2月10日からスタートしたニューヨーク・ファッションウィークだが、開始早々イベントやパーティ、ハイファッションの世界のニュースで盛りだくさんである。アレキサンダー・ワン氏は、大きなカムバックを果たし、パンデミック前のファッションウィークのように盛り上がりを見せた。
この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、ビューティ、ファッション業界の未来を探るメディア「Glossy」の記事です。
よくも悪くも逆行するファッションウィーク
2月10日から正式にスタートするニューヨーク・ファッションウィーク(NYFW)だが、開始早々イベントやパーティ、ハイファッションの世界のニュースで盛りだくさんである。アレキサンダー・ワン氏は、温かい歓迎なのか冷たい反感なのかは意見を聞いた人によって異なるものの、いずれにせよ大きなカムバックを果たした。ラジャンス(L’Agence)やクリスチャン・シリアノ(Christian Siriano)といったブランドはオフカレンダー・ショーを開催、ヴィクター&ロルフ(Viktor & Rolf)はブランドの新しい顔となるモデルのエミリー・ラタコウスキー氏を祝うために、2月9日にアフターパーティを開いている。また、ランウェイの外では、バレンシアガ(Balenciaga)のデムナ氏が昨年の同ブランドの大スキャンダル以来初めてインタビューに応じ、挑発的なことは控めにして、服にさらに注力すると約束した。
公式カレンダーは、例年通り初日はケイトスペード(Kate Spade)で幕を開け、ロダルテ(Rodarte)、ジョナサンシンカイ(Jonathan Simkhai)、プラバルグルン(Prabal Gurung)、コリーナストラーダ(Collina Strada)などのブランドとともに、いつものように活況を呈している。9月のNYFWと同様に、パンデミック前のファッションウィークという感じだった。
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ランウェイでの体型の多様性が減少している
だが、昔への回帰がすべてよいこととは限らない。ディア&コウ(Dia & Co)のCEOであるナディア・ブジャルワ氏は、ランウェイでのサイズの多様性が少なくなってきていると述べており、これは近年、デザイナーが棒のように痩せているモデル以外も採用するという考えを受け入れてきたことからは退行している。
「ブランドは(多様性に)こだわるのか、それともそれはもう終わりだと判断したのか、そこに興味がある」とブジャルワ氏は言った。「いくつかのショーは2023年ではなく、1993年のような感じだった」。
2月8日のアレキサンダー・ワンのショーは確かにそうだった。そのショーのキャスティングは、肌の色や民族性ではみごとに多様化されていたが、そこに展示されていた体型はただひとつだった。すなわち、ファッションが何十年も愛してきた、長身で痩せているクラシックなモデルである。
ブジャルワ氏は、ディアのプラットフォームでベルギーの有名デザイナー、ダイアン・フォン・ファステンバーグ氏が拡張サイズの販売を始めると発表するために、ニューヨークを訪れていた。若くてヒップなアレキサンダー・ワン氏が過去のファッションの均質なサイズのイメージを再現し、70年代からデザインを手がけているファッションのベテラン、ダイアン・フォン・ファステンバーグ氏が未来に目を向けているというのは皮肉な展開である。
フォン・ファステンバーグ氏自身は、つねに自分のブランドの将来を考えていると語っている。業界の大規模なディスラプションが進行している今こそ、過去に目を向けるのではなく、何か新しいことに挑戦する絶好の機会だと感じているという。
「2019年以降、私たちは皆、ちょっとしたリセットをした」とフォン・ファステンバーグ氏は述べた。「Covidのあいだ、多くのことが変化した。私たちの会社は、以前よりもかなり小さくなった。そして、ブランドのレガシーがいかに重要かを実感した」。
トレンドに乗りつつも、トレンディにはならない
パリを意識したカリフォルニアのブランド、ラジャンスはバワリーホテル(the Bowery Hotel)でショーを開催、満員となった上階のバーで賑やかなイベントを主催した。ニッキー・ヒルトン氏やシャニーナ・シェイク氏といった、90年代のロックにインスパイアされた同ブランドの服のモデルを見るために、人々が密集していた。
もっと静かな屋外のエリアで、ラジャンスのCEOでクリエイティブディレクターのジェフ・ルーデス氏に話を聞くことができた。トレンドに反応することとトレンドを作り出そうとすることの絶妙なバランスについて伺うと、ルーデス氏は、自分のブランドはトレンドに乗っているが、トレンディではない、微妙だが重要な違いでありたいと語った。前者は、世の中で起きていることや人気があるものに敏感で、意図的にそれに反応したりしなかったりすることを意味するが、後者は、ファストファッションのように、すでに存在しているものをただ再現するだけのブランドを意味している。
「ランウェイで何かを目にして、カットや色などが気に入ったとしても、ただそれを再現することはできない」とルーデス氏は言う。「顧客のことを考え、顧客に何が似合うのかを考えなくてはならない。たとえば、スパゲティ・ストラップのドレスを作るにしても、丈を変えてふくらはぎの真ん中にくるようにするとか。我々の顧客に合うように、世の中で目にしているものを解釈し直さなくてはならない」。
ルーデス氏は、何が流行っているのかを把握するために、東京やロンドンなどのストリートファッションをよく観察していると述べ、今シーズンのショーで再解釈したものとして、東京のファッションストリートでよく見られる極端なワイドパンツを例に挙げた。同ブランドはソウルに近々オフィスを開設する準備をしているため、アジアは引き続きインスピレーションの源となるだろう。ソウルから、既存の香港でのビジネスに加え、韓国、中国、日本でのより強力なオーディエンスの構築を始める予定だ。
ブランドの伝統を守りつつ最新であること
ラジャンスのファッションディレクター、タラ・ルーデス=ダン氏は、何が売れているか、どのカテゴリーが伸びているかなど、つねにデータを見ていると話す。だが、実際にデザインするときには、チームが長年かけて磨いてきたデザインセンスにくらべて、そうした数字はあまり重要な意味を持たなくなる。
「つねにインスピレーションから始まる」と、ルーデス=ダン氏は述べた。
ブランドのルーツや伝統を守ることと、最新であることのバランスについては、ホイットニー美術館(Whitney Museum)で開催されたケイトスペードのショーで、同ブランドのCEOリズ・フレイザー氏も同様の指摘をしている。ケイトスペードのショーでは、サムアイコン(Sam Icon)バッグの新バージョンや、パントーン(Pantone)とともに開発した新しいシグネチャーカラー、ケイトスペードグリーンなど、ブランドを象徴するアイテムをいくつかリフレッシュしたものがデビューした。
「私たちのように豊かな伝統があると、そのDNAに忠実でありながら、さらに前進したいと思うのが非常に難しい」とフレイザー氏は言う。「今回のコレクションは、明らかにケイトでありながら、非常に先見性のあるものになっている」。
[原文:NYFW Briefing: Fall 2023 marks a return to form]
DANNY PARISI(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)