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- Z世代が労働市場で注目される中、ベビーブーマーへの関心は薄れつつある。しかし、ベビーブーマーは労働市場に長く留まると予測され、彼らのニーズを無視できない。
- ベテラン世代の社員が家族との時間を大切にし、親の介護をできるよう柔軟な勤務体系を導入したり、孫と過ごす時間を提供するための「グランドペアレント休暇」を導入し始めている企業も。
- ベテラン社員は定着率が高く、若手社員へのメンタリングや顧客との関係構築においても重要な役割を果たすと識者は指摘している。
Z世代。この最も若い世代の労働市場参入が、あちこちで話題に上るようになってから久しい。こうした過剰なまでの注目が彼らに集まっているということは、裏を返せば、ベテランへの関心が薄れているということでもある。
しかし、もしベビーブーマー世代の従業員をぞんざいに扱っているとしたら、その企業は痛い目に遭うことになるかもしれない。なにしろ、現在57~75歳の彼らベビーブーマー世代は、かつてのどの世代よりも長く労働市場にいることが見込まれており、リーダーが彼らのニーズをなおざりにしないことが非常に重要になる。マネジメントコンサルタント企業のベイン&カンパニー(Bain & Company)が発表した世界の労働市場に関する最新調査の結果によれば、2030年までに1億5000万もの雇用が55歳超の労働者に移行する見込みだという。2031年までに彼らベテラン労働者が労働人口の4分の1以上を占めることになると、同社は予測している。
しかも、これは世界的な現象だ。たとえば日本では、労働者のおよそ40%が55歳超となっている。ヨーロッパと米国の状況も似たようなもので、その割合は25~30%だ。この現象を生んでいる理由のひとつは、定年退職者が復職する「アンリタイアメント」という傾向であり、さらにはそこに、全般的な退職年齢の引き上げも加わっている。
テラス・ヘルス(TELUS Health)でリサーチおよびトータルウェルビーイング部門のグローバルリーダー兼シニアバイスプレジデントを務めるポーラ・アレン氏は、こう語る。「65歳で定年退職するのが当たり前だった時代といまを比べてみよう。65歳での定年退職が誰の頭にも刻み込まれていたころは、平均寿命はいまよりもずっと短かった。いまの労働者のほとんどは、80代後半から90代まで生きるのが普通といっていいだろう」。
AARPが世界各地の企業を対象に行った調査によると、高齢労働者を職場に溶け込ませたり、あらゆる世代の労働力を支援したりといったプログラムに力を入れている企業の割合は、わずか4%だという。だからこそ、いまこそリーダーはそこからステップアップして、高齢労働者のニーズを新たな視点から考えるべきなのだ。たとえば、孫と過ごすための休暇を追加で取れるようにする、最新テクノロジーを学ぶためのプログラムを用意する、といったことが挙げられる。
医療補助の拡充
高齢労働者のなかには、聴覚などの身体機能の変化を自覚している人もいる。企業にまずできるのは、こうした高齢労働者に完全特化した医療補助を用意することだ。
世界保健機関(WHO)は、生活に支障をきたすレベルの聴覚障害に苦しんでいる成人の数を4億3000万人としている。イアジム(eargym)の共同創業者、アマンダ・フィルポット氏によれば、それが軽度の聴覚障害を抱えている人になると、その数は世界に10億人以上いるという。イアジムは同名の聴覚訓練アプリを企業各社の医療補助の一環として提供している。「これまでの建設業や運送業などの現場だけでなく、オフィスも聴覚障害の原因になり得る。オフィスがあまりにうるさいと、従業員はヘッドホンを着けて騒音を打ち消している。騒々しい職場がどのようなものなのか、その現状を我々はもっとよく知る必要がある」と、同氏は語る。
年を取るにしたがって、病院に行く回数が増える社員もいる。こうしたことを踏まえて、会社はさまざまな医療サービスを用意しなければならない。わかりやすい例が、更年期を迎えている社員向けの医療補助である。これについては、サービスがまったくといっていいほど行き届いていない。
不妊治療と家族形成のためのサービスを世界各地で提供するキャロット・ファーティリティ(Carrot Fertility)が行った調査によると、閉経周辺期と更年期を迎えた米労働者1000人のうちの大半(79%)が、その症状のせいで仕事を行うのが困難になったと報告している。そのつらさは、新しい仕事に就く、子どもをつくるといった、その他の一般的なライフステージのそれを上回っているという[続きを読む]
- Z世代が労働市場で注目される中、ベビーブーマーへの関心は薄れつつある。しかし、ベビーブーマーは労働市場に長く留まると予測され、彼らのニーズを無視できない。
- ベテラン世代の社員が家族との時間を大切にし、親の介護をできるよう柔軟な勤務体系を導入したり、孫と過ごす時間を提供するための「グランドペアレント休暇」を導入し始めている企業も。
- ベテラン社員は定着率が高く、若手社員へのメンタリングや顧客との関係構築においても重要な役割を果たすと識者は指摘している。
Z世代。この最も若い世代の労働市場参入が、あちこちで話題に上るようになってから久しい。こうした過剰なまでの注目が彼らに集まっているということは、裏を返せば、ベテランへの関心が薄れているということでもある。
しかし、もしベビーブーマー世代の従業員をぞんざいに扱っているとしたら、その企業は痛い目に遭うことになるかもしれない。なにしろ、現在57~75歳の彼らベビーブーマー世代は、かつてのどの世代よりも長く労働市場にいることが見込まれており、リーダーが彼らのニーズをなおざりにしないことが非常に重要になる。マネジメントコンサルタント企業のベイン&カンパニー(Bain & Company)が発表した世界の労働市場に関する最新調査の結果によれば、2030年までに1億5000万もの雇用が55歳超の労働者に移行する見込みだという。2031年までに彼らベテラン労働者が労働人口の4分の1以上を占めることになると、同社は予測している。
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しかも、これは世界的な現象だ。たとえば日本では、労働者のおよそ40%が55歳超となっている。ヨーロッパと米国の状況も似たようなもので、その割合は25~30%だ。この現象を生んでいる理由のひとつは、定年退職者が復職する「アンリタイアメント」という傾向であり、さらにはそこに、全般的な退職年齢の引き上げも加わっている。
テラス・ヘルス(TELUS Health)でリサーチおよびトータルウェルビーイング部門のグローバルリーダー兼シニアバイスプレジデントを務めるポーラ・アレン氏は、こう語る。「65歳で定年退職するのが当たり前だった時代といまを比べてみよう。65歳での定年退職が誰の頭にも刻み込まれていたころは、平均寿命はいまよりもずっと短かった。いまの労働者のほとんどは、80代後半から90代まで生きるのが普通といっていいだろう」。
AARPが世界各地の企業を対象に行った調査によると、高齢労働者を職場に溶け込ませたり、あらゆる世代の労働力を支援したりといったプログラムに力を入れている企業の割合は、わずか4%だという。だからこそ、いまこそリーダーはそこからステップアップして、高齢労働者のニーズを新たな視点から考えるべきなのだ。たとえば、孫と過ごすための休暇を追加で取れるようにする、最新テクノロジーを学ぶためのプログラムを用意する、といったことが挙げられる。
医療補助の拡充
高齢労働者のなかには、聴覚などの身体機能の変化を自覚している人もいる。企業にまずできるのは、こうした高齢労働者に完全特化した医療補助を用意することだ。
世界保健機関(WHO)は、生活に支障をきたすレベルの聴覚障害に苦しんでいる成人の数を4億3000万人としている。イアジム(eargym)の共同創業者、アマンダ・フィルポット氏によれば、それが軽度の聴覚障害を抱えている人になると、その数は世界に10億人以上いるという。イアジムは同名の聴覚訓練アプリを企業各社の医療補助の一環として提供している。「これまでの建設業や運送業などの現場だけでなく、オフィスも聴覚障害の原因になり得る。オフィスがあまりにうるさいと、従業員はヘッドホンを着けて騒音を打ち消している。騒々しい職場がどのようなものなのか、その現状を我々はもっとよく知る必要がある」と、同氏は語る。
年を取るにしたがって、病院に行く回数が増える社員もいる。こうしたことを踏まえて、会社はさまざまな医療サービスを用意しなければならない。わかりやすい例が、更年期を迎えている社員向けの医療補助である。これについては、サービスがまったくといっていいほど行き届いていない。
不妊治療と家族形成のためのサービスを世界各地で提供するキャロット・ファーティリティ(Carrot Fertility)が行った調査によると、閉経周辺期と更年期を迎えた米労働者1000人のうちの大半(79%)が、その症状のせいで仕事を行うのが困難になったと報告している。そのつらさは、新しい仕事に就く、子どもをつくるといった、その他の一般的なライフステージのそれを上回っているという。
可能なら、こうした追加の医療補助を、休みを取って病院に行きやすくする柔軟なスケジュールと組み合わせてもいい。
アブセンスソフト(AbsenceSoft)で休暇コンプライアンス部門のバイスプレジデントを務めるアシュリー・ブレナン氏は、「人間の身体は、年を取ると、前と同じようには機能しなくなる」と語る。「骨は折れやすくなるし、健康への不安も絶えなくなる。こうしたことが重なってくると、職場にも影響が出てくる。たとえ糖尿病を20~30年間管理できたとしても、年を取るにしたがって、それがだんだん難しくなってくる。それが仕事の邪魔をするようになってくるのだ」。
また、体の健康を維持できている人も、目標達成のサポートを得るために、栄養プラン付きのジムの会員になることを検討すべきだろう。
柔軟なワークスケジュール
世代に関係なく、柔軟なスケジュールで働けるということは、非常に重要だ。何十年ものキャリアを積んできた社員のなかには、すでに孫がいる、あるいはもうすぐ孫ができる人もいるかもしれない。引退して暇ができ、孫の世話に勤しむシニア世代。そんな昔ながらのイメージは、もはや当たり前ではなくなっている。
柔軟なワークスケジュールが組めれば、シニア世代の社員も孫と過ごす時間を増やし、子育てを手伝えるようになる。そのための制度をすでに導入しつつある企業もあり、「グランドペアレント(祖父母)休暇」と称する、孫と過ごすための特別な年次有給休暇を取得できるようにしている。
また、彼らのなかには、自身の年老いた親を介護している人もいる。「介護休暇を取って、自分の母親を透析などに連れて行かなければならない人もいる。自身が年老いつつあるなかで、いまも親の世話をしているのだ」と、ブレナン氏は語る。
こうした方針は関係者全員にメリットがある。「柔軟なスケジュールやテレワークといったことは、30代の社員も同じように求めている」と、アレン氏は語る。「ワークライフバランスを重視する、柔軟性に富んだ職場というアイデアが実現すれば、社員はサバティカル(長期休暇)を取れるようになる。全従業員に関係しているのは、むしろこちらだ」。
固定観念の打破
女性社員や若手社員、多様性に富んだ人材が欠けていると、その会社のコーポレートイメージもその影響を受けかねない。ベテラン社員が欠けている場合も、それは同じだ。はたしてそうなのかは、どの企業のサイトのチームページを見ても一目瞭然だ。「そこで誰が働いているのかの写真を載せると、そこに何が写っているのか、それが何を反映しているのかが浮き彫りになる」と、アレン氏は語る。「その写真から、その会社の企業文化には何があって、何がないのかというメッセージが伝わる。そこに白髪混じりの頭をした人がいなければ、それがひとつのメッセージを投げかけるのだ」。
小さなことだが、会社がこの世代のことをどう思っているのかが、これによって見事に伝わる。
それだけではない。それが意図的であるかどうかにかかわらず、年齢差別が就職面接の場の空気を支配することもある。面接官は、相手の年齢を推測しないようにして、その仕事に最も適した人材を逃さないように細心の注意を払いながら、相手に質問しているか? もしそこにインクルージョン(包摂性)が欠けているなら、その面接官と差別主義者は紙一重だ。
最大級といっていい固定観念のひとつは、「シニア世代はテクノロジーの進化に追いつけない」と考え方だ。この固定観念は有害であり、それにより、シニア世代は最新テクノロジーについての会話の輪に自動的に入れなくなってしまうからだ。
アメリカン・パブリック・ユニバーシティ・システム(American Public University System)のウォレス・E・ボストン・スクール・オブ・ビジネス(Wallace E. Boston School of Business)で准教授を務めるリンダ・アシャー氏は次のように述べている。「他者よりも明らかに年配の社員が研修を受けさせてもらえなかったケースが過去にあった。その社員は研修を受けたがらないだろう、嫌がるだろう、最新技術など習得できないだろうという思い込みが、会社の側にあったからだ。その社員は成功のチャンスを与えられなかったわけだが、こうしたことはいまも十分に起こり得る」。
ベテラン社員を雇うことのメリット
ベテラン社員を雇用することのメリットは数多くある。たとえば、定着率の高さだ。ベテラン社員は一般に長期の雇用を求めるので、彼らを雇えば離職率が下がる。これによって会社は、離職にともなってかかる採用や研修などの経費を抑えることができる。またベテラン社員は、知見や専門知識を若手に伝授するメンターやリーダーの役目も果たしてくれる。
「誰か新しい人を連れてくる必要があるなら、両者をいっしょに働かせるのだ」と、アシャー氏は語る。「ポイントは、自らが押し出されるといった考えをベテラン社員に抱かせずに、後任に仕事を教えることで、両者をともに働く気にさせることだ」。
またベテラン社員は、クライアントや顧客との関係をすでに築いていることが多く、取引先の維持や拡大に欠かせない存在にもなってくれる。「その人のなかに何らかの一様性があるなら、やがてはマンネリに陥ってしまう。その点、ベテラン社員なら、長年をかけて培ってきた経験や視点をそこにもたらしてくれる」と、アレン氏は語る。
社員構成が、年齢や背景、視点を異にする多様性に富めば、ビジネス上の課題に直面しても、独創的で包括的なソリューションを見つけられる。そしてこれが、ひいては会社の収支を改善してくれる。
だからこそ、老犬に新しい芸を教えても無駄、ベテランは退職のことしか考えていないといった固定観念は捨てるべきだとアシャー氏は言うのだ。
「55歳を過ぎたからといって、何が変わるというのか?」と、アシャー氏は語る。「持っている知識は減っていない。受けた教育も不変のものだ。なのに、家へ帰ってポーチで座っていろと言われるのだ。そうしたい人など、ほとんどいない。退職という言葉は、それを望んでいる人の耳には心地いい。しかし、ベテランの多くは何かを生み出すこと、貢献することをいまも望んでいる。それが彼らの生きがいなのだ」
[原文:Why it’s time to focus on the oldest generation of workers]
Cloey Callahan(翻訳:ガリレオ、編集:分島翔平)