ナイキ から国内リテーラーへ「これまでにない厳しい」通達:「パートナーとして相応しいか問われている」

ブランドからリテーラーに対する連絡は珍しいことではないーー重要なのはその内容だ。単なる挨拶や契約内容の確認であればいいが、2020年2月ごろとある日本国内のリテーラーのEC部門にナイキ(Nike)から送られて来た通達は違ったようだ。匿名で答えた担当者は、「ナイキから同社と顧客との関係を阻害することのない購入体験や環境を実現するよう、我々のECサイトを速やかに改修してほしいとの通達があった」と明かした。

近年、消費者とのダイレクトな関係構築に力を入れているナイキらしい要望だが、担当者は「これまでにない厳しい姿勢」だと語る。「改修すべきだと指摘されている項目は多数あり、対応期限もあまり先ではない時期に明確に設定されている。そして、期限までに対応できない場合、今後ナイキ製品を取り扱うことが難しくなる可能性も示唆されている」。

「ナイキと同じ視点が求められている」

前述の担当者は「ナイキはブランドロゴの使用方法や広告表現のレギュレーションが厳格で、運用担当者やアートディレクターに対し各種通達が送られてくることはあった」とし、続ける。「今回もそうした通達の一貫だと考えていたが、内容を確認するとまさしく会社全体に衝撃が走った。上層部も何が起きたのか理解できず、繰り返し確認するように求められたほどだ」。

通達の詳細な内容は明かせないとされたものの、端的にまとめると「ECサイトのUIやUXをナイキが求めるレベルにまで高めるように」という趣旨だという。担当者の説明によると、ECサイトをユーザー目線で評価した詳細なレポートが示されており、多数の項目がスコアリングされているようだ。各項目にナイキが求めるスコアが設定されており、未達の部分に改善要求が出されている。「我々が求められているのはナイキと同レベルの視点だ。ナイキと顧客の関係を阻害しない体験を提供するように求められている。もし対応できなければナイキのプロダクトを取り扱うのにふさわしいリテーラーではないと見なされるだろう」。

改善が求められているのはフロントエンドのみならず、バックエンドにまで及んでいるという。「我々のセクションが頑張ればなんとかなるというレベルではないのが問題だ。新たにバジェットも必要になり、リソースも確保しなければいけない。正直なところ時間もあまりない。しかし、我々としてもナイキは重要なパートナーだと考えているし、何としても対応しなければならない」。

いくつかのリテーラーにコメントを求めたものの明確な回答はなく、今回の通達の「範囲」がどの程度なのかは不明だ。前述の担当者によると実店舗は対象外となっている。自社ECサイトを保有するリテーラーが対象だと推測されるが、その構成やカテゴリーは不明。現時点ではECモールやプラットフォームに対しても何らかのアクションがあったのかも把握できていない。

「ブランドの求めるレベルは上がっている」

ナイキは2017年に「コンシューマー・ダイレクト・オフェンス(Consumer Direct Offence)」と呼ばれる新戦略を発表して以降、デジタルを活用し、これまで以上に消費者と密接につながる場・関係性の構築を推し進めて来た。自社ECや店舗に加え、NIKEアプリ、Nike SNKRSアプリ、Nike Run Clubアプリなどのアプリを活用しかつてない規模のD2C的アプローチとマーケティング戦略に取り組んでいる。

2019年になるとその動きは加速し、ナイキとリテーラーの関係にも大きな変化が起きた。11月にはAmazon上での販売を中止。Hyepebeastによればリテーラー各社に自社プロダクトの国際的な出荷を禁止する契約の遵守をリマインドしており、実際に2020年1月1日以降アメリカやEUに拠点を置くリテーラーのECサイトには、指定居住地以外(アメリカ国外やEU圏外)に配送できない旨が注意文として記載されているサイトもある。

匿名を条件に回答したファッションリテーラーでブランド商品管理を担当しているマネージャーは「弊社にはナイキからの通達はなかったようだ」としながらも、ナイキに限らず、ブランドからリテーラーへの要求は徐々にそのレベルが上がって来ていると感じていると指摘する。「もともと一定の規模感のあるグローバルブランドは、たとえリテーラーのECサイトであってもブランディングに強いこだわりを見せる傾向があったが、最近はプロダクトの流通も含めてブランドがより積極的にコントロールし、自分たちが主役となって顧客との関係を構築を進めていく動きが進んでいると感じている」。

立ち位置の見直しが必要

「ナイキが先行しているためにその取り組みが目立っているのかもしれないが、程度の違いはあれ他の多くのブランドも同様の動きを見せているはずだ」と前述のマネージャーは指摘する。たとえばナイキによる国際的な出荷の禁止も、同社の進める地域や店舗を限定した販売戦略をより洗練させるものだが、同じスポーツブランドであるアディダス(Adidas)も人気シリーズであるスニーカー「Yeezy(イージー)」の地域・店舗限定販売をはじめている。

「ブランドは自分たちの戦略に照らし合わせて、リテーラーを選んでいる。ハードルが上がることはあっても下がることはないだろう」と、マネージャーは続ける。「物好きな一部のブランドだけの話だとは思わない。人気のあるブランドは消費者に支持されている。より支持されるためには、もっと消費者と向き合うべきだと考えるだろう。我々も人気のあるプロダクトを扱えなければ、消費者に支持されなくなる。この状況下で、単にデジタル上で売り場や棚を提供しているだけのリテーラーは生き残れない」。

ショップの知名度やユーザー数、利便性のアピールも顧客とダイレクトにつながる以上の価値がないと判断されれば、ナイキとAmazonのように関係は終了するだろう。「レガシーブランドだけでなく、新進気鋭のブランドも同じような考えになりつつある。最近はブランドからの丁寧な連絡を受け取るたびに緊張する。常に『あなた方の価値はなんですか? 本当に我々のパートナーの相応しいのですか?』と問われている気分だ」。

Written by 分島翔平