※この記事は2021年8月23日に掲載された記事の再掲です。
マーケターのあいだでは広告投資の分散の必要性に関する議論が高まり、おさまる気配がない。企業が予算配分の最適化を模索するなか、有望なチャネルとして浮上してきたのがOOHだ。変異株の感染拡大でロックダウンの再導入が検討されているにもかかわらず、広告主がOOHの出稿を控える兆候はない。
※この記事は2021年8月23日に掲載された記事の再掲です。
マーケターのあいだでは広告投資の分散の必要性に関する議論が高まり、おさまる気配がない。企業が予算配分の最適化を模索するなか、有望なチャネルとして浮上してきたのがOOH(屋外広告)だ。
新興ブランド数社が、過去数カ月のあいだにニューヨーク、ロサンゼルス、アトランタ、ダラス、オーランドなどでOOHキャンペーンを開始した。スイムウエアのアンディ(Andie)、防災用品のジュディ(JUDY)、レストラン予約・宅配アプリのシーテッド(Seated)、ヘルスケアアプリのKヘルス(K Health)などで、その多くが初めての試みだ。一方、遠隔医療事業のロー(Ro)は地下鉄広告への投資を再開した。オーラルケアのクイップ(Quip)もOOHに復帰する予定だ。同社の成長事業部門バイスプレジデントのシェーン・ピットソン氏によると、8月下旬、ニューヨーク市の無料Wi-Fiスポット整備事業を手がけるLinkNYCのデジタルサイネージ部との提携により、コロナ禍が始まって以来初のOOHキャンペーンを実施するという。
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OOHが持つ強力なメッセージ性
新型コロナウイルスのデルタ変異株による感染急増で、マスク着用義務とロックダウンの再導入が検討されているにもかかわらず、広告主がOOH広告の出稿を控える兆候はない。マーケティングチャネルとしての効果に期待が持てるからだろう。
ピットソン氏はクイップのOOH施策について次のように述べている。「コロナ禍で、既存施設の利用の仕方について再発見があった。交通機関の混雑が緩和され、人々は屋外で食事や娯楽を楽しんでいる。ブランド各社は今後、従来型の広告媒体を新たな方法で活用しはじめるだろう」。
アメリカ屋外広告協会(Out of Home Advertising Association of America)の予測では、国内のOOH売上高は今年、前年比で10%から12%の伸びが見込まれるという。2019年に80億ドル(約8800億円)だった売上高は2020年には67億ドル(約7370億円)と13億ドル(約1430億円)減、16%の落ち込みを見せたが、ここへきて着実に回復に向かっているようだ。
R/GAはウーバー(Uber)やアリー・バンク(Ally Bank)をクライアントに持つグローバルエージェンシーだ。シニアバイスプレジデントでメディア・コネクション部門を率いるエリー・バムフォード氏によれば、昨年8月、同社のクライアント企業におけるメディア支出のうちOOHが占める割合は平均で5%に満たなかった。しかし今年5月を境に好転してコロナ禍以前のレベルに戻り、20%から30%にまで上昇したという(詳細データは非開示)。
バムフォード氏は、OOHの特徴についてこう語っている。「人々が自宅外のさまざまな場所で日々、目にする広告には強力なメッセージ力がある。消費者はみな、ソーシャルメディアの情報氾濫にうんざりしていて、バナー広告の存在を気にもとめなくなった」。
iOS14と新たな感染拡大が追い風に
しかし、すでに飽和状態でソーシャル有料広告中心というデジタルメディアの特性は、業界全体の状況からみればひとつの側面でしかない。マーケターはいま、従来のマーケティング手法の代替となる新たなソリューションを見つけるべく動きを早めている。きっかけはiOSのバージョン更新だ。最新バージョンではユーザーにトラッキング通知やオプトアウトの選択肢を提供する必要が生じ、広告主がターゲティングに利用できるデータやアトリビューション用のデータが入手しにくくなっている。
「要するにiOSでは、デジタル広告によるターゲットオーディエンスへの訴求が難しくなるばかりだということだ」と、アンディの創業者兼CEO、メラニー・トラビス氏はいう。同社は最近、ビバリーヒルズに初めてビルボードを設置した。「この難局を乗り切りたいなら、ブランド各社のマーケターは広告投資の分散を今までにない早いペースで進める必要がある」。
OOHにとってはコロナ禍も追い風となっている。ロックダウンで観光・交通需要が落ち込み、料金が大幅に引き下げられたため、多くの新興企業がOOHを試しはじめた。また、米DIGIDAYが7月の記事でも報じたように、ワクチン接種の進展で社会経済活動の早期正常化が期待されている。
デジタルビルボードにおける技術の進歩もメディアチャネルとしてのOOHの魅力を高めている。広告効果が測定でき、費用対効果が高く、柔軟な調整が可能で、ブランドセーフティが守られるというメリットがある。
そうした理由から、防災用品のジュディは今後もOOHを利用し続ける意向を示している。共同創業者のサイモン・ハック氏は、同社のマーケティング予算全体の7%(金額は非開示)をOOHに費やす見込みだと語った。ダラスでビルボード1枚のみのキャンペーンから始めた同社は、その後ロサンゼルス、オースティン、マイアミと複数都市でビルボードを設置し、OOH施策の規模を拡大している。
各社は今後もOOHに注力
レストラン予約・宅配アプリのシーテッドでも同様の取り組みが進んでおり、最近、ニューヨーク、アトランタ、ダラス、ボストン市内で大規模キャンペーンを開始した。媒体はビルボード、駅構内や車内のスポット広告、ビル外壁を使ったウォールスケープ、ミューラル(壁画)で、予算規模は過去に実施した同種のキャンペーンの3倍に上った。OOHへの投資は毎月の広告支出の25%から、いまや60%を占めるまでになったと、シーテッドの共同創業者で代表取締役会長のボー・ピーボディ氏はいう。具体的な予算額は開示されていないが、OOHに注力する同社の姿勢がうかがえるデータだ。
アンディのトラビスCEOは、デジタル屋外広告のアトリビューションと広告効果測定の機能向上を受けて、メディアミックスの一環としてOOH施策を推し進めていくと述べた。
「いまのところ、当社のOOH施策はうまくいっていると思う。取り組みを始めて1カ月、広告パフォーマンス全体にどの程度の影響があったか、データで見てみたい。OOH広告の成果を定量的に把握する方法はいろいろあるだろうが」。
KIMEKO MCCOY(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)