店舗が閉じたままの状況で、ナイキ(Nike)が顧客にとってナンバーワンのブランドでありつづけるには、アプリの存在が欠かせない。ナイキで消費者とマーケットプレイスを担当するプレジデントのハイディ・オニール氏によると、同社には、店舗の再開を判断するための、6つのステップを定めたマニュアルがあるという。
店舗が閉じたままの状況で、ナイキ(Nike)が顧客にとってナンバーワンのブランドでありつづけるには、アプリの存在が欠かせない。
ここ数年、ナイキのD2C戦略は、エクササイズから店舗で試着する製品の取り置きまで、アプリがあれば何でもできる、アプリのエコシステムを構築することだった。そして現在、ナイキというメインのショッピングアプリのほか、ナイキ・トレーニング・クラブ(Nike Training Club:NTC)、ナイキ・ラン・クラブ(Nike Run Club)、そして熱烈なスニーカーファンのためのSNKRSアプリを展開している。
新型コロナウイルス感染症の大流行に際して、ナイキはもっと多くのユーザーにNTCアプリをダウンロードしてもらうため、このアプリが提供するエクササイズのプレミアムセクションを無料化することにした。NTCの新規の会員数とエクササイズの本数は、前年比3倍増の成長を遂げている。さらに、YouTubeでのライブ配信もスタートさせた。NTCが提供するエクササイズのひとつ「コミュニティ」を週に1本配信しており、もっとも人気の高いエクササイズは再生回数100万回を超える好調ぶりだ。
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次のステップは、新規ユーザーのブランドロイヤルティを維持し、ナイキのアクティブな顧客でいてもらうための施策、さらには店舗が再開しても、ナイキのアプリを使いつづけてもらうための施策を講じることだ。ナイキで消費者とマーケットプレイスを担当するプレジデントのハイディ・オニール氏によると、同社には、店舗の再開を判断するための、6つのステップを定めたマニュアルがあるという。再開の決定は、地方自治体の法令や出店するモールのガイドラインなど、外部的な要因に依存するほか、従業員の通勤時の安全も確保されなければならない。5月第2週の段階では、ナイキが米国内において再開した店舗は、ほんのいくつかにとどまっている。
今回、オニール氏は、米DIGIDAYの兄弟サイトであるモダンリテール(Modern Retail)の取材で、ナイキのデジタル戦略について詳しく語ってくれた。発言内容は、読みやすさと記事の長さを考慮し、編集を加えている。
ーーあなた自身、そしてナイキのほかの役員も、新型コロナウイルスに関するマニュアルは、中国事業の賜物だと言っている。米国の消費者行動は中国と比べてどう違うか?
中国の教訓は、残念ながら、どこでも有効のようだ。新型コロナウイルスは世界のあちこちに飛び火しているが、この危機に際して消費者がとる行動も、必要とするものも、相違点よりは類似点のほうが多いように思われる。現状、我々の取り組みは、現在のマニュアルを補強し、エクササイズやエクスペリエンスを追加しつづけることだ。
中国あるいは世界中で経験した最大の相違点は、プラットフォームの違いであり、消費者とのつながり方の違いだ。中国では、WeChat(微信)とドウイン(Douyin:TikTokの中国国内版)は間違いなく重要だ。米国の消費者向けには、YouTube、それからナイキのライブ動画のいくつかを重要視している。家族向けのエクササイズと、新しいタイプのエクササイズに対するニーズは非常に安定している。
ーー新規のアプリユーザーから、できる限り多くのものを得るための施策は? ほかのアプリを試してもらう、あるいはナイキの製品を購入してもらうための取り組みは?
ナイキは、現在の状況に至るずっと以前から、エクスペリエンス、サービス、アプリをつなぐためのプラットフォーム構築に注力してきた。それこそが事業戦略の核心だ。
世界中でパンデミックの影響が顕在化しはじめたとき、我々がまっさきに決めたことのひとつは、米国の消費者向けに、ナイキ・トレーニング・クラブのサブスクリプションサービスを無料化することだった。
つぎに、エクササイズのライブラリの強化に着手した。ネットで提供しているエクササイズは、いまや185本を超える。ナイキは、どのフィットネスレベルにも確実に対応できるように、エクササイズのメニューを充実させてきた。このところは短時間のエクササイズの人気が上昇しているので、15分から60分のメニューを追加した。ヨガ、体幹を鍛えるワークアウト、全身を鍛えるトレーニングなど、以前よりも多様なメニューを用意している。さきに述べたYouTubeのライブ配信でも、毎週1本、ナイキのマスタートレーナーがエクササイズの動画を配信している。
ーー物品販売のプロモーションとデジタルエクスペリエンスを連携させているか?
エクササイズにディスカウントを関連づけたりはしていない。だが、カスタマージャーニー全体に、あまねくナイキをからませる。アクティビティアプリのコンテンツを、これまでにない深いやり方で、ショッピングエクスペリエンスに織り込んでいる。
自宅でエクササイズする人が増えたおかげで、ナイキのマスタートレーナーが絶大な支持を集めている。マスタートレーナーが推奨する商品には、大きな反響がある。パーソナルな体験を強化しつつ、データの活用や分析を通じて、重要と思われるエクササイズのタイプをモニターしている。
[たとえば]ヨガのメニューが有効なら、エクスペリエンスとカスタマージャーニーの関連づけを行い、ヨガに興味を示した消費者を、ヨガ関連のアパレル製品につなげる。すると、ヨガの製品の人気が上昇する。我々は、これまでにない方法で、製品のカスタマージャーニーとエクササイズを融合させている。
ーー店舗が再開した場合、ストアエクスペリエンスの再構築に、デジタルはどのような役割を果たすと思うか? 顧客と店員の密な接触を避けるために、何かアプリでできるタスクを想定しているか?
コロナ禍以前に構築したエクスペリエンスの一部を、さらに強化することになるだろう。
ナイキのストアでは、すでに「セルフチェックアウト」という機能を導入している。いまこの世界で、セルフチェックアウトは非接触型の機能になっている。また、マネキンのバーコードをスキャンして製品の詳細情報を取得する「スキャン・トゥ・ラーン」という機能も導入済みだった。この機能も、店舗内でコンタクトレスなエクスペリエンスを実現する、非常に有効な方法だ。
今後は、このような機能のさらなる充実と普及に取り組みたい。店舗内では、新しいサービスもいくつか導入する予定だ。たとえば、ネットで製品を購入し、店員とまったく接触することなく、店舗でピックアップできる仕組みもそのひとつだ。ストアアスリートと呼ぶナイキの店員が、自宅にいる顧客のために、ショッピングを代行するパーソナルショッパーやコンシェルジュの役割を務めるサービスも開始する。米国では最近ようやく店舗が再開しはじめた。客足も戻りつつあるので、アプリで利用できるストアサービスの訴求や強化を進めたい。
Anna Hensel(原文 / 訳:英じゅんこ)