7月終わりから始まる新学期を控えた夏休み明けシーズンは、例年店舗での購入が主流となっており、アメリカの小売業界にとって重要な時期だ。だが今年はそこに大きな変化が生じている。オンライン購入の増加やそもそも学校再開が不透明なためだ。不確定要素が多い「売り時」に、店舗主体だったリテーラーはどのように対応すべきなのか。
7月終わりから始まる新学期を控えた夏休み明けシーズンは、アメリカの小売業界にとって重要な時期だ。だが今年はそこに大きな変化が生じている。
まず、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い店舗ではなくオンラインで買い物をする客が増えることが考えられる。デロイト(Deloitte)が学校に通う子供を持つ父母1200人にアンケートを取ったところ、オンラインで買い物をすると答えた人は昨年の29%に対し今年は37%だった。一方、店舗で買い物をするとの回答は昨年が56%、今年は43%にとどまっている。さらに学校側が決める校内での授業再開時期についてもあと1〜2カ月は決まらない可能性があるのだ。
その結果、リテーラーは今年の夏休み明けシーズンの販売戦略にいくつかの変更を加えている。今年は手指消毒剤やマスク、パソコン、勉強机などの需要が例年よりかなり多くなることが見込まれるが、それも校内での授業が行われるかどうかによって変わる。オンラインでの買い物が増えれば、マーケティング戦略の見直しが必要だ。単に個々の商品の販売価格だけでなく、オンラインでいかにたくさん買い物をしてもらうかに焦点を当てる必要がある。
Advertisement
例年、同シーズンの売上は非常に多く、リテーラーにとってはコロナ禍以前の販売水準に回復できるかがかかっている。全米小売業協会(The National Retail Federation:NRF)が小学校から高校に通う子供を持つ家庭を対象に昨年行ったアンケートによれば、新学期に関連した購入額は平均696.7ドル(約7万4500円)となっている。このシーズンの特徴は、今でも店舗での買い物が主流となっている点だった。だがそれも新型コロナウイルスによって変わりつつある。
未知の要素
ウォルマート(Walmart)やコールズ(Kohl’s)などの大手リテーラーでは、すでにウェブサイト上で新学期に向けた商品の宣伝をおこなうなかで、標準的なオンライン配送はもちろん、オンラインで注文した商品を駐車場で受け取るカーブサイドピックアップや店頭での非接触型決済といったさまざまなオプションを提供している。また、今年は特に需要増が見込まれる商品もある。冒頭のデロイトのアンケートによれば、デジタル製品の買い物予定額は316ドル(約3万3800円)で、これは昨年より4%多い。
カンター・コンサルティング(Kantar Consulting)でエグゼクティブバイスプレジデントを務めるリード・グリーンバーグ氏は「小売企業にとって最大の課題は、2通りのシナリオに対処しなければならない点だ」と指摘する。ひとつ目のシナリオは通学しての授業が再開するケース、そしてふたつ目はこれまでのようにZoomなどのコミュニケーションツールを使った授業が継続されるケースだ。
これまで夏休み明けシーズンはターゲット(Target)やウォルマートといった大型店舗を持つリテーラーが非常に強かった。1回の買い物で服から文房具まで、新学期に必要なあらゆるものを購入できるためだ。だがJCペニー(JCPenney)やコールズといったデパート、オフィス・デポ(Office Depot)やステイプルズ(Staples)をはじめとする事務用品を取り扱う店にとっても大切な販売シーズンとなっている。前述のNRFのアンケートによれば、53%の家庭がいくつかの買い物をデパートで、32%が事務用品店で行うと回答している。なによりオンラインで買い物をするカスタマーが増えるということは、Amazonの人気が高まる可能性も考えられる。
オンライン販売の戦略は
新学期に向けてオンラインでの買い物が増えるにあたり、実店舗が主力のリテーラーでも、オンライン販売のマーケティングにより力を注ぐ必要がでてくる。小売専門のコンサルティング企業ハーバー・リテール(Harbor Retail)で小売戦略および分析担当バイスプレジデントを務めるディアン・キャンベル氏は、オンラインの買い物客と店舗の買い物客の購買行動は異なると指摘する。「オンラインの買い物は割引が非常に有効だ。価格を重視するカスタマーが多い。一番安いものを買おうとするのだ」と同氏は語る。「割引されている商品が売れる傾向にあるため、商品の利ざやは大幅に下がるだろう。同じ数を売るにしても、価格は下げざるを得ない」。
また実店舗のように来店した客がついでの買い物をすることも見込めない。ECサイト上で文房具を購入したついでにスニーカーや本も買っていくといったケースは稀だ。だが新学期シーズンに、オンライン販売で利ざやを改善する方法はある。
市場調査会社eマーケター(eMarketer)のECアナリスト、アンドリュー・リップスマン氏は「Chromebookの販売が好調になると思われる」と語る。校内での授業を再開しないところも多いと予想されるため、ノートパソコンの需要が増えるためだ。「リテーラーとしては、この高額な買い物が重要になるだろう」。この予想にもとづけば、電子機器を販売しているターゲットやウォルマート、ベスト・バイ(Best Buy)らにとって優位になる。またオンライン購入であっても、店舗での商品受け取りやカーブサイドピックアップを推進することで利ざやを改善することも可能だ。
また、今年の夏休み明けシーズンで難しいのは、親がいつ頃買い物を始めるかを見通しづらいという点だ。学校内での授業が再開するか分からない状況下で、例年のように7月終わりに買い物をはじめるかは不透明となっている。
リップスマン氏は次のように述べている。「(消費者にとって)買い物のことや新学期の準備よりも、学校がいつ頃再開するのかという懸念のほうが大きいのが現状だ」。
[原文:Once a reliable event, back-to-school shopping is about to dramatically change]
Anna Hensel(翻訳:SI Japan、編集:分島 翔平)