2011年まで、世界最大の携帯電話ブランドだったノキア(Nokia)は再起を果たすべく、同ブランドを保有するHMDは過去の広告関連の取り組みを改めて分析。これまでの数年よりも、メディア購入およびコンテンツ制作を、自社で細かくコントロールする方向にシフトしている。
2011年まで、世界最大の携帯電話ブランドだったノキア(Nokia)。同ブランドを保有するHMDは、再起を果たすべく、過去の広告関連の取り組みをあらためて分析している。その結果、これまでの数年よりも、メディア購入およびコンテンツ制作を、自社で細かくコントロールする方向にシフトしているという。
これは、決してエージェンシーの立場が危うくなるという話ではない。実際のところ、ノキア端末の生産と販売を行っているHMDは、エージェンシーをこれまで以上に必要としている。
ノキアを担当するエージェンシー、コントロールvエクスポーズド(Control v. Exposed)は、事実上、メディア担当というよりもコンサルタントとしての役割を担うようになっている。実際、同エージェンシーは一時的にHMD社に常駐し、日々のメディア戦略を指導しているという。
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コントロールvエクスポーズドのプレジデント、ポール・フランプトン氏は「いまのノキアの強みは何か、そして何に投資すべきか。かつてのマーケットの覇者である彼らは、あらゆる角度から生き残りを賭けて模索している」と語る。
コントロールvエクスポーズドがこの夏に現在の役割を任されて以来、HMDは、同エージェンシーと自社のマーケターで業務を分割する、ハイブリッド型のエージェンシーモデルへの移行を進めている。これにより同社のマーケターは、現在ふたつのメリットを享受できているという。ひとつは、デマンドサイドプラットフォーム(DSP)などの技術ベンダーとのコンタクトや、それによって生み出されるデータの管理といった、同社がメディア購入において最重要視している部分。ふたつ目が、変動費として柔軟に調整することができる、メディア領域だ。コントロールvエクスポーズドは主に、このふたつ目の部分を専門家として担当している。
つまるところHMDグローバル(HMD Global)は、データの収集や管理を細かく行うなどして携帯端末のD2C販売計画も視野に入れつつ、メディア戦略を立てているのだ。
注力しているのはデータ収集とその統合
しかし、競合他社と異なり現在のHMDグローバルは、膨大な資金力でテレビCMのスケジュールやオンラインオークションをハックすることはできない。また、全盛期のように多額の予算を投じてハリウッドの大ヒット映画で宣伝したり、商品を露出させたりすることも難しい。いまの彼らは、予算をかけず、ビジネスチャンスに機敏に反応して着実に成果を挙げることに活路を見出している。
現在、HMDグローバルが特に注力しているのが、データ収集とその統合だ。同社は、ノキアの端末を通じ、利用者のターゲティングや測定に活用できる匿名の顧客データや、ファーストパーティデータのソースだけでなく、端末の利用状況を示すテレメトリーデータも収集している。フランプトン氏は、こうしたデータとサードパーティデータの扱いは、異なる技術スタックに基づいているものの、最終的に統合することを目指しているという。
昨今、オンライン広告におけるサードパーティデータの価値は低下しているものの、新規オーディエンスへのリーチなど、活用方法はまだ残されている。こうしたデータ戦略は、競争が厳しいスマートフォン市場でHMDが勝利するために、不可欠な要素だ。
なお、ノキアは伝統的にドイツや米国、英国などを得意な市場としているが、HMDグローバルは現在、インドネシアやインド、南アフリカといったスマートフォンの普及がまだ進んでいない市場も、視野に入れているという。これらの市場では、Appleやサムスン(Samsung)が支配的ではない。
フランプトン氏は、「人々がフィーチャーフォンから、スマートフォンへ移行している最中の市場には、大きなチャンスがある」と語る。
進むインハウス化とハイブリッドモデルの採用
HMDのマーケターが、通常であればエージェンシーに委託するような業務を自分たちで担当するのははじめてのことではない。同ブランドは2014年、マイクロソフト(Microsoft)による買収直後、ブランドキャンペーン用の広告を展開している。こういった取り組みを通じ、HMDグローバルはノキア端末の販売促進のため、エージェンシーとの協力関係を強化してきた。実際、2017年から契約を結んでいるエッセンス(Essence)、およびマインドシェア(Mindshare)は、今後もHMDグローバルと提携を続けていく予定だ。
アドバイザリー企業のメディアセンス(MediaSense)の戦略管理パートナー、ライアン・カンギッサー氏は、「新型コロナウイルスが猛威を奮ったこの12カ月で、マーケターはeコマースやデータ、運用効率の重要性について改めて理解を深めたはずだ。インハウス化やハイブリッドモデルの採用は、今後ますます進むだろう」と語り、次のように述べた。「マーケターは基本的に、広告運用やメディア管理業務の最適化はやりたがらない。しかし、ファーストパーティデータの入手や、アドテクベンダーとの関係構築であれば、価値が非常に大きいため、話が変わってくる」。
SEB JOSEPH(翻訳:SI Japan、編集:村上莞)