この3年で、ファッション業界においてリセールがますます重要な分野となっている。かつてはそのコンセプトに懐疑的だった多くのファッションブランドが、リセラーと提携したり、あるいは自社でリセールを開始したりするなど、徐々にリセールを受け入れるようになっている。しかし、セクター間の対立は依然存在する。
この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、ビューティ、ファッション業界の未来を探るメディア「Glossy+」の記事です。
この3年で、ファッション業界においてリセールがますます重要な分野となっている。かつてはそのコンセプトに懐疑的だった多くのファッションブランドが、リセラーと提携したり、あるいは自社でリセールを開始したりするなど、徐々にリセールを受け入れるようになってきている。
しかし、このふたつのセクター間の溝が小さくなっても、対立は依然存在する。2月4日に公表されたナイキ(Nike)のストックX(StockX)に対する訴訟で明らかになった。
Advertisement
リセール業者はセカンダリーマーケットという性格上、その生命線を完全にブランドに依存している。なんとしても手に入れたいのでストックXで探そうと顧客が思うような、ナイキの話題の新作スニーカーの安定した供給なくして、ストックXは存在しないのだ。
だが、リセール業者がブランドのイメージやストーリーの所有権をあまりに主張しすぎると、それは一線を超えたことになる。
一線を超えたストックXのNFT
ナイキの抗議で重要なのは、ストックXがナイキのスニーカー画像を使用したNFTを販売し始めたという点である。これは既存のナイキ製品をリセールするという範囲を超えており、ナイキの画像や商標を使用して完全にナイキの権限外で新たな製品を作る行為に踏み込んでいるというものだ。
これはブランドとリセラーの関係における一線を超えるものである、というナイキの文言は、このスポーツウェアの巨大企業の胸の内を表している。
「(ストックXの)声明は、購入者が取引またはコレクションしてポートフォリオに表示することができるストックXのナイキブランドのヴォールトNFTs(Vault NFTs)が同社のさらなるサービスや不特定の特典(ストックXのリリース、プロモーション、イベントへの独占アクセス)とバンドルした新しいバーチャル製品であるということを反映している」とナイキの訴訟の文面には書かれている。「ナイキはストックXのサービスやそうした特典への独占的なアクセスを販売していない。しかしストックXの新しいバーチャル製品は、ナイキの同意なしにナイキの商標を使用してストックXが作成・マーケティング・販売するために提供・売却されている。そしてストックXによれば、それは『まだ始まったばかり』であるという」。
ナイキが独自のNFTを作ることに興味を持っており、そのために積極的な雇用を始めていることも事態を悪化させている。ストックXがNFTにナイキの画像を使用することは、商標権侵害の疑いがあるだけでなく、ナイキ独自のNFTの野望と競合する可能性を示している。
リセラーがブランドを利用することへの懸念
本質的にこの争いは、もっとも悪名高いブランドとリセラーの紛争であるシャネル(Chanel)とザ・リアルリアル(The RealReal)の数年にわたる訴訟に類似している。
シャネルはザ・リアルリアルに対し、二社の間の一線を超えたとして同様の訴えを起こした。シャネルのバッグが本物かどうかを100%確実に鑑定できるというザ・リアルリアルの主張に対し、シャネルの見解は、自社製品の鑑定を行うのはシャネルが独占的に行う権利であり、それをザ・リアルリアルが侵害しているというものだった。
その対立は2年以上続き、2021年4月に非公開の裁判外の和解でようやく中断された。
誤った印象を与える可能性も
デザイナーのジェフ・ステイプル氏は、ファッションのリセールのファンであること認めながらも、リセール業者がマーケティング資料でブランドイメージを使用する方法に対して独自の懸念を表明している。
2019年にアメリカン・イーグル(American Eagle)が初めてリセールに参入した後、ステイプル氏は、リセラーがブランドの商標、ロゴ、画像を自らの広告に自由に使っているのは釈然としないとGlossyに語っている。
リセール業者は商品を再販する権利と、自分たちが販売する商品を宣伝する権利を有している一方で、それが商品のリセールに関する何らかの要素をブランドが承認した、あるいはブランドがリセールに関与しているといった誤った印象を与える可能性がある。ブランドがそうした承認や関与をすることはまずないのだ。
「ブランドとリセールマーケットプレイスは異なるインセンティブを持つ」
「長期的にみれば、ブランドとリセールマーケットプレイスは異なるインセンティブを持っている」と指摘するのは、ブランドリコマースカンパニーのトローブ(Trove)のCEOアンディ・ルーベン氏だ。「サードパーティマーケットプレイスは、独自の顧客基盤を開拓しようとしている。ブランドは自分たちのブランドイメージを所有したい。最終的にこれらのインセンティブは、たとえ利便性が融合していても、両者を異なる方向へと導いている」。
NFTの台頭で複雑化するブランドとリセラーの関係性
ブランドは、サードパーティのリセール業者に協力する代わりに、独自のリセールチャネルを所有することにますます興味を持つようになってきている。
自社製品を再販する方法を完全に自社でコントロールできるようなチャネルを構築するにあたって、ブランドはトローブ(Trove)、スレッドアップ(ThredUp)、アーカイブ(Archive)といった企業に支援を求めている。
しかしストックXやザ・リアルリアルのようなリセールマーケットプレイスは、無視できないほど大きな存在だ。ブランドは自社製品のリセールをすべて自社のチャネルで行いたいと考えているが、顧客は欲しい製品を最安値で見つけたいだけなのである。
ストックXもザ・リアルリアルも、毎年数億ドルの収益を上げている。ブランドは、容認できないことがあるとはいえ、これらのプラットフォームが自社製品の巨大な提供者であり、ブランドが望む方法のみで商品を販売できるとは限らないという現実を受け入れないといけないのかもしれない。
「NFTの台頭でさらに複雑になっていくだけだろう」とルーベン氏は言う。「この関係性にデジタルな要素が加わり、デジタルな意味でのブランドアイデンティティと物理的な意味でのブランドアイデンティティは誰のものかという疑問が浮かび上がったが、この発想はまだ生まれたばかりなのだ」。
[原文:Nike’s StockX lawsuit shows there are still rifts between brands and resellers]
DANNY PARISI(翻訳:Maya Kishida 編集:黒田千聖)