米国のブランドやメディアにとって、ホリデーシーズンはこの1年の出来を決める重要な時期となる。しかし、コロナ以降の不透明な状況で「いつも通りのクリスマス」を迎えるのは難しい状況であり、どのエージェンシーもクライアントへのアドバイスは同じ。「『もしも』に備えて予算から行動計画まで準備し、臨機応変に対応すること」だ。
一般的に、クリスマスに向けてマーケティングを開始する時期は年々早まっていると信じられている。だが、2020年は新型コロナウィルスによる混乱の影響でその手段も多様化しており、開始のタイミングがいつもとは違ったものになるのは間違いない。
これからの数週間、消費者の認知度を高めてeコマースで製品を販売するチャンスを増やすとともに、検索やSNSで見つけられやすくなる可能性を高めるため、小売業者のECサイト上の広告枠、つまりリテールメディアを通じて検討や行動を促すことへと支出が移行していくだろう。
実際、多くの広告主にとって2020年は「順番待ち」の列を飛び越え、早くキャンペーンを始める年になる。そうしたキャンペーンは、小売業者が実店舗で販売ができなくなったダメージを軽減する必要に迫られるなかで、いままで以上にオンライン販売を押し進めるものになりそうだ。
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メディアオーナーとしての小売業者
eコマースによるメディア支出の増加にともない、広告主たちは小売大手のウォルマート(Walmart)やクローガー(Kroger)をメディアオーナーとして注目するようになっている。近年、オンサイトメディアとオフサイトプレースメントの両方にわたって、リテールメディアネットワークや広告販売ビジネスが激増している。多くの広告主、特にユニリーバ(Unilever)のような一般消費財(CPG)カテゴリーの広告主はeコマースへの移行を加速させようと考えており、小売業者が主要パートナーに名乗りを上げている。
そうしたパートナーシップのなかには、ここ数週間のうちにスタートしそうなものもあるようだ。広告主がこうしたパートナーシップを追求する理由はいくつかある。リテールメディアは「購買時点(POP)」にもっとも近い。これらのメディアネットワークを利用することで正しいオーディエンスセグメントをターゲット化する能力を向上させ、場合によっては、ブランドが持つファーストパーティデータと小売業者の持つデータを接続することで、独自のオーディエンスセグメントを作り出す能力さえ与えるものとなる。
データマーケティング企業のマークル(Merkle)が2020年8月に米国の主要ブランドのマーケター100人を対象におこなった調査によると、CPGカテゴリーのマーケターのほとんど(85%)が、今後はリテールメディアネットワークからより多くの広告を購入するつもりだと回答した。半数以上(52%)は、2021年には取り組む回答している。
マークルの新規メディアならびにeリテール向けメディアソリューション担当シニアバイスプレジデントであるジャニーヌ・フラッカベント氏は次のように語る。「(ブランドから)リテールメディアに流れている資金の源はさまざまだ。従来の小売業者から、適切なオーディエンスや広告ソリューション、ブランドが求めるレポートを提供する小売業者にシフトしたことで増加した売上かもしれない」。eコマース用の予算がリテールメディアへと移動しているケースもある。
不測の事態への備えが重要
ほとんどのブランドやメディアの支出はいま、深刻なスケジュールの見直しと不測の事態に備えた計画を踏まえて実施されている。
Amazonがプライムデーを10月13日~14日に変更し、ウォルマートやターゲット(Target)、ベストバイ(Best Buy)のような小売業者が、通常は11月から始まる冬商戦のプロモーションをハロウィン前に開始すると決めたことで、買い物客がホリデーシーズン向けの買い物をする期間が例年より長くなった。言い方を変えると、いつもであればメディアでの存在感を維持するためのベストタイミングとして多くの広告主が選択する感謝祭(11月の第4木曜日)前後で、支出が大きく跳ね上がることはないということになる。
Pinterest(ピンタレスト)のグローバルセールス部門を率いるジョン・カプラン氏は、「通常なら、我々のチームのホリデーシーズンの計画は第2四半期が終わる前には固まっているが、今年は第3四半期末まで話し合いさえ始めなかった。何もかもが不確実だからだ。それなのに我々は、いままでにない早さでホリデーシーズンのキャンペーンをスタートさせたマーケターと話をしているのだ」と語る。
デジタルエージェンシーのスリーパイプ(Threepipe)では、幹部たちが10月中に四半期予算の4分の1を支出する計画を立てており、その大半は検索からソーシャル、リテールメディアといったオンラインメディアに費やされる。これらの予算のうち約10%は、潜在的な顧客を遠ざける、またはより多く呼び込むことができる予期せぬ出来事に備えて残しておく必要がある。
スリーパイプの共同創業者であるファーハド・クードルス氏は「人々の行動を左右する要因は、クリスマスのようなイベントが近づいてきたときなど、昔ながらの時間ベースで動くものではなくなりつつあるのかもしれない」と話す。「その代わりに、なんとしても収益を確保しなければいけないブランドやメディアが実行可能な新しいプランがあるかどうか、が動かすことになる」。
「もしもに備えて資金は取っておく」
エージェンシー、360iの幹部たちは予想される売上の流入を考慮して、四半期のメディア予算の40%を10月に投入するようクライアントにアドバイスしている。2019年に360iのクライアントは季節予算の約24%を10月に支出しており、昨年より16%多く広告に費やすことをクライアントに求めていることになる。
2020年の残りの期間に向けて、360iは広告主に、米国内で追加の経済刺激策が取られるなど、予定外の出来事のためにメディア予算の5~10%は残しておくよう助言している。そして予算の残りの50%は、広告主が年末商戦においてもっとも効果があると知っている戦術やプロモーションに費やすことになる。
「ホリデーシーズンにもっとも効果的なものが何かがわからないので、マーケターにとっていまは方針変更計画を考え、『もしも』と自問するときだ」と、360iの最高メディア責任者を務めるダグ・ローゼン氏はいう。「賢いマーケターは常に予期せぬ出来事に備えて資金を取っておくものだが、それは我々がクライアントとともに進めていることに対応する取り組みとは限らない」。
これからの数カ月、広告主はリスクは高いが見返りも大きいギャンブルにメディア予算を注ぎ込むことになる。米国を二分する大統領選挙から、主要市場におけるパンデミックの第2波到来についての懸念まで、動きの早い広告主は、すぐに呼び出すことができる緊急時対応計画を用意しておく必要があるだろう。
適応力がすべての切り札
ハバス・メディア(Havas Media)のコマース部門を率いるエグゼクティブバイスプレジデント、ジェス・リチャード氏は「2020年のホリデーシーズンに向けて何かをすすめるとすれば、さまざまなシナリオや組織を用意しておいて、データが導くことにしたがってチームが迅速に動けるようにしておけ、ということだ」と語る。ハバス・メディアでは10月後半に、広告主の方針転換を支援する新しい製品を発表する。つまり、2020年という年が広告主に何かを教えたとしたら、「適応力がすべての切り札になる」ということだろう。
マーケティングエージェンシー、ティヌイティ(Tinuiti)の幹部たちがクライアントに対して、予算の割り振りを事前に考え過ぎないよう提案する理由もここにある。その代わりに、予算を第4四半期全体でプールし、機会に目を凝らし、チャンスを捉えたなら適正レベルの支出を一気に使うという計画だ。つまり、早い段階で売上げの急増があった場合の準備をしつつ、昔ながらのホリデーシーズンへの備えも怠らないということになる。
「指揮官なら誰でも、『いかなる机上の作戦も、いったん敵と遭遇すると役に立たない』と知っている。我々のクライアントも我々も消費者と初めてコンタクトするときには、いかなるマーケティングプランも役に立たないと知っている」と、ティヌイティのチーフ・クライアント・オフィサーであるクレイグ・アトキンソン氏はいう。
「ゴールやエンゲージメントのルールを明確にすることが、いまの消費者との戦いに勝つ唯一の方法だ――主導権は彼らにある」。
[原文:‘Now is time to come up with pivot plans:’ e-commerce is driving media spending over the holidays]
SEB JOSEPH(翻訳:藤原聡美/ガリレオ、編集:分島 翔平)