ネット銀行 が模倣する、直販リテールの「ユーザー戦略」

直販型(Direct-to-consumer:DTC)小売業者とデジタルバンキングのスタートアップは、同じ問題に直面している。物理的に存在しないなかで、どうやって消費者に到達するかだ。

2018年8月最終週、デジタルバンキングのスタートアップであるバロ(Varo)は、支店をまったく持っていないが、米通貨監査局(OCC)から銀行業務の予備承認を受けた。バロは、チャイム(Chime)やシンプル(Simple)、ソフィ・マネー(SoFi Money)のような他のデジタルのみの金融機関と同様に、Amazonとほぼ同じやり方で、モバイルを中心としたシンプルなユーザー体験に焦点を当て、最終的には幅広いサービスを抱き合わせ販売(クロスセル)するプラットフォームになることを目指している。

バロの最高経営責任者(CEO)、コリン・ウォルシュ氏はこう語る。「我々はAmazonのような企業の戦略ノートを参考にして、消費者にとっての摩擦を最小限に、喜びを最大限にすることを基本にしている。いままでは、銀行に行くと反対のことが起こった。我々の目標は、すべてを合理化することだ。新規口座の申し込みから預金口座の開設、インスタント預金からほんの数回のタップで利用できるモバイルローン、お金の流れの追跡まで、何もかもだ」。

ユーザー体験への理解

バロや他のデジタル金融サービス企業は、ブランドに忠実な顧客ベースに対して、さまざまな金融サービスを提供するプラットフォームになろうとしている。彼らは、差別化を図るために体験に焦点を当て、顧客はものより体験を好むという最近の調査結果に基づいてビジネスを組み立てている。だが、体験は物理的である必要はない。使いやすいインターフェイスと製品説明や価格の透明性が、消費者をつなぎ止めるうえで役に立つだろう。おまけにオンライン銀行は、金融サービス小売業者として、デジタルマーケティングを通じて若い世代の顧客へのリーチを拡大しつつある。

ボノボス(Bonobos)、エバーレーン(Everlane)、ダラーシェイブクラブ(Dollar Shave Club)など、オンラインに進出したさまざまな小売業者にとって、これはうまく機能するアプローチだ。これらのブランドはすべて、大きなマーケットへとスケールアップする前に、従来の店舗では満たされなかった便利さやニーズに焦点を当ててきた。

バロは、オンラインのみ、手数料なしの当座預金口座とともに、普通預金口座やローンなど一連の製品をPRしており、顧客について知り得た情報を基に抵当や譲渡性定期預金のような追加製品を提供できるようになるだろう。バロのマーケティングは、ほとんどオンラインで行っているが、手数料を下げることに焦点を当てており、その中身は、金融に関する権限付与を強調している。

アイテ・グループ(Aite Group)のシニアアナリスト、ティファニー・モンテス氏は次のように話す。「(バロは)コミュニティに独自のブランド構築を吹き込むことを上手にやっている。彼らはグループにフォーカスし、初期のフィードバックを活用してオンライン体験を作り上げた。そして、コミュニティの感覚を使い、製品やサービスを最適化している」。

テクノロジーで体験を再現

バロによるAmazonのビジネスモデルの模倣は、物質世界での形跡が限定されているにもかかわらず、Amazonのユーザー体験が利用者のロイヤルティを獲得しているとの認識に由来する。コーナーストーン・アドバイザーズ(Cornerstone Advisors)が先頃出した調査結果から、Amazonが当座預金口座の領域に進出する可能性に多くの若い世代の顧客から反響があったことがわかる。2018年初頭に行われたこの調査で、ミレニアル世代の若年層の37%、年上のミレニアル世代の46%が、デジタルバンキングやID盗難防止、保険などをセットにしたサービスを提供するAmazonブランドの当座預金口座を開設すると答えたことがわかった。

ユーザー体験以外に、顧客情報をベースに他の製品を提案できるAmazonの機能と、価格の明確さもまた、デジタル金融サービス企業各社が模倣したいと考えている領域だ。

テクノロジーを活用して物理的体験を可能な限り再現しようとするところもある。サンフランシスコに本拠を置くチャイムは、最近顧客数が100万人に達したが、従来型の伝統ある銀行が支店数を削減している状況下では特に、物理的スペースがブランドリーチの拡大に必ずしもつながらないと言っている。

チャイムのCEOを務めるクリス・ブリット氏は、「ATMへの無料アクセスは銀行機能の中核であり続けているが、現実世界での伝統的な支店サービスモデルは、急激に衰退している。評判やブランドは、よりよい体験を作り出すことで築き上げられ、口コミやソーシャルメディアによって増幅されていく」と述べる。

SNSでのマーケティング

DTCブランドはさらに、ソーシャルメディアを使って格上の相手と戦おうとしている。たとえば、オンラインのメガネ小売業者ワービー・パーカー(Warby Parker)は、ブランドへの支持を獲得するアプローチとして、同ブランドのメガネをかけた顧客の写真を共有するキャンペーンを展開した。

Twitter、Facebook、Snapchat(スナップチャット)上での検索と有料広告によるマーケティングに焦点を当てているチャイムにとって、銀行の支店ネットワークが持つふたつの中核機能、具体的には広告とパーソナライズ化されたサービスの提供を実現するために、テクノロジーは一層効果的だ。チャイムの製品部門を率いるザッカリー・スミス氏は、顧客サービスのニーズに応えるために電子メールとライブチャットを利用していると言い、今後は動画チャットの開始も検討している。

「小売業者と顧客の両方にとって、オンラインでのショッピングにはバンキングに持ち越せる多くのメリットがある。チャイムについての評判を広める能力からメンバーの視点に立ったメンバーの獲得まで、必要なものはすべて揃っていて、eコマースショッピングと同じくらい簡単に、モバイルアプリを通じてバンキングを利用できる」と、スミス氏はいう。

物理空間での差別化も

デジタル体験に焦点を絞ることでAmazonのように忠実なフォロワーを獲得できると同時に、デジタルのみの銀行は、製品を販売する以上のことができるポップアップにも注目している。スミス氏は、リーチを拡大するために、チャイムはまだ何らかの物理的アクティベーションの形式を排除してはいないとしながら、具体的な計画についてはコメントしなかった。一方、オンライン口座を提供するピュアポイント・フィナンシャル(PurePoint Financial)は、他のオンラインのみのブランドとの差別化を図り、サービスのパーソナライズ化を進めるために、ホスピタリティラウンジやアートギャラリーに似た物理空間「フィナンシャルセンター(financial centers:TOP画像)」の開設を決めた。

ピュアポイントのエンタープライズマーケティング部門責任者であるマハ・マデイン氏は次のように語る。「フィナンシャルセンターでの体験は、通常の銀行の支店とは大きく違う。我々はおもてなし用のバーやプライベートオフィスを提供し、クライアントは快適な空間で預金のことを相談できる。競争力が増している空間において、クライアント体験はブランドロイヤリティを確立し、消費者にとっての差別化要因となり得る」。

Suman Bhattacharyya(原文 / 訳:ガリレオ)