米国ではコピーの冒頭に「#(ハッシュタグ)」をつけたキャンペーンが大流行している。TwitterやFacebookでのソーシャル拡散を狙って、何でもかんでも「#」をつける。広告代理店Solveの幹部ニール・ジェイムス氏はその効果を疑い、再考を求めている。
この記事は、ミネアポリスを拠点とする広告代理店Solveのデジタル戦略担当取締役である、ニール・ジェイムス氏による寄稿です。
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米国では、「#(ハッシュタグ)」をつけたキャンペーンが大流行している。TwitterやFacebookでのソーシャル拡散を狙って、何でもかんでも、キャチコピーの冒頭に「#」をつける。
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最近、とある州が実施した観光キャンペーンの広告掲示板を目にする機会があった。どこにでもある、よく考えて作られている屋外広告で、胸躍る写真と素敵なキャッチコピーが添えられていた。
そして「それ」はそこにあった。卑屈すぎるほど小さく書かれていたが、目障りなほど目立っていた。キャンペーンのハッシュタグだ。私は一瞬立ち止まり考えた。広告主はこの情報で私に何をしろというのだろう。
私が急に旅行者たちとオンラインで会話を始めるとでも思っているのだろうか? 山で休暇を取りたいという私の欲望を共有しろとでもいうのだろうか? それともこれは、最新の広告を模倣して、現代風に見せるための怠惰な試みなのだろうか?
ハッシュタグは、広告としての利用を禁止すべきである。以下が、私の考えに対する4つの理由だ。
組織的に流行を生み出すのはとても難しい
米最大手ビール企業バドワイザーの発泡酒ブランド「バドライト」の「Up For Whatever(何に対しても最適)」キャンペーンでは、#UpForWhateverのハッシュタグの利用を啓蒙している。調査会社Topsy Analyticsによると、このキャンペーンは数億ドルものメディア費用で支えられ、1日でTwitter上に100回から300回ほど投稿されている。
とても素晴らしいことだ。しかし、ここでクリス・ハードウィックが司会をするトーク番組「@Midnight」が吐き出しているハッシュタグを見てほしい。深夜のケーブルテレビ番組で視聴者数もさほど多くはないが、Twitter上で毎晩数万ものコメントを集めている。
マーケターたちは、自らが発信するハッシュタグが文化的に根付くことをよく妄想する。しかし現実はというと、このような方法で生活者の意識を変えるには、圧倒的なスケールが必要となり、コマーシャル目的のメッセージなどでは、到底不可能である。
会話に必要なのは大金ではない
損害保険大手エシュランス(Esurance)はスケールに関するジレンマを以下の方法で解決した。スーパーボウル(全米が熱狂するアメフトの決勝戦、テレビ広告費が高騰することで有名)が放映された直後のコマーシャルで、#EsuranceSave30のハッシュタグをTwitterで投稿したユーザーの1人に150万ドルの賞金を与えると約束した。コマーシャルが流れて1分をしないうちに、このハッシュタグが付与されたツイートは20万件以上も投稿された。
このイニシアチブにより、エシュランス社はスーパーボウルの話題を独り占めした。しかし、ユーザーがパブロフの犬のように条件反射で行動するような、予算数百万ドルも投資したマーケティングが有効だとは、にわかに信じがたい。誰でも参加できる宝くじで売上を増加させようという考えは、結果的には、大いなる苦しみにつながるはずだ。
企業にとって、実りあるオンラインでの会話は、効果的なマーケティングの結果である。目先の利益だけでそれは達成できない。
模倣するだけでは文化を習得できない
あなたの両親は、あなたが聴く音楽を聴いて、あなたとコミュニケーションを取ろうとしたことはないだろうか? もしくはあなたのファッションを真似たり、あなたが使うスラングを使ったりはしていないだろうか?
これらはすべて、微笑ましいことではあるが、根本的な問題解決には至っていないだろう。なぜなら「カッコいい」ことは、単なる模倣だけでは習得できないからである。自分のスタイルとは、友人たちと繋がるための主義と信念の延長だ。上品になるには、チェックリストを確認するだけではいけない。
これと同様に、多くの企業はハッシュタグを使用することで、現代らしさをアピールし、より親しみやすくなると勘違いをしている。しかし、それには当たり前の言葉以上のものが必要になる。消費者との最良な関係は、人間的価値を共有し、感情を通い合わせることで形成されるのだ。
ハッシュタグが特別な感情を生み出すわけではない
ユーザーに企業が、心なき人、または資本主義ゾンビ以外の何かだと納得させるのは難しい。利益と株価が社会を動かす唯一の動力源であると、毎日気づかされる。
この皮肉に打ち勝つことができる企業は、より大きな目的意識を持ち、生活者と共鳴するビジョンを持った企業たちである。彼らは似た信念を持つ者たちを理解させる話し方や行動を取る。彼らがコミュニケーションを図るのは、単に認識を変えようとしているのではない。根本的、精神的な次元で彼らが誰であるか伝えようとしているのだ。
もしこの4つを理解できるのであれば、ハッシュタグはもう必要ないだろう。
Neil James(原文/訳:小嶋太一郎)
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