「TikTokの一番のライバル」ともいわれるトリラー(Triller)は、6500万人の月間アクティブユーザーを抱えるソーシャル動画プラットフォームだ。現在、複数の広告主がすでにトリラーと積極的に提携しており、現在の注目度の高さに大きな期待を寄せている。その代表格がペプシコ(PepsiCo)だ。
「TikTokの一番のライバル」ともいわれるトリラー(Triller)は、6500万人の月間アクティブユーザーを抱える、ソーシャル動画プラットフォームだ。決して、業界で「一番人気」とはいえない同プラットフォームだが、2020年末にはマイク・タイソンとロイ・ジョーンズ・ジュニアによるボクシングのエキシビジョンマッチを配信。有料コンテンツながら160万回もの再生数を記録した。
現在、複数の広告主がすでにトリラーと積極的に提携しており、現在の注目度の高さに大きな期待を寄せている。その代表格がペプシコ(PepsiCo)だ。
ここ数カ月、同社はトリラーとのスポンサー提携やコンテンツ提供を精力的に進めており、大きな存在感を発揮している。さらに12月からは、ヒップホップのタレント発掘番組『ユア・ワイルデスト・ドリーム(Your Wildest Dreams)』を毎週配信中だ。
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「群を抜く」投資対効果の良さ
アトランタのトリラー・ハウスで撮影、配信されている『ユア・ワイルデスト・ドリーム』は、審査員としてラッパーのファット・ジョーや、音楽プロデューサーのキー・グローバルをはじめとする著名人を招聘し、ラッパーの卵を集めてもっとも良いパフォーマンスを発揮した3人を決めるという内容だ。勝者となった3人は、審査員たちから直々にレッスンやアドバイスを受けられるほか、ペプシ・チェリー味のCMに出演するチャンスを獲得できる。
北米ペプシコで、南部担当CMOを務めるチャウニー・ハムレット氏は、「野心的なアーティストの登竜門を作る場として、どのメディアがふさわしいかを検討した。トリラーには本物の音楽ファンがたくさんいる」と語る。同氏は、この番組をはじめとする取り組みにより、「ブレイクを果たす前にアーティストへスポットライトが当たることになり、ファンの獲得にもつながる」と語る。
これは、トリラーの広告主に向けた最大のアピールポイントでもある。トリラーは現在、規模の面では競合プラットフォームに及ばない。一方、よりディープなコンテンツとタレントを抱えており、「エンゲージメントの深さ」という点では、大きな強みを発揮することができる。インフルエンサーマーケティングは、運用型広告には果たせない成果を生み出す力があり、広告主にとってコスト効率の良い手法になり得る。トリラーのように、現状競合する広告主が少ない場合はなおさらで、投資対効果の良さは群を抜いている。
トリラーの狙い
インフルエンサーマーケティングに特化したエージェンシー、ファンバイツ(FanBytes)でCEOを務めるティモシー・アームー氏は、次のように述べる。「アーティストは、企業の広告塔になり得る存在だ。昨今、ブランドのあいだではこの認識がより強まっており、アーティストと長期的な提携を結ぼうとする企業が増えている。刹那的ではない効果を期待しているのだ」。
ペプシコはこれまで、スーパーボウルのハーフタイムにマイケル・ジャクソンが出演するCMを流すなど、長年にわたりこうした取り組みを進めてきた。しかし、今回の取り組みで異なるのは、トリラーは、タレントにとってエージェンシー兼プラットフォームになり得る存在だという点だ。
トリラー自身も、「パブリッシャーが広告を販売するのと同じ感覚で、インフルエンサーを広告主に売り込むことができる」という点を、自らの強みとしてアピールしてきた。2020年9月には、広告主に対して、1000インプレッション単位で購入できるオプションの提供を開始。同社の狙いは、音楽レーベルがアーティストを売り込むように、自分たちが抱えるアーティスト人材を収益化することにあるのだ。
「トリラーは、アーティストの存在感が強いという特色がある。それを考えれば、テイクオーバー(自社のアカウントをインフルエンサーに期間限定で使ってもらい、いつもと違う視点でコンテンツを投稿してもらう手法)を活用するのは有効ではない。我々はあくまで、エンタメ領域の『スポンサー』としての提携に重点を置いている」とハムレット氏は語る。「今後、我々のメディア戦略では、こうした手法やトリラーのようなプラットフォームの利用が増えていくだろう」。
プレミアム感が広告主を魅了
短尺動画で圧倒的な人気を博しているTikTokとは異なり、トリラーは音楽を重視した、プレミアムなコンテンツ提供に重きを置いている。TikTokは、多様なユーザーが動画を自由に編集して遊ぶ場だ。一方トリラーの動画編集機能は、プレミアム感を演出するようなものに限られている。トリラーの動画は、TikTokなどのSNSほど「ユーザー主体」ではない。その一方で、プロのミュージシャンや音楽レーベルにとっては、最適なプラットフォームといえる。そしてこの点が、ペプシコをはじめとする広告主にとっても魅力となっている。
刹那的なコンテンツではなく、プレミアムなコンテンツを提供する。これはトリラーが意図する差別化要素であり、実際のところ成功をもたらしている。サウィーティーやニーヨ、アリシア・キーズといった大物アーティストには熱狂的なファンがいる。こうしたアーティストが、インスタグラムのテイクオーバー機能やトリラーの音楽番組を利用し、独占コンテンツとして制作風景や舞台裏を公開している。いまや毎週のように公開されるこれらのコンテンツは、音楽ファンの心に強く響いている。
音楽コンサルティング企業、CADマネジメント(CAD Management)のCEO、クレイトン・デュラント氏は「トリラーは、短尺動画分野で、上質なコンテンツを提供するプラットフォームとしての立ち位置を確立しつつある」と語る。「競合プラットフォームで見られるのは刹那的なコンテンツばかりで、トリラーで配信されているものほど、質の高いコンテンツは少ない。トリラーは、特定ユーザーに向けて一貫して高品質のコンテンツを配信しており、その特異さは際立っている」。
[原文:‘Not a place for takeovers’ Pepsi amps up Triller marketing plans]
SEB JOSEPH(翻訳:SI Japan、編集:村上莞)