D2C(Direct-to-Consumer)業界が「審判のとき」に直面しているいま、その戦略もまた変化のときを迎えている。ホームウェア系D2Cブランドのインキュベーションである、パターン(Pattern)の最高クリエイティブ責任者であるエメット・シャイン氏は、その変化について語ってくれた。
D2C(Direct-to-Consumer)業界が「審判のとき」に直面しているいま、その戦略もまた変化のときを迎えている。
パターン(Pattern)の最高クリエイティブ責任者であるエメット・シャイン氏は、スウィートグリーン(Sweetgreen)やハリーズ(Harry’s)といったブランドが、いまやすっかりおなじみとなったミレニアルフレンドリーなD2Cルックを確立するのに力を貸してきた人物だ。そしていま、同氏は一歩下がったところから、このモデルの見直しを図っている。初期のD2Cモデルがフォーカスしていたのは、類似するインスタグラムフレンドリーな美意識を共有する、共感できるブランドを確立することだった。エバーレーン(Everlane)のような企業は、それが信奉する価値観と、その小洒落たイメージで知られるようになった。そしていま、シャイン氏は自身が確立に尽力したこのモデルの見直しを図っているのだ。
いまパターン(その前身は、ブティックブランディングエージェンシーのジン・レーン[Gin Lane])がフォーカスしているのは、調理器具を販売するイコール・パーツ(Equal Parts)や、家の整理整頓に関するソリューションを提供するオープン・スペーシーズ(Open Spaces)といった、ホームウェア系D2Cブランドのインキュベーションだ。パターンがクリエイティブエージェンシーからスタートアップインキュベーターへと方針転換するのに合わせて、シャイン氏の肩書きもマーケターから創業者へと変わった。このことが意味するのは、ジン・レーンがブランド各社を育成するのに役立ったビジネス手法の見直しだと、シャイン氏は米DIGIDAYの兄弟サイト、モダンリテール(Modern Retail)に語った。だからといって、パターンが美しいデザインやスタイリッシュな写真を完全に捨て去るわけではない。だが、このアプローチをとることによって、こうしたいわゆる「ブランドバリュー」の役割に取り組む機会を得ることができる。
Advertisement
シャイン氏によれば、ついに到来した崩壊の原因になっているのは、D2Cブランドはどんな犠牲を払ってでも成長すべきであるというプレッシャーだという。「誰もがすぐにメジャー入りを果たせるわけではない」と、シャイン氏はいう。このことが、同氏率いるパターンのチームが、総売上を経年的に促進する多数のビジネスからなる、ポートフォリオの確立を決断した理由のひとつでもある。
先日の取材のなかでシャイン氏は、ミッション主導型のD2C企業がいままさに直面している「審判」や、使い古されたD2C戦略を同氏が見直している理由について語ってくれた。なお、以下に掲載する当日のインタビューには、読みやすさを考慮して若干の編集を加えている。
◆ ◆ ◆
──D2Cインキュベーターを設立する過程で、どのようなことを学んだ?
インベントリー(在庫)を確保しつつ、フルフィルメントを動かしていくことの難しさは軽んじられていると、私は思う。「在庫切れ」はいいことのように思われがちだが、規模の拡大を目指している1年生ブランドにとっては、これが余分なストレスを生み出している。
コロナ禍に突入してからというもの、両ブランド(イコール・パーツとオープン・スペーシーズ)の売上は4倍以上に増えている。とはいえ、そこに成長痛がないわけではない。他社と同じく、サプライチェーンに関する現行の問題は、我々のインベントリーにも影響を及ぼした。一例をあげると、我々も最近ようやく、イコール・パーツについてはプレセールをやめて、オープンオーダーを受けるようになった。
このカテゴリーの過去数年の成長に目を向ければ、優れたサプライヤーに需要が集中していることがわかるだろう。調理器具を扱うD2Cブランドはどこも、ル・クルーゼ(Le Creuset)の製造業者を使いたがる。当然だ。だが、たとえば世界的ブランドのクイジナート(Cuisinart)よりも少量の注文しかしないD2Cブランドを優先する工場などあるはずがない。だからいまは、そうした製造業者が今後も我々の注文を受けてくれることを願って、彼らとの信頼関係を深めることに努めている。
──コロナ禍により、D2C業界は「審判のとき」に直面している。とりわけ、多様性や、俗に「ミッション主導型」と呼ばれるブランドといったものが。パターンはこれをどのように受け入れているのか?
ついにそのときがきたと感じている。ブランドの確立についていうと、我々も美意識の外に目を向けることを強いられるようになった。「クールな広告をどうつくるか?」以外のことも考えなければならなくなった。いままさに、一歩下がって、さまざまな人々との人間関係を築き、我々が「D2C 1.0」で掲げてきた価値観に従って行動することが求められている。
ここ数カ月は、D2Cの周辺の外にも目を向けながら、成功する企業の立ち上げ方について、さまざまなことを考えるようになった。そのなかのひとつが、自社の雇用プロセスの改善だ。必ずしも、多様な人材を集めるのに適したやり方ではなかった。
──今年に入って、D2Cブランドの構築に対するビジョンはどのように変わった?
パターンへと方針転換するときに、私が当然のようにそこに組み込もうとしたのは、我々が何年にもわたって支援してきたブランドデザインの、透明性や倫理に関するさまざまなエートス(精神)だった。ところが、いざこれらの漠然としたミッションを真似てみると、周囲の反応は芳しくなかった。いま行われている議論から、こうした価値観は本物のイデオロギーに根差していなかったことが明らかになりつつある。ベンチャーの支援を受けているスタートアップとして、それらに従って行動することは本質的に不可能だ。たとえ、ニューヨークを拠点とするブランドの多くでさえ、シリコンバレーのリバタリアン(自由至上主義)的視点を払拭できていない。
──話をうかがっていると、エージェンシーからブランド運営会社への移行のなかで、さまざまな教訓を学んだことが伝わってくる。
感情的なつながりを持って先頭を走ろうとすることは、存続可能なビジネスを運営するための手段ではないことが、いま明らかになりつつある。誰もがパタゴニア(Patagonia)になれるわけではない。結局のところ、ブランドは商品を売らなければならない。もちろん、人道的であるべきだし、万人に対して敬意を持って接するべきだ。だが、その一方で、自分たちは非営利組織ではないということも認めるべきだ。
実のところ、世間の大半はジン・レーンやヒムズ(Hims)のことなど耳にしたこともない。調理器具を買うオハイオ州のママたちが、そのブランドのミッションを気にかけることはない。彼女たちがサイトを訪れたのは、おそらく検索エンジンのアルゴリズムを介してだろう。また戻ってくるとしたら、あちこち見て回ってからだろう。
[原文:‘Not everyone can be Patagonia’: Pattern’s Emmett Shine on how the DTC playbook has changed]
GABRIELA BARKHO(翻訳:ガリレオ、編集:長田真)