ナイキ(Nike)の本格的なデジタル戦略の全貌が明らかになりつつある。同社は不要な卸売りパートナーとの関係を断ち切り、販売とエンゲージメントを自らのチャネルに移す試みを続けている。実際、これは大半のブランドが求めていることなのだが、ナイキはとりわけ実現するにあたって有利な立ち位置にある。
ナイキ(Nike)の本格的なデジタル戦略の全貌が明らかになりつつある。
アナリストのサム・ポーザー氏は8月24日のリサーチノートには、ナイキがザッポス(Zappos)やディラーズ(Dillards)、ボブスストア(Bob’s Store)といった小売パートナーとの提携を打ち切りを進めていると書かれている。
ナイキはBusiness Insiderを通じ、「当社は現在、ナイキ・デジタル(Nike Digital)および直営店、そして少数の戦略的パートナーとともにコンシューマーダイレクト・アクセラレーション(CDA)プログラムに向けた取り組みを強化している。パートナー企業はいずれも、モダンで一貫性があり、つながりのあるショッピング体験を生み出すというビジョンを当社と共有している」と述べている。
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多くのブランドが求めていること
同社の小売パートナーの大半は規模としてはさほど大きくないが、ナイキのデジタル戦略と歩調を合わせている。この戦略のもと、同社は不要な卸売りパートナーとの関係を断ち切り、販売とエンゲージメントを自らのチャネルに移す試みを続けている。実際、これは大半のブランドが求めていることなのだが、ナイキはとりわけ実現するにあたって有利な立ち位置にある。
同社は以前からオンラインへの移行を目指してきた。ここ数年、ナイキは小売パートナーへの依存度を下げ、D2Cチャネルに力を入れてきた。ゆっくりと、しかし確実に、同社は卸売パートナーを切り捨てながらD2Cチャネルへと軸足を移してきたのだ。たとえば昨年、ナイキはカスタマーとの直接的なつながりを重視するため、Amazon上の販売を取りやめると発表している。だからこそ今回の、ナイキとAmazon子会社のザッポスとの取引中止は、さほど驚くことではない。
それでも小売業界にとっては、同社の不要なパートナーを切り捨てるという決定がもたらす影響は少なくない。小売アナリストのレベッカ・コンドラト氏は、「一部のトップを除いて、百貨店が卸売りで苦戦しているのは明らかだ」と語る。ナイキをはじめ、ブランドが他社の店舗で販売する目的は露出とカスタマー獲得を増やすことにほかならない。今やどの百貨店も客足の大幅な減少に苦しんでいる。そしてナイキを含むブランド商品販売においてディラーズなどの店舗が取るマージンは大きく、40%に達することも珍しくない。これでは提携の魅力が薄れるのも当然だ。
実際、卸売の提携関係を見直しを検討しているブランドは多い。「D2Cブランドの創業者たちに聞いても、卸売りには一切興味を持っていないというのが現実だ」とコンドラド氏は語る。メイシーズ(Macy’s)やJCペニー(JCPenney)といった実店舗の大苦戦を目の当たりにしたD2Cは、ほかのやり方を探しているのだ。なかでも多く見られるのが、自社での小売となっている。コンドラド氏は、都市部のポップアップ店舗にしても、パンデミックによって安くすむ場合が多いと指摘する。
多くのブランドにはない強み
一方、ナイキのD2C事業はすでに大規模かつ右肩上がりで成長を続けており、これはほかの多くのブランドにはない強みとなっている。同社の前四半期の業績報告によれば、収益は38%減となったものの、デジタル収益は75%増で総収益の3割を占めるまでに成長している。
同社の全体戦略は、店舗を増やしつつ、オンライン販売の需要拡大を活かすことにあるようだ。ナイキの消費者およびマーケットプレイス担当プレジデントを務めるハイジ・オニール氏は、昨年5月に米DIGIDAYの姉妹サイト、モダン・リテールに対して「デジタル体験の構築が重要な焦点となっている」と述べている。「当社ははるか前から、コネクテッドな体験やサービス、アプリからなるプラットフォームの構築に努めてきた。当社にとってこれは事業戦略の中核をなしている」。
同社はこれに付随して、小売パートナーとの提携を徐々に打ち切っている。eマーケター(eMarketer)の主席アナリスト、アンドリュー・リップスマン氏は「ナイキはいくつかのチャネルにおいて再び優位な力関係に立とうとしている」と述べている。「同社は複数チャネルの優先順位を決めようとしているのではないか。ナイキのブランドが希薄化してしまうチャネルや、逆に利益を最大化できるチャネルを見極めようとしているはずだ」。
「愛されているブランドだからこそ」
オンラインで購入する消費者が増えており、付随する小売チャネルの利用が減っている現在、同社の動きはタイミングとして理にかなっているともいえる。とはいえ、綿密な準備なしに実施するのは困難な戦略であることも確かだ。
その点、ナイキにはこういった取り組みができるだけのベースがある。リップスマン氏は次のように述べている。「ナイキはカスタマーとのつながりが強く、愛されているブランドだ。ナイキであれば、おそらくカスタマー体験もコントロールできるだろう」。
[原文:Nike’s all-in bet on going direct is a blow to the middle tier of wholesalers]
Cale Guthrie Weissman(翻訳:SI Japan、編集:長田真)