D2C ブランドと大手企業の合併は、なにを生み出せるか?:タフト&ニードルの挑戦

D2Cマットレスブランドの先駆けの1社、タフト&ニードル(Tuft & Needle)は1年前、業界大手セルタ・シモンズ・ベッディング(Serta Simmons Bedding:以下、SSB)と合併の交渉中だった。合併から10カ月が過ぎた現在、タフト&ニードルの共同創設者2人の主導により、SSBは製品ラインを一新し、ダイレクトチャンネルを増やし、そしてもちろん、社のマーケティング戦略を変えようとしている。

「彼らには今後、我々の宣伝方式に変えてもらうことになる」と、タフト&ニードルの共同創設者にして、現在はSSBのチーフストラテジーオフィサーを務めるJ.T.マリノ氏は語る。同氏はさらに、これまでのSSBのマーケティングは基本的に、商品の顧客への直接販売よりも、自社ブランドのリテーラーへのアピールにフォーカスしていたと、言い添える。「セルタが自社製品を宣伝している姿は、あるいはリテーラーのあいだで物議を醸すかもしれないが、これで彼ら小売店における需要とフットトラフィックを確実に増やすことができる」。

SSBが新たなマーケティング戦略を導入する時期は不明だが、マリノ氏によれば、新ウェブサイトと全ブランドの新製品ラインの発表後、まもなくのことになるという。英マーケティングリサーチ会社カンター(Kantar)によれば、2018年、タフト&ニードルのメディア費は1430万ドル(約15億円)、一方、同年のSSBのそれは2080万ドル(約22億円)だった(ソーシャルメディア費は、カンターの調査対象ではない)。

マリノ氏は過去数カ月間、同じくタフト&ニードルの共同創設者で、現在はSSBのチーフグロースオフィサーを務めるデイヒー・パーク氏とともに、SSBの製品ラインの整備と、各ブランドのダイレクトチャンネルの強化に取り組んでいる。

SSBと合併した理由

タフト&ニードルは2012年、キャスパー(Casper)やパープル(Purple)、リーサ(Leesa)らに先駆けてD2C市場に参入。2018年、同社はSSBから、競争が激化するマットレス業界で生き残るための協力を打診された。

「我々はこれを、[マットレス業界を]外からディスラプト(創造的破壊)するだけでなく、業界最大の船に海賊のように乗り込み、方針を一新させる絶好の機会だと考えた」と、マリノ氏は語る。「そうすれば、ほぼ即座に、業界全体を変えることもできる。そこに大いなる魅力を感じたんだ」。

一方、タフト&ニードル側はちょうどその頃、リテーラーを網羅する流通網を作り上げ、自社ブランドのさらなる成長を実現するための新たな方法を探していた。SSBとの合併は、それを両方いっぺんに実現できる絶好のチャンスでもあった。

D2Cブランドとしてのたゆまぬ成長の道を探っているのは、無論、タフト&ニードルに限った話ではない。最近、多くのD2Cブランドが成熟するなか、継続的成長のための新たな方法を見つける必要性が生じており、米DIGIDAYの姉妹サイト、モダン・リテール(Modern Retail)が報じたとおり、D2C販売戦略の枠に囚われない動きが求められている。

D2Cモデルの導入

タフト&ニードルの共同創設者2人が託されているのは、SSBの各ブランドへのD2Cモデルの導入だ。合併以来、マリノ氏はこれまで大型マットレスリテーラーだけに依存してきたSSBに対し、ダイレクトチャンネルの重要性と、顧客とのダイレクトラインが必要な理由を説きつづけている。ただ、説得は難航しており、同社にそれを最優先事項にさせるには至っていない。まだ合併から日が浅く、そのため、この方針転換がどのような形となって現れるのかは不明だ。とはいえ、いずれにせよ、同社は新戦略がブランドの成長にどう寄与するのかに注目することになる。

「私の見る限り、これは大企業とD2Cブランドが協力あるいは合併することになったどのケースにも言えるのだが、複数のチャンネルを比較する際、大企業の頭には基本的に、自社の損益しかない。このチャンネルの運営コストは? これで儲けはいくらになるのか?」と、マリノ氏は指摘する。「しかし、ダイレクトチャンネルには、それは通用しない。ほかのチャンネルの需要を増やすために利用するものだからだ」。

マリノ氏は、ダイレクトチャンネルを顧客または潜在的顧客にブランドについて知ってもらう場と考えている。デジタル広告でターゲットにした人々に、まずは、どんなブランドで、どんな製品を扱っているのかを理解してもらう。それができれば、たとえ最初のデジタル広告が直接販売に結びつかなくても、その広告がのちに顧客を実店舗に足を運ばせ、購入に至らせる可能性は低くないという。「ダイレクトチャンネルは、たとえ小規模でも、構わない。ほかのチャンネルの自社商品や自社ブランドに対する需要を確実に高めてくれるからだ」と、マリノ氏は言う。

貴重なケーススタディ

セルタやシモンズ、ビューティレスト(Beautyrest)といったSSBブランドのダイレクトチャンネルを構築するに際し、マリノ氏とパーク氏はまず、それらブランドが有する多種多様な商品をすべて把握し、既存のコンシューマーエクスペリエンスを理解するところからはじめた。そのうえで、同社は現在、全製品ラインの刷新および強化を図っており、より優れたD2Cコンシューマーエクスペリエンスが実現できるはずだと、マリノ氏は言う。

「成功すれば、これはディスラプト(創造的破壊)を受けている大企業がするべきことを、そしてそうしたディスラプター(創造的破壊者)を受け入れる術を明確に示すケーススタディになる」と、マリノ氏。「つまり、『ふむ、もしもうちがディスラプターを連れて来て、鍵を託したとしたら、どうなるだろう?』というケースだ。これは大きなリスクであるし、実際、彼ら(SSB)はいわば大物を気取っていたが、我々は彼らを子細に調べ、どうしたら切り崩せるかを研究した。そしていま、我々は彼らの建て直しを完了した」。

Kristina Monllos(原文 / 訳:SI Japan)