2年前にAmazon参入を進出を果たしたナイキは2019年11月13日、同プラットフォームでの販売を中止する決断を下したと発表した。この決断は、Amazonとブランド間の力関係が変わりつつあることを浮き彫りにした。そしてそれは、Amazonにとっての大きな痛手になる恐れをはらんでいる。
Amazonと決別したナイキ(Nike)の決断は、Amazonとブランド間の力関係が変わりつつあることを浮き彫りにしている。そしてそれは、Amazonにとっての大きな痛手になる恐れをはらんでいる。
2年前にAmazon進出を果たしたナイキは2019年11月13日、同プラットフォームでの販売を中止する決断を下したと発表した。「よりダイレクトでパーソナルな関係を通して消費者体験を高めることへのフォーカスの一環として、ナイキは現在Amazonと共同で行なっているパイロットプログラムの終了を決断した」と、ナイキの広報担当者はCNBCにあてた声明のなかで述べている。
ナイキにとって、Amazonは販売チャネルのひとつにすぎなかったようだ(大きなチャネルではあったが)。しかしAmazonにとっては、ナイキとのパートナーシップは、すべての規模の企業が同プラットフォームで成功できることの象徴であった。D2C(direct-to-consumer:直販)ムーブメントの広がりは、Amazonにいなくても生き延びられることを証明してきた。Amazonは、大手企業ほど同社との提携で成功できることを示す必要があった。Amazonは過去2年間にわたり、他社との協調路線や、直接協働するブランドが受けるメリットをアピールするPRを組織をあげて行なってきた。ナイキがAmazonをテストし、最終的に袂を分かつ決断を下したという事実は、企業は必ずしもAmazonで販売しなくてもいいというメッセージを送っている。
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Amazonの影ならぬ努力
Amazonは大小さまざまなブランドに出店を呼びかけてきた。同社は2017年、販売業者が同サイトでの「オフィシャル感」を高め、偽造品を撲滅するための方法のひとつとして、ブランド登録制を導入した。また、大手ブランドと中小を区別するための特別なタグ(「トップブランド」など)のテストも開始した。何より重要なのは、これはより多くのサードパーティセラーの気を引くための手段でもあったということだ。Amazonは、D2Cムーブメントの広がりをよそに、一貫してこの戦略をとってきた。ジェフ・ベゾス氏は今年5月、株主への書簡のなかで、Amazonの2018年の総売上高の58%(1600億ドル[約17兆3500億円]相当)がサードパーティセラーによるものだったと述べた。「GeekWire」のレポートによれば、Amazonは今年、こうしたサードパーティを支援するためのツールに150億ドル(約1兆6270億円)を投じているという。
大手企業の場合、Amazonに進出すべきかどうかの決断には、可変性の高い数字の計算がともなう。一方、企業各社は顧客がいる場所で顧客をつかまえたいと思っている。Amazonには間違いなく顧客がいる。イーマーケター(eMarketer)の推定によれば、Amazonは2019年、アメリカにおけるオンライン販売の37%以上を占める見込みだという。
とはいえ、この話には裏がある。同プラットフォームで販売を行う企業に対し、Amazonは管理らしい管理を行うこともなければ、データの提供もほとんど行わない。その一方で、入ってくる売上の上前だけは思い切りはねる。モダンリテール(Modern Retail)が小売業者を対象に先日行った調査よれば、Amazonのダッシュボードとセラーサービスに満足している割合はたったの8%だった。Amazonが提供するデータについても同様だった。これらをすべてまとめると、ナイキなどの企業に対して作用するダイナミクスや、ブランド各社がAmazonで直販すべきかどうかといった問題が浮き彫りになってくる。
ナイキの決断で注目すべき点
ナイキの決断が注目に値すべきなのは、同ブランドがAmazonにとって有利なパートナーシップの代表格だったからだ。この動きはおそらく、ほかのブランドで行われている難しい議論の材料になるだろう。ナイキがAmazonでのキュレートされたプレゼンスを獲得する道を選んだのは2017年のことだ。マーケットプレイスパルス(Marketplace Pulse)の創業者であるジュオザス・カジウケナス氏は、この選択によって、ほかのブランドも加わったほうがいいというシグナルが送られたと話す。「それが失敗に終わったいま、結局は逆の例になってしまった。つまり、これら大手ブランドはAmazonで売らないことを選択できるのだということだ」。
大手ブランドがこうした立場でAmazonとの協働を選ぶ理由があるとすれば、それは可視性の向上と関係している。可視性が向上すれば、顧客はもっと簡単にAmazonを見て回って、無数のサードパーティの攻撃にさらされることなく、ほしい商品を見つけることができるだろう。サードパーティの一部が偽造品を販売しているのはほぼ間違いなく、この問題は少しも改善されていないと、カジウケナス氏はいう。「ナイキの製品を求めてAmazonを訪れる顧客にとっては、ひどい5年間だった。それはいまも同じだ」と、同氏は語る。結局のところ、ナイキがAmazonに求めていたのは、よりキュレートされたプレゼンスを生み出すための手段だった。そして、それはうまくいかなかった。「これが示しているのは、Amazon側の革新性の欠如だ」と、カジウケナス氏はいう。
ナイキにとっての問題は、管理の欠如だったようだ。ナイキによれば、同社売上の約30%がD2Cによるもので、この割合の増加を目指しているという。そしてその結果、同社はいま、自社サイトとアプリに投資を行っており、サードパーティからは距離を置いている。ナイキはこうした動きを取れる有利な場所にいるのだ。「ナイキは世界有数のコンシューマーブランドだ」と語るのは、Amazonコンサルタンシーのポディーン(Podean)でCEOを務めるマーク・パワーズ氏だ。「とてつもなく大きなブランドパワーを持っている」
これはつまり、いたるところで消費者をつかまえる必要は必ずしもないということだ。ナイキのスニーカーを手に入れたいという消費者の熱は非常に高い。ナイキのウェブサイトを訪れるという行為は、彼らにとってはためらいを感じるようなことではない。たとえ出荷までに24時間以上待つことになっても、である。したがって、Amazonにとどまる必要性をナイキが感じていないという事実は驚くに値しないと、パワーズ氏はいう。だが、ナイキが他社に送るメッセージは、Amazonの収益にとっては好材料ではない。
近視眼的だと主張する人も
その一方で、ナイキの決断は近視眼的だったと主張する人々もなかにはいる。ワンダーマンコマース(Wunderman Commerce)のマーケットプレイスサービス部門でエグゼクティブバイスプレジデントを務めるエリック・ヘラー氏は「Amazonを離れれば、ブランドはキュレーションを失うことになる」と述べる。ナイキの知名度は抜群かもしれないが、それでも消費者は商品を見つけるためにAmazonに目を向ける。ナイキのようなブランドは「自分たちのブランドに対して人々が持つ唯一無二の見方から恩恵を受けている」とヘラー氏はいう。Amazonのマーケットプレイスが、ナイキが望まないやり方で製品を売る販売業者でひしめくようになれば、ナイキが築いてきた文化的名声のすべてが被害を受けることになるだろう。
ナイキは今回の決断に際して、列挙が難しいブランド認知に関係するいくつかの要因を考慮しなかったのではないかと、ヘラー氏はいう。「自分たちのブランドをAmazonでうまく表現することが持つ、目に見えない価値もそのひとつだ」と同氏は語る。
それが賢明な決断であるかどうかはともかく、ナイキの離脱は他社に、Amazonとのベストな接し方についてのシグナルを送ることになるだろう。誰が敗者なのかはいまの段階ではわからないと、ヘラー氏はいう。「Amazonにはナイキが必要である以上に、ナイキにはAmazonが必要だと、私は思う」。それに対して、カジウケナス氏は別の見方をしている。「Amazonにはナイキが必要であっても、ナイキにAmazonは不要だ」。
Cale Guthrie Weissman (原文 / 訳:ガリレオ)