ナイキはコロナ禍を多くの競合他社に比べればうまく乗り越えてきた。だが今回の決算発表で明らかになったように、米国内の港湾での遅延や、コロナ感染者の増加を背景とするヨーロッパの一部の国での再ロックダウンといった、より大きな課題を100%回避するには十分とは言えなかったようだ。
コロナ禍でも大きな売上減を回避してきたナイキ(Nike)だが、すべての逆風に免疫があったわけではないようだ。
2021年3月18日に行われたナイキの2020年度第3四半期決算発表によると、純売上高は前年同期比3%増となる104億ドル(約1.1兆円)で、オンライン売上に限定すれば同59%増を達成した。ただし、第2四半期には純売上高が前年同期比9%増、オンライン売上高が同84%増を記録しており、成長の鈍化は顕著だ。ナイキによれば、売上高の減少が特に大きかったのはヨーロッパと北米とのこと。純利益は前年同期比71%増の14億ドル(約1520億円)を上げている。
ナイキはコロナ禍を多くの競合他社に比べればうまく乗り越えてきた。オンライン販売が堅調だったおかげで、ほぼどの月も若干の売上増を達成、もしくは1桁台の売上減にとどまっていたという。だが今回の決算発表で明らかになったように、米国内の港湾での遅延や、コロナ感染者の増加を背景とするヨーロッパの一部の国での再ロックダウンといった、より大きな課題を100%回避するには十分とは言えなかったようだ。
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同社のマット・フレンドCFOは決算発表のプレスリリースのなかで以下のように述べた。「ブランドとしての勢いはかつてないほど強力で、最大の好機を背景に、焦点を絞り込んだ成長を加速させているところだ。デジタルを基盤としたD2C戦略に今後も注力し、長期的な視点に立って、ナイキに備わった今以上のポテンシャルを引き出したいと考えている」。
サプライチェーン上の課題
ナイキによると、北米の売上高は前年同期比10%減で、原因は「世界的なコンテナ不足と国内の港湾における混雑など、サプライチェーン上の課題」だという。プレスリリースでは、これらの課題により、第3四半期の在庫の流通に3週間以上もの遅延が出たこと、卸売り用の商品輸送にも一部遅れが生じたことが報告されている。
カリフォルニア州の港湾での遅延をはじめとするサプライチェーン上の課題は、過去数カ月間にわたり小売り各社のあいだで広く指摘されてきた。小売り会社では、自社工場から国内港湾への商品輸送に未処理が発生しているが、今後数カ月間は解決が難しそうだ。つまり、小売り各社は商品輸送をさらに待たされ、売上損失のリスクを被るか、追加コストを負担して航空便などを利用するか、選択しなければならないということだ。たとえばエアロバイクブランドのペロトン(Peloton)は、2月に行った最新の決算発表で、商品が「通常の5倍以上の期間、港湾に留め置かれている」こと、向こう6カ月間で1億ドル(約109億円)以上の追加輸送費を投じる計画であることを明らかにしている。
ナイキは数カ月前から直営店と公式ウェブサイトの販売を加速させる一方で、卸売り販売パートナーの数を厳選して縮小する計画を進めてきた。実現に向けて同社では、ナイキ・ラン・クラブ(Nike Run Club)やナイキ・トレイン・クラブ(Nike Train Club)といったエクササイズアプリや、主軸のショッピングアプリを含む、自社アプリのダウンロード数の拡大を推し進めている。2020年度第3四半期までのD2C部門の業績は、120億ドル(約1.3兆円)の売上高を達成した。
自社在庫の管理は今後も強化
直営店と公式ウェブサイトでの販売テコ入れにより、ナイキは利益率を改善できるだけではなく、自社在庫の管理もしやすくなるというメリットを得られる。自社在庫の管理の強化は今後も重点が置かれることになるとみられ、卸売り販売パートナーとの協働も進められている。たとえば卸売り販売パートナーの1社であるフットロッカー(Foot Locker)は3月初頭の決算発表で、顧客からの注文に対してフットロッカーではなくナイキが商品を発送する、いわゆるドロップシップ・プログラムを試験導入していることを明らかにした。
多くの大手小売業者にとって最大のベンダーパートナーの1社であるナイキには、ほかのブランドでは難しい実験的アプローチを試す余裕がある。オムニコム・コンサルティンググループ(Omnicom Consulting Group)のコマース担当シニアバイスプレジデントを務めるブライアン・ギルデンバーグ氏は、次のように分析した。「結局のところ、ブランドが小売業者を必要とする度合いより、小売業者がブランドを必要とする度合いのほうが高い、ナイキはそんな数少ないブランドの1社(もう1社はApple)ということだろう」。
[原文:Nike’s sales growth slowed during the third quarter due to supply chain challenges]
Anna Hensel(翻訳:SI Japan、編集:長田真)