日本経済新聞社が、日本のB2Bマーケティングの発展を目的に主催する「NIKKEI B2Bデジタルマーケティングアワード」。11月26日に開催された同アワードの表彰式で実施されたトークセッションでは、B2Bマーケティングを成功させるための要素とは何か、本質的な議論が交わされた。
コロナ禍により、対面での営業や展示会、セミナーなどの実施が困難になるなか、B2B企業は急激な変化の対応に追われている。しかしそんなときこそ、自社のマーケティングを、根本から見直すべき必要があるのかもしれない。
日本経済新聞社が、日本のB2Bマーケティングの発展を目的に主催した「NIKKEI B2Bデジタルマーケティングアワード」。11月26日に開催された同アワードの表彰式で実施されたトークセッションでは、経営層がマーケティングを理解することの重要性など、B2Bマーケティングを成功させるための要素とは何か、本質的な議論が交わされた。
「日本には『顧客視点』、つまり『マーケティング脳』を持つ経営層は、残念ながらまだ少ない」。こう語るのは、アワードの審査員のひとり、Nexal(ネクサル)株式会社代表取締役の上島千鶴氏だ。なお、トークシセッションには同氏のほか、同じく審査員を務めるシンフォニーマーケティング株式会社代表取締役の庭山一郎氏、HubSpot Japan(ハブスポット・ジャパン)株式会社 共同事業責任者・シニアマーケティングディレクターの伊佐裕也氏が登壇した。
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全体最適の重要性
マーケティングで成功しているB2B企業には、どのような共通点があるのか。シンフォニーの庭山氏によると、そのひとつは「常に担当者が『全体最適』で考えていること」だという。B2Bマーケティングには、Web、展示会、セミナーさまざまな手段があるが、どれも面白く奥が深い。しかしその反面、担当者は数値目標達成のため自分の施策のみに没入して、結果「部分最適」に止まってしまうケースが少なくないという。
「全体最適と口でいうのは簡単だが、実践するのが非常に難しい。しかしこの視点を押さえていないと、そもそも何のためにマーケティングをしているのかを目的を見失ってしまう」。
また、「マーケティングを全体最適で考える」上で重要なのが、オンライン/オフラインどいう視点に囚われない柔軟性だ。Nexalの上島氏も、「そもそも、いまや企業のマーケティング活動で、デジタルのテクノロジーを利用しないことはありえない。その意味でマーケティングをオンライン、オフラインと区別して意識することが、すでに時代遅れだ」と述べる。
いまB2B企業にとって必要なのは、デジタルマーケターではなく、事業戦略を理解してマーケティングプランのロードマップを引ける、俯瞰的な視点を持ったマーケター、つまり「全体最適」で物事をとらえられるマーケターなのだ。
ツールの導入は「戦略ありき」で
「部分最適」のほかに、B2B企業が陥りがちな失敗が、マーケティング戦略のないままツールを導入してしまうことだ。庭山氏によると「実際、国内にはMA(マーケティングオートメーション)ツールを、きちんとした戦略のもと活用できている企業は少ない」と、苦言を呈する。
HubSpotの伊佐氏も「MAツールは、『オートメーション』という名が冠されているものの、自動的にマーケティングを実行してくれる魔法の箱ではない」と述べる。前提となるのは、マーケターが戦略を立て、その戦略を実現するために必要な質と量を備えたチームが存在することだ。MAツールはしっかりした戦略がなければワークしないということが、理解されていないという。
しかし、どのような顧客とコミュニケーションを取るのか、またABM(アカウント・ベースド・マーケティング)やエリアマーケティングなど、さまざまなマーケティング施策のうち、どの部分をMAツールで補っていくのかなど、方針が定まらないうちに導入を決定する企業は少なくない。
上島氏の指摘は辛辣だ。「戦略がなければ、MAツールは、いわば高価なメール配信ツールに過ぎない。戦略がなければコストがかかるだけなのに、それでいいのだろうか」。
経営層からの理解と支援が不可欠
全体最適の視点を持ち、ツールの活用も戦略ありきで行う。では、その実現のために必要なことは何か。庭山氏が強調するのが「経営層の理解と支持」だ。
B2B企業のマーケティング部門は、他部門に対して、業務負荷の増加や権限の移譲などを求めることが多いため、どうしても疎まれがちだ。特に新設の部門であれば、それはなおさらだろう。そうした状態が続くと、マーケティング部門と他部門とのあいだで軋轢がうまれ、コミュニケーション不全に陥る。そして、マーケティング部門はパフォーマンスを発揮できないという憂き目をみることになる。
また、上島氏も「残念なことに日本では『顧客視点』、つまり『マーケティング脳』を持つ経営層はまだ少ない」と述べる。「経営層に『マーケティング脳』を持っている人がどのくらいいるか。そこでマーケティングの成功率は大きく変わってくる」。
伊佐氏によると、Hubspotの米国本社ではこうした「顧客視点」を組織的に徹底するため、CCO(チーフ・カスタマー・オフィサー)が新設されたのだという。同社におけるCCOの役割は、営業、マーケティング、サービスサポートすべてを管轄し「企業としての価値を届けるための全体最適」だ。「マーケターだけが頑張っていても無理がある。会社としての価値を顧客に届けるため、ビジネス全体を最適化する人間がトップに必要だ」。
ちなみに、本アワードの大賞およびブランディング賞はアスクル株式会社が、デマンドジェネレーション賞はブラザー販売株式会社が受賞している。詳細が気になる方は、こちらのリリースを確認してもらいたい。
Written by 滝口雅志、村上莞
Image by Getty Images