今シーズンのニューヨーク・ファッションウィーク(New York Fashion Week)は完全に現実世界に戻ってきたが、だからといってソーシャルプラットフォームでのバーチャルな取り組みをやめたわけではない。インスタグラム、TikTok、その他のソーシャルプラットフォームで、ブランドは何をしたのか?
この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、ビューティ、ファッション業界の未来を探るメディア「Glossy」の記事です。
バーチャルなNYFW:インスタグラム、TikTok、その他のソーシャルプラットフォームで、ブランドは何をしたか?
今シーズンのニューヨーク・ファッションウィーク(New York Fashion Week)は完全に現実世界に戻ってきたが、だからといってソーシャルプラットフォームでのバーチャルな取り組みをやめたわけではない。
パンデミックだった過去2年間のシーズンはバーチャルショーがメインだったが、今年の同イベントの公式カレンダーでの「バーチャル」セクションは、デザイナーが活動を再開したため、ごくひと握りのブランドに縮小された。しかしブランドは依然としてインスタグラム、TikTok、YouTubeでのライブストリーミングを使用しており、またSnapchat(スナップチャット)やTikTokなどのプラットフォームではARフィルターも活用している。
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ブランドに普及していたのは、ファッションショーのソーシャルメディアでのライブストリーミングで、ショーのストリーミングでトップに選ばれていたのはインスタグラムだった。インスタグラムでショーのライブ配信をしていたブランドには、ジョナサン・シンカイ(Jonathan Simkhai)、ミッドナイトスタジオ(Midnight Studios)、ラブシャックファンシー(Loveshackfancy)、トミーヒルフィガー(Tommy Hilfiger)、マルニ(Marni)、コーチ(Coach)などがある。またバーチャルで「参加した」VIPもいた。たとえば、コーチのライブストリームのオーディエンスには、エラ・エムホフ氏のインスタグラムアカウントが目撃されている。
幅広いオーディエンスにリーチする上で重要なライブストリーミング
9月14日に初めてNYFWのショーをインスタグラムでライブ配信したパンクのストリートウェアブランド、ミッドナイトスタジオにとって、インスタグラムでのライブストリーミングは「本当に重要」だったと、ブランドアーキテクトのルイス・カノ氏は言う。同ブランドが1月にロサンゼルスで行ったショーでは、アカウントのメインバイオにあるボタンで予定されているショーを宣伝するために、インスタグラムのベータ機能を活用した。現在ブランドがライブストリームの宣伝を行う場合は、ストーリーズのスケジュールのカウントダウン・ボタンを介してのみ可能となっている。
ライブ配信を2カ所で行ったブランドもあった。ティビ(Tibi)はインスタグラムのライブストリームとYouTubeでのライブショーを同時に行い、コーチはインスタグラムとTikTokの両方で配信することを選択している。
トミーヒルフィガーのハイテクなRoblox(ロブロックス)とライブストリームのショッピング体験を除けば、「いま見て、いま買う」はほとんどなかった。だがオーディエンスの注目を活かし、秋冬コレクションにリンクしたショッパブルなライブ配信を行ったブランドもある。コリーナストラーダ(Collina Strada)とアルチュザラ(Altuzarra)の両ブランドは、ストリーム上にショッピングリンクを設置しており、視聴者がクリックするとアプリから購入できるようになっていた。
対面式のイベントに戻ったとはいえ、より幅広いオーディエンスにリーチする上ではライブ配信も重要だ。「マーケティング予算の大半は、こうしたショーやコレクションの発表に費やされている」とカノ氏は言う。ライブストリーミングは「非常に重要だ。なぜなら世界中のファン層にショーに参加しているような気分になってもらい、その場にいるような感覚を味わってもらいたいからだ」。ロサンゼルスであれば、数百人が参加する消費者向けの大規模なパーティでコレクションを発表しただろうが、NYFWのショーはより「ビジネス向け」なので、より幅広いオーディエンスにリーチするにはソーシャルメディアがさらに重要になる。
TikTokは、ファッション月間キャンペーンの #FashionForYou の一環として、数々のライブ番組を目玉にしていた。NYFWのバイラルセンセーションであるジュリア・フォックス氏によるファッションウィークのGRWM動画(外出の身支度を紹介する動画)のライブストリーミングといったイベントが紹介された。
ブランドはNYFWのためにARフィルターにも頼っていた。TikTokのファッション月間ハイライトの一環として、フェンティビューティ(Fenty Beauty)はTikTokのフィルタークリエイターであるグレース・チョイ氏と組み、顔の形に基づいたブランドの輪郭ガイドフィルターを制作。これは、ニューヨークで開催されたNYFWのアクティベーションと同時期に行わている。一方、アロ・ヨガ(Alo Yoga)は、NYFWの現実のイベントにあわせて、ユーザーが新たなスキーコレクションのジャケットをバーチャルで試着できるARのSnapchatフィルターを提供している。— Liz Flora
NYFWの最前線のインクルーシビティ
今シーズン、NYFWが華々しく帰ってきた。2023年春コレクションを発表するために、3つのインターナショナルブランドを含む100人以上のデザイナーが5日間にわたるイベントに参加した。
今回のファッションウィークでは、トミーヒルフィガー、エリア(Area)、プーマ(Puma)が待望のカムバックを果たした。さらに、黒人が所有する28のブランドもフィーチャーされた。これは、NYFWのカレンダーをプロデュースしているアメリカ・ファッションデザイナー協議会(Council of Fashion Designers of America、CFDA)が1962年に設立されて以来、最多となっている。
今シーズンのこの歴史的な数の黒人デザイナーの参加は、2年がかりで実現したものだ。2020年6月、米国における制度的な不公正への直接的な対応として、CFDAはファッションにおける多様性を高めるための取り組みの概要を発表した。それから2年後、同団体はその言葉を忠実に守っている。
「公式(NYFW)カレンダーは、ほぼ30%の有色人種と20%以上の黒人デザイナーを表明している」と、CFDAのプレジデントであるカサンドラ・ディグス氏は「アンドスケープ(Andscape)」のインタビューで語っている。「CFDAは非常に多大な努力をしているため、この発展を認識することは本当に大切なことだ」。
手が届かない成功の機会
この記念すべきマイルストーンを達成するために、CFDAは15パーセントプレッジ(15 Percent Pledge)やブラック・イン・ファッションカウンシル(Black in Fashion Council、BIFC)といった組織と協力して、黒人の才能あるデザイナーを惹きつけるだけでなく、そうした人々がコレクションを紹介するための機会と場も創出した。今年強調されたデザイナーグループの中には、CFDAの2021年のアメリカの最優秀若手デザイナーに選ばれたシオフィリロ(Theophilio)や、CFDA/ヴォーグファッションファンドのファイナリストであるフィ・ノエル(Fe Noel)とブラックボーイニッツ(BlackBoyKnits)など、ランウェイのベテランと新人デザイナーが含まれている。また、BIFCは5シーズン目に戻ってきたショールームも主催し、アジョヴァン(Ajovang)、アトリエインディゴ(Atelier Indigo)、ハービソン(Harbison)、イザイラ(Izayla)、ジェシカリッチ(Jessica Rich)、クワメアドゥセイ(Kwame Adusei)、マダムアダッサ(Madame Adassa)、ミューレダー(Muehleder)、サミーB(Sammy B)、ヴァヴォーン(Vavvoune)など8人の新人デザイナーを紹介した。
「信じられないほど一生懸命働いていて、自分がやっていることを愛していて、非常に思いやりのあるほかの(黒人の)クリエイティブのまわりにいると、私自身も刺激を受ける」と話すのは、シカゴを拠点とするウィメンズウェアブランド、アジョヴァンの創業者でデザイナーのエイドリアン・グイロリー氏だ。「(黒人のデザイナーとして)頑張っているのは自分ひとりではないんだとわかると、本当に気持ちが楽になる。そして自分の作品を多くの人と共有することができて、普段は行えないような露出ができる」。
BIFCのショールームが提供した機会は、多くのデザイナーにとってコラボレーション、露出、コミュニティへのチャネルを開く助けとなる。それらは貴重だがめったに手の届かない、成功するためのツールだと、一部の黒人デザイナーたちは述べている。— Tatiana Pile
ナイトリュクスのNYFW
キラキラしたスタイルが戻ってきたという証が必要なら、閉幕したニューヨーク・ファッションウィークのランウェイに注目するしかない。
いまなお人気の快楽主義的な「ナイトリュクス」の美学に沿って、光り輝くシルバーやラインストーン、スパンコールがランウェイのいたるところで見られた。カラーやゴールドも登場していたが、ファッションでは明らかにシルバーのトレンドが全開だ。
メットガラのテーマに「金色に飾られた時代(Gilded Age)」を選んだヴォーグは、リル・ナズ・X氏、セリーナ・ウィリアムズ氏、ジジ・ハディッド氏とベラ・ハディッド氏、エミリー・ラタコウスキー氏やほかのトップモデルたちにシルバーやきらめく輝きをまとわせて、ヴォーグワールドのショーのランウェイに送り込んだ。9月12日の夜にミートパッキング・ディストリクトで行われたそのショーの報道の一環として、同誌は「この秋はメタリックが流行る」と宣言、ゴールドよりもシルバーにかなりの重点を置き、光り輝くあらゆるものに賛辞を送っている。
ランウェイに登場したルックは、2000年代初頭、ポストY2Kのラインストーンをちりばめたスタイルを彷彿とさせた。パリス・ヒルトン氏のパーティガールのラインストーンを多用したファッションを指して、一部の専門家が「マクブリング」時代と呼んだこの時期は、9.11後にファッションが快楽主義に転じた時代だといわれている。9.11から21年目を迎える2日前、フェンディ(Fendi)は「バゲット」バッグの25周年を祝うランウェイショーで特にこのトレンドに傾倒し、コレクションにラインストーンやスパンコール、シルバーのバッグやスカート、ジャケットなどを取り入れ、2000年代初期のトレンド全盛期を蘇らせた。
またディスコ時代を連想させるこのトレンドを表現したそのほかの例としては、クリスチャン・コーワン(Christian Cowan)のシルバースパンコールのガウン、ジョナサン・シンカイ(Jonathan Simkhai)のラインストーンとスパンコールの3パターンのワンピース、ブランドン・マクスウェル(Brandon Maxwell)のシルバーフラワーのスカート、ドレス、ワンピース、エリアのラインストーンのボウタイビキニ、エコーズラッタ(Eckhaus Latta)のシルバーニットトップなどがあった。— Liz Flora
Glossyポップ:バギーパンツ、ツーピースのセットが独り勝ち
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世界中のファッションウィークで発表されるコレクションは、次のシーズンに期待されるトレンドを決定づけるかもしれないが、消費者がいま夢中になっているものを真に描いているのは、ショーの合間にとらえられたストリートスタイルだ。
9月初旬のコペンハーゲン・ファッションウィーク(Copenhagen Fashion Week)では、出席したゲストが着用していた流行のルックは、遊び心のある明るい色、ニット、重ね着だった。また、Y2Kの美学やかっちりとしたスーツも多く見られた。
しかし今回のニューヨークのストリートスタイルはやや異なるアプローチで、インフルエンサーやセレブ、スタイリストたちの間では、オーバーサイズやグランジスタイルがもっとも多く見られている。特に、カーゴパンツとカットアウトのツーピースセットが、ファンの間で人気だったようだ。— Tatiana Pile
[原文:NYFW Briefing: Brands leverage social platforms including TikTok]
LIZ FLORA AND TATIANA PILE(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)