ったコンテンツの場合は、ストレートに行動へ直結するので、コンテンツに「解決」がないと、ユーザーの不満につながります。その意味で、検索向けに作るコンテンツは、ニッチで尖った、内容の濃いものほど満足度が高い傾向があるのでしょう。
その一方、アウトブレインのコンテンツレコメンデーション技術「ディスカバリー」では、顧客がニーズにすら気づいていない、もしくは興味はあるが能動的に検索するまでには至らないコンテンツをプロモーションできます。そこでは、コンテンツにユーザーの普段の興味関心と何らかの接点があることが重要です。たとえば、「会計ソフトがうまく使えない」というような直接的な課題よりも、その背後にある「忙しくてプライベートの時間がない」というような根本的な課題に、ブランドのメッセージが結びついていることが大事です。
鈴木:それは、いままでにない視点ですね。
オウンドメディアの未来
嶋瀬:実際、個人事業主はいつも会計のことばかり考えているわけではありません。彼らの根源的なニーズを掘り起こし、そこにヒットするコンテンツを作ることが、購買ファネルの下部の「ファン化」につながっていくと思います。
鈴木:ユーザーとの関係を、ピンポイントでの検索流入による「点」で終わらせるのではなく、スモールビジネスのための「場」を作りたいという思いが、「スモビバ!」というサイト名の由来です。以前、「スモビバ!」の編集メンバーが、なにも関係のない個人事業主の友人から「すごく良いサイトがあった」といわれ、詳しく聞いてみると「スモビバ!」だったといことがありました。作り手としてこれほど誇らしい話はありません。
嶋瀬:今後、分散型メディアの流れが広がっていくなかで、アウトブレインが担う役割のキーワードは「お客さまありき」ということだと思います。お客さま視点でコンテンツを作り、お客さまが求めるタイミングで、お客さまが求めるメディアで、お客さまが求めるコンテンツを配信していくことが理想になります。
オウンドメディアの未来において、テクノロジーは進化し、DMPやアウトブレインをはじめとする配信ネットワーク利用も進んでいくでしょう。そして、その先にはCRMと連携したマーケティングの自動化があるはず。コンテンツもよりユーザーに合ったものに変わっていく。そうでないとユーザーに見てもらえなくなり、埋没するだけになると思います。
オウンドメディアは、まだまだ可能性を秘めている。マーケティングツールとして面白くなる余地は、たくさん残されているはずだ。さまざまな戦略をもって、愚直にPDCAを回していけば、大きな成果を呼び寄せられるだろう。
▼鈴木 仁 (左)
弥生株式会社 マーケティング本部 マーケティング部 マーケティングコミュニケーションチーム マネジャー1998年 青山学院大学国際政治経済学部卒。広告代理店にて、IT、エンターテイメント、食品、流通、金融、医薬品の各種キャンペーン、ブランディングプロジェクトを担当。2012年 弥生株式会社に入社。現在、事業者向けのマーケティングコミュニケーションを担当。親族の多くがスモールビジネス経営者。
▼嶋瀬 宏 (右)
アウトブレイン ジャパン株式会社 社長2001年 三菱商事株式会社入社。国内外における新規プロジェクト開発などを担当。同社退職後、新規事業のインキュベーション・コンサルティングを行う株式会社ステラ・ホールディングスを設立。2013年11月よりアウトブレイン ジャパン株式会社の社長に就任し、オンラインパブリッシャーとコンテンツマーケティングを展開する様々な企業をサポートしている。
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Writer 阿部欽一
Photo Courtesy of 合田和弘